肩甲骨骨折(けんこうこつこっせつ)


 肩甲骨は、背中側の肩の部分についており、骨の中でも比較的薄い板状骨です。他の骨とは、関節を形成しておらず、他のどの骨よりも自由に動かすことのできる骨です。外力に弱い構造ですが、多くの筋肉群に囲まれて補強されています。
 
(1)病態

 以下、3つの兆候が揃うと、ほぼ骨折しています。

① 肩の後方部分に、経験したことのない激痛が走る

② 肩の後方部分が青黒く変色している

③ 肩・肘を全く動かすことができない
 
 交通事故外傷では、交通事故では、地面に肩から叩きつけられる、肩甲骨に直接的な打撃を受けるなどして、骨折します。多くは、肩甲骨体部の横骨折か、縦骨折ですが、直接に打撃を受けたときは、鎖骨骨折、肋骨骨折、肩鎖靱帯の脱臼骨折を合併することが多いです。その他、肩峰や烏口突起部の骨折も経験しています。
  
 肩峰骨折の例 👉 12級5号:肩峰骨折・肩鎖関節脱臼(10代男性・千葉県)
  
 ひびが入った(亀裂骨折)程度では、町医者のレントゲンで見落とす可能性があります。レントゲンの正面像では、肋骨の裏側に隠れて肩甲骨が写りません。上記の①~③があれば、迷うことなく、総合病院でCT検査(↓3DCT)を実施して下さい


 
(2)治療

 肩甲骨骨折で手術をすることは少なく、三角巾、ストッキネット、装具等で3週間程度肩を固定するなどの保存的治療が選択されています。その後は、振り子運動などの軽いリハビリ、温熱療法=ホットパックの理学療法が実施され、肩甲骨単独の骨折であれば、後遺障害を残すこともなく、多目に見ても、3ヶ月程度の治療期間です。
 
(3)後遺障害のポイント
 
Ⅰ. 肩甲骨の単独骨折、つまり関節に関与しない骨折では、大多数が保存的治療であり、長くても3ヶ月程度の治療で、後遺障害を残すことなく、改善が得られています。例外的に、肩甲骨の横骨折で、骨折部に軋轢音が認められ、骨折部の圧痛と肩関節の可動域制限から、機能障害の10級10号や12級6号が認められた例があります。しかし、肩甲骨単独の骨折で可動域制限は残しづらく、機能障害のほとんどは、他の障害が肩関節に関与しています。
 
 機能障害の認定例 👉 10級10号:右鎖骨折・右肩甲骨骨折(50代男性・兵庫県)
 
Ⅱ. リハビリ開始が遅れたことにより、筋力低下が進み、肩関節が拘縮をきたした場合、被害者の方の責に帰すべき事由と判断されることがあります。機能障害は相手にされず、痛みの残存=14級9号か非該当に落とされます。
 
Ⅲ. 肩甲骨が、画像上、明らかに変形して癒合した場合、結局くっつかなかった(癒合不良)の場合、体幹骨の変形で12級5号が認められます。骨折部の3DCT検査により、一目瞭然となるはずです。
 
Ⅳ. 画像上、亀裂部が塞がっていなければ、その画像を提出することで、痛みの12級13号に合致します。これは、上記Ⅲの「変形」まで至らなかったジャッジになります。変形に同じく、骨折部の3DCTをチェックし、丹念に精査をしなければなりません。
 
Ⅴ. 骨折の癒合状態が正常であれば、痛みの一貫性から14級9号の余地を残しますが、実例は今のところありません。
 
 鎖骨の遠位端骨折、肩鎖靱帯の脱臼骨折、肋骨骨折に合併して肩甲骨を骨折することが多数であることから、肩甲骨骨折に拘ることなく、肩関節全体に視野を広げて後遺障害の検証を進める必要があります。
 
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