胸鎖関節脱臼(きょうさかんせつだっきゅう)


 
(1)病態

 胸鎖関節は、鎖骨近位端が胸骨と接する部分で、「肩鎖関節脱臼」において説明した肩鎖関節の反対に位置しています。胸鎖関節脱臼の発生原因としては、衝突や墜落などで、肩や腕が後ろ方向に引っ張られた際に、鎖骨近位端が第1肋骨を支点として前方に脱臼するケースが最も多いと言われています。肩鎖関節脱臼に比べて非常に発生頻度の低い脱臼です。
 
(2)治療

 完全脱臼で肩甲骨の骨折など重度の場合は手術対応で、ワイアーなどで固定します。骨がズレてしまう転位がなければ、そのまま保存療法になります。
 
(3)後遺障害のポイント
 
Ⅰ. 肩関節の可動域制限

 胸鎖関節脱臼の場合、鎖骨近位端に変形を残すものとして後遺障害等級12級5号が認定されることがありますが、これに加えて、実際の症例で見ると、胸鎖関節脱臼では、肩関節の可動域が制限されることがあります。

 例えば、かつての相談者さんによると、受傷2か月目の外転運動は85°、その後4か月間のリハビリ治療で、外転運動が120°という状態でした。このような状態で症状固定となれば、後遺障害等級12級6号(患側の可動域が正常側(一般的には180°)の4分の3以下となったもの)が認定されることになります。前者の変形もあれば、これとの併合で後遺障害等級11級が認定されます。理論的にはそうなりますが、そのような認定を経験したことがありません。胸鎖関節の脱臼だけで、それほどひどい状態まではならないと思います。
 
Ⅱ. 肩関節から離れた箇所の脱臼で、肩関節に機能障害を残す理由

 なぜ、肩関節から離れた鎖骨近位端部分の脱臼で、肩関節に機能障害(可動域制限)が起こるのでしょうか。まず、肩関節というのは、上腕骨頭が肩甲関節に寄り添う構造です。肩甲骨は、鎖骨にぶら下がっている形状で、胸郭=肋骨の一部に乗りかかっているような状態になっています。

 つまり、肩鎖関節と胸鎖関節、肩甲骨の胸郭付着部は3本の脚立の脚のような構造になっているのです。そして、胸鎖関節が脱臼することにより、この脚立の脚が1本ぐらついたような状態になるのです。それを理由として、胸鎖関節から遠い位置にある肩関節に機能障害が発生したと考えられます。

胸鎖関節脱臼で鎖骨が突出するのは、○印の部分です。

 
Ⅲ. 鎖骨近位端の変形

 胸鎖関節脱臼により鎖骨近位端に変形が残ると、上図の○印のあたりが突出します。しかし、太めの方の場合、この突出が表面の肉により目立たなくなってしまい、結果として、後遺障害が認められないことがあります。現実には変形があるにもかかわらず、それが目視しにくいがために後遺障害等級が認められないということは残念なことです。

 したがって、標準体重を上回っている方の場合には、健康のためにも、できる限り標準体型を維持されることをお勧めします。
 
Ⅳ. 残るは、痛みの残存=14級9号

 骨折・脱臼など、人体に相当の破壊があった以上、痛みや不具合は数年続くものです。この点、自賠責保険は14級9号「局部に痛みを残すもの」の認定余地を残します。これはどの部位の障害にも同じく、後遺障害認定のセオリーです。
  
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