(3)後遺障害のポイント
 
Ⅰ. 外傷後の変形性肩関節症は、以下①~③による二次的な診断名になることが多数です。
 
① 外傷後、肩関節面の整復が不十分で変形治癒となったもの
 
② 衝撃により、肩軟骨損傷をきたしたもの
 
③ 大きな腱板断裂が放置されたもの
 
 これらを原因として、変形性肩関節症に発展しています。①~③が画像上明らかで、医師の診断が残っているものは良いとして、数年後になって変形を訴えても、画像上、不明瞭なケースが多いものです。したがって、変形性肩関節症から直接の等級認定は少なく、中々に立証が難しい症例と思っています。
 
Ⅰ. 交通事故では、高エネルギーにより、肩関節に挫滅的な損傷をきたすことがあります。上腕骨頭、肩甲骨関節窩の挫滅・粉砕骨折で、人工肩関節を置換することもできず、肩関節の用廃で、8級6号が認定されることもあります。これは最悪例です。ここまでのひどい状態は未経験です。
 
Ⅱ. 画像上、正常癒合とならず、肩関節の可動域制限から、10級10号12級6号が認定されます。

 理論上、上記の機能障害が審査対象になります。ただし、変形性肩関節症は、上記①~③を原因とする二次的症状ですので、相当の期間が経過しています。画像上、変形が明らかではない場合、機能障害の認定は困難となります。
 
◆ 変形性肩関節症に限らず、画像上、ほぼ正常癒合でも可動域制限を訴える被害者も少なくありません。この場合、理学療法で回復する努力が望まれます。最悪、審査側に「曲がらない演技」と疑われるからです。10年以上前は甘い認定を多数みました。しかし、ここ数年の可動域制限は、「より画像から精査している」、つまり、審査精度の向上を感じるところです。
 
Ⅲ. 症状固定で、変形性肩関節症が認められるときは、XP、CT、MRIで変形のレベルを立証します。後遺障害の対象は、肩関節の可動域制限と疼痛です。人工骨頭、人工関節に置換されたものは、10級10号が認定されています。

Ⅳ. 10級10号や12級6号の認定で終りではないこともあります。数年後、関節が持たなくなり、改めて手術の必要が生じた場合です。将来、人工関節に置換する可能性が予想されるときは・・

 将来の悪化に備え、「今後甲に、本件事故が起因する変形性肩関節症により、人工関節置換術が行われた際は、甲乙間において別途協議を行うものとする。」 この条項を加えなければなりません。

 さらに、後遺障害診断書の写し、示談書、受傷時のXP、その後に撮影されたCT、MRI画像の収録されたCDについても、再請求・再交渉に備え、厳重に保管しておかなければなりません。病院の保管義務は5年間だからです。
 
 また、労災利用の場合は、「再発」申請によって治療費が請求できる可能性があります。ケガの部位や状態によっては、労災を使っておくメリットはここにも存在します。
 
Ⅴ. 正常に癒合した、目立った変形が無い場合でも痛み・不具合は残るものです。その場合、症状の一貫性から14級9号認定の余地を残します。

 肩関節の接触面積は、他の関節に比べ小さいのですが、大きな関節唇と関節包があり、関節の適合性や強度を補強し、さらに、三角筋、大胸筋の筋肉に覆われ、靭帯、腱が発達しています。肩関節は人体で最大の関節可動域を有しているのですが、一定の部位に外力、ストレスが加わりにくい構造となっており、肩関節の軟骨は他の関節より変性の発生頻度が少なく、軟骨変性が進んだとしても、症状が軽いことが多いのです。

 二次性の変形性肩関節症は、交通事故では、腱板断裂、上腕骨近位端骨折などが誘因となって発症していますが、症例数はそれほど多くなく、目立つものではありません。
 
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