梨状筋症候群(りじょうきんしょうこうぐん)
 


 
(1)病態

 梨状筋は、お尻の中央部の仙骨から、大腿骨の頚部に伸びており、股関節を外旋させ、足先を外に向ける働きをしています。他方、坐骨神経は、骨盤から出てきた後に梨状筋の下部を通過します。

 梨状筋の中を走行する坐骨神経が、交通事故外傷などで、臀部を強烈に打撲するか、股関節捻挫により、圧迫、絞扼されることにより、坐骨神経痛を起こし、臀部の疼痛、坐骨神経の走行領域の下肢に放散する疼痛やしびれをきたす疾患のことを梨状筋症候群と呼んでいます。坐骨神経の、絞扼性神経障害です。
 
(2)症状

 主たる症状は、臀部痛と座骨神経痛、間欠性跛行であり、数分の歩行で両足または、片足全体に痛み、しびれなどが出現し、歩けなくなるのですが、しばらく休息すると、再び歩行ができるのですが、これを繰り返します。症状的には、腰椎椎間板ヘルニアによる根性坐骨神経痛と酷似しており、以下の鑑別診断が行われています。
 
① 梨状筋郡、坐骨神経に圧痛があり、チネル徴候が陽性で放散痛を再現できること、
 
② 臀部打撲などの外傷が認められ、坐位や特定の肢位、運動で疼痛が増強すること、
 
③ 圧痛が局所麻酔の注射で消失、または軽減すること、
 
④ ラセーグは陰性、誘発テストであるKボンネットテストが陽性であること、

Kボンネットテスト

 
⑤ 神経症状は腓骨神経領域に強いこと、
 
⑥ 腰椎疾患が除外できること、
  
 ヘルニアが、腰部の神経根を圧迫すると根性坐骨神経痛が起こるとされており、腰椎に椎間板ヘルニアが認められるときは、ヘルニアによる坐骨神経痛という診断が優先されます。
 
(3)治療

 治療方法は、保存療法が中心です。安静が指示され、非ステロイド系抗炎症剤や筋弛緩剤、ビタミンBの内服で痛みを緩和され、梨状筋ストレッチのリハビリが行われています。

 これらで改善が得られないときは、神経ブロック、梨状筋ブロック療法が実施されています。神経ブロック療法でも効果が得られないときは、脊椎の専門医による梨状筋切離術となりますが、1例の経験もありません。
 
(4)後遺障害のポイント
 
Ⅰ. 先の症状を訴えても、ほとんどの整形外科医は、座骨神経痛や腰椎椎間板ヘルニアと診断し、MRIの撮影は指示しても、その後は放置することが一般的です。
 
Ⅱ. 放置されても、自然治癒すれば問題はないのですが、重量物を扱う仕事や中腰作業で腰部に大きな負担がかかる仕事、肥満の被害者では、症状は悪化します。
 
Ⅲ. かつての相談会では、杖をついて参加される被害者もおりました。受傷機転を確認、MRIをチェックしてヘルニア所見が認められないときは、医師ではありませんが、私が梨状筋症候群を疑います。
 
Ⅳ. 疑いから、治療先に同行、梨状筋症候群の可能性を説明し、後遺障害診断を受けます。
 
 とっくに、6カ月以上を経過しており、今さら、梨状筋ブロックや切離術は選択しません。先に、後遺障害等級を申請し、その後の健康保険による治療で改善を目指します。等級は、14級9号12級13号の選択です。
 
 事故直後から、先の症状を訴えていれば、
 
① 梨状筋郡、坐骨神経に圧痛があり、チネル徴候が陽性で放散痛を再現できること、
 
② 臀部打撲などの外傷が認められ、坐位や特定の肢位、運動で疼痛が増強すること、
 
③ 圧痛が局所麻酔の注射で消失、または軽減すること、
 
④ ラセーグは陰性、誘発テストであるKボンネットテストが陽性であること、
 
⑤ 神経症状は腓骨神経領域に強いこと、
 
⑥ 腰椎疾患が除外できること、
 
 上記の6つを丹念に立証していくことにより、等級は認定されています。腸骨や腰椎に骨折がなく、単なる腰椎捻挫の診断名からのスタートでは苦戦必至です。毎度、事故外傷との因果関係に疑いをもたれる症例ですから、専門医の受診を急ぎ、計画的に立証していく必要があります。
 
 梨状筋症候群は、骨折や脱臼を伴うものではないので、神経系統の機能と精神の障害でも取り上げる予定です。
  
 次回 ⇒ 脛骨顆部骨折・プラトー骨折