TFCC(Triangular Fibrocartilage Complex = 三角線維軟骨複合体)

 TFCCは、尺骨三角骨靭帯、尺骨月状骨靭帯、掌側橈尺靭帯、背側橈尺靭帯、関節円板、尺側側副靱帯、三角靱帯の複合体です。

(1)病態

 TFCCは、手関節の小指側、橈骨・尺骨・手根骨の間に囲まれた三角形の部分にあり、橈尺骨のスタビライザーの役目、回内・回外時の尺骨遠位端のクッションやベアリングとして働いています。TFCCは、関節円板といわれるもので、骨では硬すぎるので、成分は、三角線維軟骨複合体で、膝の半月版に相当する軟骨組織です。交通事故で転倒した際に、手をつくことで多発しています。

 実際に、事故直後にTFCC損傷と診断され、サポーターやギブス固定、さらには関節鏡視下手術により改善が得られる被害者の方は、一握りです。TFCCは三角線維軟骨複合体であり、XPで確認できません。ドアノブを回す際や、窓ふきで尺屈(小指側に曲げる、バイバイの動き)で激痛に気づきます。

 また、TFCC部が切れたり、はがれた場合、尺骨の骨頭(手首の小指側)が前後にぐらぐら動く(動揺性)も2例、経験しています。


 
(2)治療

 現在、専門医であれば治療法は確立されています。TFCC損傷と診断されたときは、受傷直後は、安静、消炎鎮痛剤の投与、サポーターやギブスなどを用いて手関節を保存的に治療します。この治療で70%の被害者の方は改善が得られています。サポーターやギブスによる固定療法は、原則として3ヶ月であり、3ヶ月が過ぎても症状が改善されないときは、手術が適用されています。

 高齢者では、経年変化でTFCCが摩耗している方も多く、手術が不可能なこともあります。手関節にステロイド注射を行う治療法もありますが、関節内にステロイドを注入すると軟骨を痛めることがあり、MRIで十分に評価をした上で注入されています。

 手術の多くは、関節鏡視下手術により、損傷等した靱帯やTFCCの縫合・再建術や滑膜切除術が実施されます。

 また、尺骨突き上げ症候群と言って、尺骨茎状突起がTFCC部に下から突き上げることで痛みを発症するケースがあります。この場合、尺骨を橈骨と同じ高さにする尺骨短縮術が行われます。物理的に尺骨がTFCCを突き上げないように尺骨を短くするのです。

 ゴルフや野球などプロアスリートにも手術例があります。術後、日常生活では問題はなくとも、アスリートの場合は従前の状態に完全に戻らないことも少なくありません。武蔵丸が引退した原因とも言われています。以下、秋葉事務所では何例も経験しています。
 
 縫合術の例 👉 14級9号:TFCC損傷(30代女性・東京都
 
 骨切術の例 👉 非該当⇒14級9号:TFCC損傷 異議申立(40代男性・神奈川県)
 
(3)後遺障害のポイント 
 
 見逃されやすい、後遺障害が否定されやすい症例です。
 
Ⅰ. 受傷直後から小指側の手首の痛み、手関節の可動域制限(あるいは動揺性)、握力低下を主治医に訴えていたかがポイントです。これらの自覚症状がカルテに記載されている場合、TFCC損傷を立証すれば、間に合います。記載がなくても、2ヶ月であれば、主治医も修正に応じてくれる可能性があります。

 しかし、4ヶ月以上が経過していれば、「非該当」まっしぐらです。毎度のことですが、事故との因果関係が疑われます。以前から仕事で手首を酷使して、TFCCが痛んでいる方もいるからです。数年前、名古屋地裁でTFCC損傷と交通事故の因果関係が否定されました。初診から4ヶ月通院した整形外科の医師が、頑としてTFCC損傷を否定したからです。損保料率算出機構調査事務所も、因果関係で非該当としています。

 また、これは本人の責任ではないのですが、最近、尺骨茎状突起が生まれつき長い方を見ました。審査中ですが、結果が待たれます。
 
Ⅱ. TFCC損傷の主訴と言える尺屈の可動域制限だけでは、機能障害の等級に至りません。橈骨・尺骨や手根骨の骨折が複合的に重なるケースでは、屈曲・背屈で可動域制限で認定を取っています。構造上、肘関節の回外運動でも尺骨の突き上げが起こるので、回外の可動域制限も注目しています(認定例はありませんが)。

 また、TFCC部が尺骨からはがれて、尺骨頭がぐらぐら動く、つまり、手関節の動揺性で12級6号の立証に成功した例も付け加えます。


 
 機能障害に引き上げた実例 👉 12級6号:TFCC損傷 異議申立(40代男性・神奈川県)
 
 尺骨頭がぐらぐらの実例 👉 個人賠償12級6号:TFCC損傷(50代女性・埼玉県)
 
Ⅲ. 残るは、手術後の痛み・不具合で14級9号「局部に神経症状を残すもの」を取ります。TFCCに器質的損傷が明らかであれば、12級13号も視野に入りますが、多くは手術で改善となるはずです。
 
 穏当に14級で収めた実例 👉 個人賠償14級9号:TFCC損傷(50代女性・静岡県)
 
 例外的に手術後に12級の実例 👉 12級13号:TFCC損傷 異議申立(30代男性・宮城県)
 
Ⅳ. 労災12級、自賠責14級の傾向

 自賠責は、画像から後遺症の残存を検討します。医師の診断名がTFCCだからと言って、それが画像上明瞭でなければ、あっさり否定されます。例えば、縫合や骨切りなど手術をしたものは、信用してくれるのでしょうか、等級がつきます。実は、手術なく、本人が痛いと言っているだけでは14級9号も危ないのです。対して、労災は、顧問医の診察から、症状を直接診ることから認定してくれる傾向です。

 弊所では、TFCC損傷を受任すると、「労災12級、自賠責14級」の結果を予想して進めることが多いのです。
 
 毎度のパターン 👉 労災12級6号:TFCC損傷(30代男性・山梨県)
  
◆ 日本手外科学会でも、鏡視下での手術は高度な技術が要求されること、そして、TFCC損傷の手術を行える専門医が少ないことを問題提起しています。秋葉事務所でも、この症例含め手関節に対処できる病院・医師が少なく、心もとないのです。慶応のN先生はやや第一線を退き、八王子のY先生はお亡くなりになり・・・最近は千葉のT先生に頼っていいます。
 
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