大腿骨転子部・転子下骨折(だいたいこつてんしぶ・てんしかこっせつ)
(1)病態
従来、関節包の内側骨折を大腿骨頚部内側骨折、関節包の外側骨折を大腿骨頚部外側骨折と2つに分類していたのですが、最近では、欧米の分類にならって、関節包の内側骨折を大腿骨頚部骨折とし、関節包の外側骨折を大腿骨転子部骨折、大腿骨転子下骨折と3つに分類しています。
大腿骨転子部骨折は、足の付け根部分の骨折であり、交通事故では、自転車・原付VS自動車の衝突で、自転車・原付の運転者に多発しています。高齢者の転倒では、橈骨遠位端部、上腕骨近位端部と大腿骨頚部・転子部の骨折が代表的です。
(2)症状
転子部・転子下骨折では、事故直後から足の付け根部分に激しい痛みがあり、立つことも、歩くこともできません。骨折折の転位が大きいときは、膝や足趾が外側を向き、外観からも、変形を確認できます。
(3)治療
単純XP撮影で、大腿骨転子部に骨折が見られ、確定診断となります。安定型、不安定型のどちらであっても、早期離床を目的として、ほとんどで、手術が選択されています。早期の手術、早い段階からリハビリテーションで、起立、歩行ができるように治療が進められています。大腿骨転子部骨折は、頚部骨折に比べて血液供給のいい部位であり、骨癒合は比較的順調です。
安定型では、手術侵襲の少ないエンダー法ですが、転位が激しいときは、CCHS固定(コンプレッションヒップスクリュー)により、オペが実施されています。
(4)後遺障害のポイント
股関節の機能障害と痛みが後遺障害の対象です。転位の少ない安定型の骨折で、被害者が若年者であれば、ほとんどで、後遺障害を残しません。しかし、骨折の形状、骨癒合の状況によっては、機能障害や痛みの残存が予想されます。傷病名で後遺障害等級が決まるのではなく、骨折の形状と、その後の骨癒合、そして症状固定時期が、重要なポイントになることを覚えておくことです。
Ⅰ. 癒合状態、人工関節に問題ない場合
それでも、痛みや不具合が残るものです。その場合、おなじみの神経症状、14級9号を確保したいところです。問題は、人工関節置換術後、術式の成功を誇る執刀医が「後遺症なく治療できた」と自負していることです。その医師に対して、後遺障害診断書の記載を依頼するのですから、患者には高度な折衝力が求められます。それに挫折した被害者さんから、秋葉事務所へのご依頼が後を絶たないことになります。
14級だけしか認めてくれなかった事例 👉 14級9号:大腿骨転子部骨折(80代女性・山梨県)
Ⅱ. 機能障害=可動域制限が残る場合も
骨折様態や予後の癒合状態、それが可動域制限に影響あると判定された場合、可動域制限の等級は左右差3/4以下の12級7号が認定されます。認定経験はありませんが、1/2以下制限なら10級11号となります。直接、股関節のジョイント部となる大腿骨頚部・骨頭に比べ、転子部は可動域に影響するケースは少ないと言えます。
可動域制限の実例 👉 12級7号:大腿骨転子下骨折(60代男性・愛知県)
Ⅲ. 人工骨頭、人工関節の置換術
人工関節置換術を施行した場合、10級11号が確定されます。人工関節では、脱臼予防の観点から関節の可動域には一定の制限が指導されているのですが、結果、股関節の可動域が2分の1以下の制限となれば、8級7号が認定されます。破壊的、挫滅的な骨折でもない限り、2分の1以下になることは、考えられません。
◆ 人工関節の弛み、耐久性などについて?
「主治医より、耐久性が15年と言われており、将来の再置換術にどう対応したらいいのか?」、人工骨頭、人工関節置換術では、決まって、このような相談が行われます。医師は、予後については、責任を回避する必要から、やや大袈裟に説明する傾向です。
昭和50年当時は、人工関節の材質としてポリエチレンが使用されており、短期間での摩耗や、置換後の骨との緩みが問題となっていました。しかし、現在では、材質は超高分子量ポリエチレン、骨頭についてはセラミックが使用されており、耐久性についても15~20年と報告されています。
そこで、自賠責保険は、人工関節置換の等級を8級7号から10級11号に格下げしているのです。人工関節を長持ちさせるには、重労働や過度の運動を慎み、肥満の防止や、補助的に杖を使用するなどの努力を継続しなければなりません。その前提であれば、耐用年数については、過剰に心配することもありません。
また、将来、人工骨頭や人工関節の再置換が必要となったとき、労災保険には再発申請があります。通常、交通事故で相手に保険会社が存在する場合、労災の使用は抑制的になります。しかし、本例のような骨折事案では、積極的に労災を使用すべき理由がここにもあるのです。
労災の再発申請 👉 労災での治療について その3 再発について
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