変形性肘関節症 (へんけいせいちゅうかんせつしょう)
 
(1)病態

 上肢には、肩関節、肘関節、手関節の3大関節があり、どの関節でも、交通事故による脱臼や骨折を原因として、二次性の変形性関節症が予想されます。

 肘関節は、上腕骨、橈骨、尺骨の3つの骨で構成されているのですが、見た目の印象では、上腕骨と尺骨で肘関節が形成されています。医学的には、上腕骨遠位と橈骨頭との腕橈関節、上腕骨遠位と尺骨との腕尺関節、橈骨と尺骨の近位橈尺関節で3つの関節を形成していると説明されていますが、橈骨頭は寄り添っているだけです。

 肘関節の外傷では、肘関節脱臼、上腕骨顆上骨折、上腕骨外顆骨折、橈骨頚部骨折、肘頭骨折などを原因として、変形性肘関節症に発展することがあります。肘関節の変形が進行するにしたがって、肘部に痛みを発症し、また関節の動きが制限され、肘の曲げ伸ばしが困難となり、食事、洗顔、洗髪、衣服を着る、お尻を拭くなど、日常生活で大きな支障が発生します。変形に伴って、肘の内側部で尺骨神経が圧迫され、手の力が入りにくくなったり、小指と薬指にしびれなどが生じたりする尺骨神経麻痺も十分に予想されます。

 通常は、肘部の軟骨が関節面を覆っていて、肘にかかる衝撃を和らげています。変形性肘関節症では、軟骨が摩耗し、骨が関節面に露出しています。内側部では、骨棘(※)が出現します。XPで骨棘がはっきり認められるときは、変形性肘関節症と確定診断されます。骨棘は、棘状に出っ張っており、肘関節の動きを制限し、さらに進行すると、骨棘が欠片となり、関節内の遊離体となって、ときに引っかかり、ロッキングの原因となります。

※ 骨棘とは、関節面の軟骨が硬化、骨化して棘のようになったもので、関節面周辺にできる変形性関節症の特徴的な所見の1つです。
 
(2)治療

 初期段階では保存的治療であり、安静の指示があり、非ステロイド系抗炎症剤を処方されて、温熱療法、肘のストレッチ、周辺の筋力を強化するリハビリが行われます。肘関節の変形や不安定性がみられるときは、肘関節装具の着用が指示されています。症例によっては、肘関節内に鎮痛剤、局所麻酔剤、ステロイドなどの注射が試みられます。

 保存的治療が有効でなく、日常生活動作に不自由を来たす症例では、手術が選択されます。関節遊離体摘出術、肘関節形成術、人工肘関節置換術などがあります。XPでは、肘関節の変形や骨棘形成、関節裂隙の狭小化が見られます。
 
◆ 関節裂隙の狭小化と医師の診断

 関節部の軟骨はXPには写らず、関節の隙間が軟骨の厚さを示しています。この隙間は個人差がありますので、やはり左右差で判断します。経験の浅い医師に関節の不調を訴えても、ケガをした側の肘しかXPを撮りません。秋葉から両方の撮影をお願いしても、「ケガをしていない方のXPなど、過剰医療なので撮りません」と難色を示されました。毎度、医師の説得に苦労しています。

 町の整形外科では、膝関節症の判断ができないことが普通で、ずるずると様子見が続く傾向です。スポーツ外来や上肢の専門医であれば当然のように左右を撮影し、その差を比較・検討します。医師を選ぶのも患者の責任です。一早く、専門医に相談すべきと考えています。
 
(3)後遺障害のポイント
 
Ⅰ. 挫滅的な肘関節脱臼や上腕骨顆上骨折、上腕骨外顆骨折、橈骨頚部骨折、肘頭骨折などの合併により、症状固定段階ですでに変形性肘関節症となっているものがあります。このケースでは、肘関節部の3DCT、MRI撮影により、変形性を具体的に立証します。肘関節の可動域制限で、機能障害としての後遺障害を獲得します。

 その可動域制限に応じて、12級6号、10級10号、8級6号の選択となります。


 
Ⅱ. 肘関節が人工骨頭や人工関節に置換されたときは、10級10号が認められます。
  
◆ 肘関節脱臼や上腕骨顆上骨折、上腕骨外顆骨折、橈骨頚部骨折、肘頭骨折の傷病名で、12級6号レベルの可動域制限が認められているものの、骨癒合状況から、近い将来に変形性肘関節症に発展する可能性が予想される場合があります。このようなケースの場合、示談書に「今後甲に、本件事故が起因する変形性肘関節症を発症したる際は、甲乙間において別途協議を行うものとする。」との条項を加えなければなりません。

 さらに、後遺障害診断書の写し、示談書、受傷時のXP、その後に撮影されたCT、MRI画像の収録されたCDについても、厳重に保管しておかなければなりません。
 
 部位は違いますが、膝関節でまず12級7号を取り、2年後の悪化で人工関節となった被害者さんに、10級10号を再請求にて認定させました。先の悪化の予想から示談を遅らせ、後遺障害の再申請を予定していました。
 
 その例 👉 12級7号⇒10級11号:脛骨近位端骨折 人工関節 異議申立(40代男性・静岡県)
 
Ⅲ. 痛みや不具合が残った場合、毎度の神経症状で検討されます。継続治療によって可動域制限は回復されたが、骨折部の変形、関節面の不整が残った場合は12級13号です。画像上、骨癒合が正常で、とくに変形が無い場合は、14級9号の可能性が残ります。
  
 次回 ⇒ 肘内側側副靱帯損傷