肘内側側副靱帯損傷 (ひじないそくそくふくじんたいそんしょう)
 
(1)病態

 肘関節は、上腕と前腕を連結しており、上腕骨、橈骨、尺骨の3本の骨で構成されています。前腕部の内側、小指側に尺骨、外側、親指側に位置するのが橈骨です。肘関節の両側には、肘関節が横方向に曲がらないように制御している側副靭帯があります。内側側副靱帯は、上腕骨と前腕の内側にある尺骨を、外側側副靱帯は、上腕骨と前腕の外側にある橈骨をそれぞれ連結しています。

 交通事故では、自転車、バイクからの転落で手をついたときの衝撃が肘に作用して、内側側副靱帯を損傷しており、肘関節脱臼に伴うものと単独損傷の2種類があります。内側側副靭帯損傷の症状は、受傷直後から肘の激痛と腫れが出現し、激痛のため、肘関節を動かすことができなくなります。

 上腕骨内側上顆の下端に圧痛が認められ、外反位で疼痛が増強し、不安定性が認められます。XPでは判別が難しく、MRI、エコー検査で確定診断がなされています。
 
(2)治療

 治療は、2、3週間ギプス固定が行われ、その後は、ギプスをカットし、リハビリ運動が始まります。外側側副靭帯損傷は、肘関節の脱臼に伴うものがほとんどですが、受傷後、時間が経過してから、肘の引っかかり感、外れそうになる感じ等が問題となります。

 後外側回旋不安定テストを行い、肘が外れそうな感じ、クリック音を調べます。小児の上腕骨外側上顆剥離骨折を伴う外側側副靭帯損傷では、骨片の整復固定術が必要です。

 陳旧性の外側側副靭帯損傷に対しては、靭帯再建術が実施されています。内側側副靭帯損傷は、野球の投球動作の反復によっても生じます。ボールを投げるとき、特に加速をつけるときは、肘の内側を伸ばす不自然な動作を行います。それに伴って、内側々副靱帯は引き伸ばされることになります。投球動作の反復により、内側々副靱帯は引き伸ばされ続け、肘に対する負担が大きくなり、側副靱帯が部分断裂するのです。ピッチャーにとっての職業病と言えます。
 
◆ トミー・ジョン手術とは?

 大谷選手やダルビッシュ選手が実施したことで、日本でも有名な術式になっています。1974年、フランク ジョーブ博士が、ドジャースのピッチャー、トミー・ジョン選手の内側側副靱帯の断裂に対して行った術式が、名前の由来です。この手術後、トミー・ジョン選手は、170勝し、年間20勝以上を2回、果たしました。現在、TJ術は、アメリカスポーツ医学研究所のジェームズ・アンドリュース医師が第一人者です。TJ術とは、部分断裂した内側側副靱帯を摘出し、長掌筋腱を移植する術式です。

 長掌筋は、手首を曲げる役目を果たしていますが、同じ働きを持つ筋肉は他にもあり、長掌筋を外しても、問題を残しません。握り拳では、手首に腱がむき出しとなるのですが、この腱が長掌筋の腱です。再建した靱帯の定着に時間がかかり、術後は、長期のリハビリが必要となり、復帰には1年以上を要しますが、すでに、800人以上の大リーガーがこの手術を受けており、リハビリの技術が向上したところから、成功率も90%を超えています。
 
(3)後遺障害のポイント

Ⅰ. 交通事故外傷の内側側副靱帯損傷は、軽度から中等度であれば、テーピングや短期間のギプス固定を行った場合、リハビリ期間も含めて3ヶ月もあれば、後遺障害を残すことなく治癒しています。強烈な打撲で、靱帯が引きちぎられたときでも、靱帯縫合、ギプス包帯、その後のリハビリで改善が得られ、後遺障害を残すことはありません。
  
Ⅱ. 内側側副靱帯損傷が確定診断され、ギプス固定がなされたときでも、その後リハビリを促されず放置されたときは、肘関節の拘縮で機能障害を残すことがあります。理論的には以下、12級6号、10級10号、8級6号の選択となりますが、可動域制限が残ることはレアケースと思います。およそ、リハビリで改善させることが普通です。


 
Ⅲ. 痛みや不具合が残った場合、毎度の神経症状で検討されます。靭帯損傷の画像所見が曖昧でも、症状の一貫性から14級9号の可能性が残ります。逆に言いますと、画像所見が明瞭ではない場合、症状を訴えても簡単に等級認定はありません。
   
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