月状骨脱臼 (げつじょうこつだっきゅう)
(1)病態
手首の付け根の骨は、8個の小さな手根骨で構成されています。これらの手根骨は2列に並んでおり、1列目は親指側から、舟状骨・月状骨・三角骨・豆状骨、2列目は、大菱形骨・小菱形骨・有頭骨・有鉤骨と呼びます。これらの手根骨はお互いに関節を作って接しており、複雑な靭帯で結合されています。
月状骨は、右手の背側では、舟状骨の右隣、有鈎骨の下部に位置しています。手根骨の脱臼では月状骨が圧倒的多数で、月状骨周囲脱臼と呼びます。手のひらをついて転倒した際に、月状骨が、有頭骨と橈骨の間に挟まれてはじき出されるように、手のひら側に転位・脱臼します。月状骨と橈骨の位置関係は正常ですが、月状骨とその他の手根骨との関係が異常となって背側に転位するもので、しばしば見逃されるので、注意しなければなりません。
月状骨周辺の橈骨遠位端骨折、舟状骨骨折を伴うこともあります。
(2)治療
疼痛、運動制限、圧痛、腫脹を発症し、脱臼した月状骨が手根管圧迫や突出したときは、手根管症候群を生じることがあります。単純XPの側面画像で、月状骨が90°回転しているのが分かります。
徒手整復が治療の中心ですが、整復できないケースや、再発予防・手根管症候群予防の必要から、手術を選択し、靭帯の縫合なども実施されています。近年、手根不安定症の発症を防止する観点から、手根骨間の徒手整復経皮的ピンニング(切開をしないで徒手で転位した手根骨を整復し、皮膚の外からワイヤーで固定する方法)や観血的靭帯縫合(切開手術で転位した手根骨を整復し、ワイヤーで固定、損傷した靭帯を縫合する方法)が積極的に実施されています。
(3)後遺障害のポイント
Ⅰ. 手根骨の脱臼は、骨折以上に見逃されることが多いので注意しなければなりません。やはり、立体的に視認が可能である、3DCTが有用です。
Ⅱ. 後遺障害について
骨折と違い、手根骨の脱臼は可動域制限が生じやすいようです。左右手関節の可動域について、計測を行いますが、極端な可動域制限に至らないと思います。計測の際は参考運動もぬかりなく計って下さい。主要運動のいずれかが2分の1+10°であっても、参考運動のいずれかが、2分の1以下に制限されていれば、10級10号の認定となると考えられます。
次回 ⇒ 舟状・月状骨間 解離