テニス肘とは通称で、正確な診断名は、上腕骨外側上顆炎(じょうわんこつがいそくじょうかえん)か、上腕骨内側上顆炎 (じょうわんこつないそくじょうかえん)のどちらかか、両方です。

 
(1)病態

 本来のテニス肘には、バックハンドストロークで肘の外側を傷める外側上顆炎と、フォアハンドストロークで肘の内側を傷める内側上顆炎の2種類があります。いずれも、ボールがラケットに当たる衝撃が、手首を動かす筋肉の肘付着部に繰り返し加わることによって、微小断裂や損傷をきたし、炎症を発生するものです。

 前者では手首を背屈する筋肉がついている上腕骨外側上顆、肘の外側のでっぱりに、後者では手首を掌屈する筋肉の付着部、上腕骨内側上顆に発生するため、それぞれ上腕骨外側上顆炎、上腕骨内側上顆炎ともいわれます。


  
 テニス以外でも、包丁を握る調理師や手首を酷使する仕事で発症します。長時間のPC操作の繰り返しによっても、テニス肘は発症します。手首と肘の力を繰り返し酷使することで、筋や腱の変性や骨膜の炎症が引き起こされるのです。当然ながら、変性は、加齢によっても起こります。

 症状は、手首を曲げる、回内・外の動作で、肘に痛みが走ります。そして、雑巾を絞る、ドアノブを回す、ペットボトルのキャップを回すなどが、痛みでできなくなります。抵抗を加えた状態で手首を背屈させるトムセンテスト、肘と手指を伸ばし、中指を押さえる中指伸展テスト、肘を伸ばし、椅子を持ち上げるチェアーテストといった検査で、上腕骨外側・内側上顆部に痛みが誘発されます。炎症所見は、MRI、エコー検査で確認することができます。

(2)治療

 MRI、エコー検査で炎症の確認できたとして、以後の治療は、大多数が保存療法です。局所を安静下におき、消炎鎮痛薬の内服や外用、その後は、前腕や手関節を曲げるストレッチ、温熱、低周波、レーザー光線などのリハビリ、エルボーバンドの装着などが行われています。

 日常生活では、手のひらを下にしてモノを持ち、肘で動かすことは、肘に負担がかかるのでNGです。手のひらを上に向けて持つのはかまいません。


 

 手のひらを後ろに向けるような持ち方(↓)も、肘に負担がかかるのでNGです。


 
(3)後遺障害のポイント
 
 単独のテニス肘で、後遺障害を残すことは、一般的には考えられません。以下は、理論的に後遺障害を追った場合です。
 
Ⅰ. 交通事故で多発している傷病名ではありません。弊所でもテニス肘の兆候はあったとしても、消炎鎮痛処置を続ければ、何か月も苦しむことはないようです。受傷直後から正しい保存療法が選択されれば、大多数は6ヶ月以内に改善が得られています。
 
Ⅱ. しかし、問題となるのは、肉離れへの悪化、(ヤブによって)放置された場合です。

 6ヶ月を経過しても、手首を曲げる、回内・外の動作で肘部に疼痛があり、そして、雑巾を絞る、ドアノブを回す、ペットボトルのキャップを回すことができないときは、後遺障害を申請します。

 炎症所見は、エコー検査で立証しますが、6ヶ月を経過しており陳旧性=古傷所見では、エコー検査で発見できないことがあります。多くは、骨挫傷を伴っており、そうなるとMRI検査が有用です。立証できた炎症所見の大きさに影響されますが、肘の神経症状として、画像上不明瞭=14級9号、画像上明確=12級13号が認定されています。12級は、肘関節に骨折や靭帯断裂などの破壊があり、その結果、この症例に陥ったものです。多くはオペを経ても改善しないものに該当します。
 
Ⅲ. 肘関節の機能障害で12級6号が認定されないのか?

 個別に検討しなければなりませんが、立証された器質的損傷が炎症所見であれば、追加的な治療で改善が得られるに違いないと、自賠責・調査事務所は機能障害での認定は容易にしません。よくて14級9号、怒りの非該当も目にします。
  
 次回 ⇒ 肘関節脱臼