肩関節は、肩甲骨の浅いソケットに、上腕骨がぶら下がっているだけの頼りのないものです。関節部には骨の連結がなく、大きな可動域を有しているのですが、そのことが原因で脱臼しやすい構造となっています。
 
(1)病態

 バイクや自転車を運転中の衝突等で、転倒した際に体を支えようとした腕が、横後ろや上方に無理に動かされたときに、上腕骨頭が不安定となり、関節面を滑って脱臼となります。

 また、転倒した際に、肩の外側を強く打ったときや腕を横後ろに持っていかれたときなどにも生じます。肩関節脱臼の90%以上は、上腕骨頭が身体の前面に移動する前方脱臼です。

 前方脱臼以外にも、転倒した際に、体の前方に腕を突っ張ったとき、肩の前方を強く打撲したときに生じる後方脱臼、上腕を横方向から上に無理に動かされたときに生じる下方脱臼があります。
 
(2)治療

 関節を戻すのは力業です。医師数名がかりで関節を戻します。激痛を伴うので、あらかじめ麻酔を打つことになります。関節を元に戻した後は、外旋位固定が3週間続けられるのが一般的です。

 保存療法では、腕を固定して剥離した関節唇を圧着させて自然回復を待ちます。固定法にもいくつか種類があり、患者さんの状態や医師の治療方針を考慮して適切な方法を選んでいきます。肩関節脱臼を起こさないようにするためには、リハビリテーションによるインナーマッスルの強化も有効です
 
(3)後遺障害のポイント
 
Ⅰ. 肩関節脱臼という傷病名だけでは一概に後遺障害等級が何級であるとは言えません。

 肩関節脱臼の結果、整復後も肩の可動域制限が生じた場合であれば、12級6号ないし10級10号が該当しますが、そのような症例をみたことがありません。
 
Ⅱ. 合併症に注意

 肩関節脱臼となると、若年者では、関節包が肩甲骨側から剥がれ、または破れ、中年以降では、腱板(「回旋筋腱板」ともいいます。棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の4つの筋群からなります。)が上腕骨頭に付いている部位で断裂することがあります。

 脱臼に伴い、肩・腕・手に行く上腕神経叢が損傷することもあり、中年以降では高い確率でそのような損傷が生じています。また、上腕骨頭の外側や前方にある骨の突起(大結節や小結節)の骨折をしばしば伴います。

 少ない症例ですが、後方脱臼は、専門医以外では、60%程度が見逃されると言われています。したがって、最初の治療先で肩の痛みの原因に対する十分な説明がされず、痛みが持続するときは、できるだけ早期に専門医を受診された方がいいかもしれません。

 これらの合併症を伴うときは、12級6号の限りではなく、10級10号ということも考えられます。一度外れても簡単にもどる亜脱臼や、短期間、腕全体がしびれたようになるデッドアーム症候もあります。これらは本質的には脱臼と同じ損傷といえますが、基本的に後遺障害を残しません。
 
Ⅲ. 立証

 骨と腱板や関節唇の軟部組織における器質的損傷を立証するには、CTとMRI撮影が欠かせません。CT(できれば3DCT)では、特に、肩甲骨関節窩下縁前方(バンカート損傷の生じる部位)、上腕骨骨頭後外上部(ヒル・サックス損傷の生じる部位)の撮影が重要となってきます。
 
 肩関節の脱臼、そのまとめ 👉 肩関節 脱臼について質問
  
 いずれにしても、脱臼を整復すれば、深刻な後遺障害を残さないことが多く、後遺障害の追求は、次回の反復性肩関節脱臼に譲ります。
 
 次回 ⇒ 反復性肩関節脱臼