上腕骨遠位端骨折 (じょうわんこつえんいたんこっせつ)
 
 上腕骨の遠位端部は、前腕の尺骨と橈骨とで肘関節を形成しています。
 
 より細かく診断名をつけると、上腕骨顆上骨折、上腕骨外顆骨折と呼ばれることもあります。
 

 
(1)病態と治療
 
 遠位端骨折は、骨折部位によって診断名がより細かく付けられます。主要2つを説明します。
 

 
① 上腕骨顆上骨折 (じょうわんこつかじょうこっせつ) 

 上腕骨遠位端骨折では、上腕骨顆上骨折・上腕骨外顆骨折の2種類が多く、交通事故では、自転車やバイクの転倒時の打撃で多発しています。肘関節の痛みや腫れ、可動域および運動の制限が主たる症状で、単純XP撮影で診断が可能ですが、亀裂骨折では発見できないこともあり、CT撮影が有用です。

 徒手整復を行い、骨折部位をギプスで固定する方法と、骨折した方の腕を上から垂直牽引(上から引っ張る)する保存的治療があります。

 ギプスで固定する方法は、徒手整復時に血管や神経を痛めつける可能性が予想され、血流のうっ滞を防止する意味からも、垂直牽引を行う治療方法が圧倒的です。
 
 上腕骨顆上骨折で、深刻な問題となる合併症および後遺障害は、フォルクマン拘縮です。その他に考えられる合併症は、正中神経麻痺・尺骨神経麻痺です。先に説明の橈骨神経麻痺は、上腕骨顆上骨折では、ほとんど発生していません。肘の骨折ですが、肘が内側に曲がったまま骨癒合するケースがあります。肘関節の拘縮も多発しています。

 ★ フォルクマン拘縮は別途、次回にて解説します。
 
② 上腕骨外顆骨折 (じょうわんこつがいかこっせつ) 

 肘関節の痛みや腫れ、可動域および運動の制限が主な症状で、単純XP撮影で診断が可能です。外顆骨片には手指を伸ばす、手のひらを上に向ける回外筋が付着しており、受傷直後のX線写真では転位が見られないときでも、ギプス固定中に骨片の転位が進行することがあります。

 転位が放置されたままでは、固定を続けても骨癒合は得られません。成長につれて外反肘(※)となり、運動制限と神経麻痺の原因になります。したがって、上腕骨外顆骨折は、関節内の骨折につき、ほとんどのケースで手術が選択され、キルシュナー鋼線やスクリューなどを用いて内固定が実施されています。
 
 ※ 外反肘(がいはんちゅう) 腕を伸ばすと、肘が異常に外側に曲がる変形障害のこと

(3)後遺障害のポイント 
 
Ⅰ. XP、CT画像をじっくりと検証して骨折が肘関節におよんでいないものは、一安心で、その後の骨癒合状況と肘関節の可動域をフォローします。受傷後6ヶ月で症状固定の目安となり、肘関節の機能障害として、その程度から10級10号か、12級6号が認められる可能性があります。
  
 8級6号のような用廃レベルは、上腕骨が砕けて完全修復が見込めないケースです。そのような場合、人工関節が実施されるはずです。現状、そのような重度の症例は未経験です。
 

 
 肘関節の可動域制限 👉 12級6号:上腕骨遠位端骨折(90代女性・神奈川県)
 
 癒合状態から、前腕の可動域制限の可能性があります。以下、回内・回外もチェックすべきでしょう。


 
Ⅱ. 顆上骨折であれば、関節内骨折ではなく成長軟骨板にかかる骨折、つまり骨端離開でもありません。フォルクマン拘縮を排除できれば、後遺障害を残すことなく治癒するのが一般的です。なお、被害者の方が、子どもの場合、ほとんどが、後遺障害を残すことなく、改善が得られています。
 
Ⅲ. フォルクマン拘縮に至らずとも、腕の神経(正中・橈骨・尺骨神経)に損傷が残ることがあります。神経が断裂すれば、自らの意思で肘を曲げることができません。

 肘が曲がらないケースから、曲がりはするが動きに制限があるケース、しびれの残存に留まるケース、麻痺の程度によりますが、これらの障害の立証には、筋電図や神経伝導速度検査を実施、立証することになります。神経断裂でぴくりとも動かないケースは未経験ですが、絞扼性の麻痺(神経が圧迫されている)は少なくありません。軽度の麻痺になりますが、しびれは当然として、触覚の低下、握力の低下、グーパーの動作が遅いなど、丹念に聞き込むことになります。
 
 神経麻痺を立証したケース 👉 個人賠償14級9号⇒12級13号:上腕骨顆上骨折・正中神経障害 異議申立(10代男性・神奈川県)
 
Ⅳ. 癒合不良や変形癒合が画像上明らかな場合や、Ⅲのケースのように神経麻痺を検査で立証したケースは12級13号の審査となります。それらがなくても、あきらめることはありません。症状の一貫性さえあれば14級9号の余地が残ります。
 
 再請求でせめて14級をつけたケース 👉 非該当⇒14級9号:上腕骨顆上骨折 異議申立(40代男性・山梨県)
 
 総じて、肘関節の脱臼を伴う場合に機能障害が生じやすいと言えます。上腕骨遠位端の単独骨折による後遺症は少ないと感じます。
 
 次回 ⇒ フォルクマン拘縮