SLAP損傷=上方肩関節唇損傷 (じょうほうかたかんせつしん そんしょう)
 
(1)病態
 

<正常な関節唇>

 

<断裂した関節唇>

 △印の部分が関節唇で、三角形の形をした軟骨が上下に1つずつあります。肩関節を構成する肩甲骨に付着する軟骨を関節唇と呼んでいます。上腕骨と肩甲骨の間に存在し、肩関節の安定、関節の可動性、滑り止めの機能を有しています。この肩甲骨に付着する軟骨の関節唇が、交通事故外傷で断裂した状態が関節唇損傷です。

 交通事故外傷の他、野球ではピッチャーの投球、バレーボールでのスパイク、テニスでのサーブやスマッシュ、体操競技など、手を頭上へ上げるオーバーヘッド動作を繰り返すことで発症することがあります。
 
 臨床上、以下4タイプに分類されています。
 
タイプⅠ:関節窩へ上方関節唇が付着している状態で上方関節唇に毛羽立ちがある。
 
タイプⅡ:上方関節唇および上腕二頭筋長頭腱の起始部が関節窩から剥離し、上腕二頭筋―関節唇付着部に不安定性が生じる。
 
タイプⅢ:上腕二頭筋付着部が無傷の状態で関節唇のバケツ柄断裂が生じる。
 
タイプⅣ:関節唇のバケツ柄断裂が上腕二頭筋腱にも及んでいる。
 
(2)手術と処置

 MRIで断裂して剥がれかかっている関節唇=軟骨が、保存療法で治癒することはありません。消極的には、痛み止めの服用と注射で、消炎鎮痛処置を続け、炎症の収まりをみて理学療法を行ないます。時間の経過によって痛みも少なくなり、可動域も一定程度は改善しますが、元通りにはなりません。積極的には、手術での縫合となります。

 正確な診断のもとに、しっかりとした理学療法を行なえば、保存療法で症状が軽快する場合が多いです。しかし、3~6カ月たっても改善がみられない場合には手術療法が必要となります。
 
・タイプⅠでは、「鏡視下でのデブリードマン」が選択されます。これは、損傷し毛羽立った関節唇を物理的に除去する術式です。
 
・タイプⅡ以上では、「鏡視下関節唇修復術」となります。これは、剥離した上方関節唇を関節窩に縫合し、上腕二頭筋長頭腱基部を安定させるためにスーチャーアンカー(縫合糸がついた小さなビス)を打ち込みます。
 
(3)後遺障害のポイント
 
Ⅰ. 画像での立証

 MRIで関節唇の状態を立証しなければなりません。単に医師が診断名を書いたとしても、自賠責保険では判断してくれません。したがって、MRIによる検査が必須です。
 
Ⅱ. 機能障害(可動域制限、動揺性)での認定

 手術なく保存療法で対処してきたが、肩関節の可動域に制限を残した場合、あるいは脱臼グセ、関節がグラグラで安定しない動揺性など、これら肩関節の機能障害の程度から12級6号、あるいは10級10号認定されます。しかし、手術の技術向上から、たいていは改善させます。10級=1/2しか曲がらないような深刻な可動域制限を残さない傾向です。
 
Ⅲ. 神経症状(痛み等)での認定

 可動域制限など機能障害はないが、痛みや不具合が残存するケースで、画像上、関節唇損傷が明らかなケースでは、12級13号に合致します。肩関節部に骨折や脱臼を伴う場合の認定は容易ですが、関節唇損傷だけの場合は画像勝負の認定になります。画像上、明確でない認定は、かなりシビアな印象を持っています。秋葉事務所でも、関節唇損傷 単独での認定はなく、肩関節部の骨折・脱臼に併発、その後遺症に含まれての認定に留まります。
 
 次回 ⇒ 肩甲骨骨折