自転車やバイクと自動車の交通事故で、自転車等に乗っていた被害者が転倒して、手・肘・肩などを打撲したとき、その衝撃が鎖骨に伝わり、鎖骨骨折を発症します。車同士の場合には、追突、出合い頭衝突、正面衝突では、シートベルトの圧迫で鎖骨が骨折することもあります。

 秋葉事務所での骨折案件では一番多く、上肢の骨折に限ってはおよそ60%は鎖骨です。鎖骨にまつわる数々のドラマは、別途、実績ページをご覧下さい。
 
(1)病態

 鎖骨の横断面は、体の中央部から外側に向かって三角形の骨が、薄く扁平しています。三角形から扁平に骨が移行する部位が鎖骨のウィークポイントであり、鎖骨骨折の80%が、かかる部位で発生しています。この部位は、より肩関節に近いところから、遠位端骨折と呼ばれています。

 その次の好発部位(よく発生する傷病)は、肩鎖関節部です。肩鎖靱帯が断裂することにより、肩鎖関節は脱臼し、鎖骨は上方に飛び上がります。
 
(2)治療

 鎖骨骨折の治療は、その折れ方によって、手術でプレート固定か、外固定による保存療法が選択されています。胸を張り、肩をできる限り後上方に引くようにして、クラビクルバンドを装着、固定します。一般的には、成人で4~6週間の固定で、骨折部の骨癒合が得られます。

 ⇐ 一般的なプレート&スクリュー固定術
 
 ⇐ クラビクルバンド
 
(3)後遺障害のポイント
 
Ⅰ. 鎖骨は体幹骨に該当しますので、体幹骨の変形として12級5号の認定が予想されます。

 裸体で変形が確認できれば、認定基準を満たします。 なお、体幹骨の変形による12級5号では、骨折部の疼痛も周辺症状として含まれてしまいます。つまり、疼痛の神経症状で別途12級13号が認定されて、併合11級となることはありません。このように、鎖骨骨折による体幹骨の変形の場合には、骨折部の疼痛も含めて12級5号となるのです。

 鎖骨の変形では、骨折部に痛みがあるか、ないか、ここが重要なポイントになります。なんの痛みもなければ、変形で12級5号が認定されても、一般的に逸失利益は認められません。少し形が変であっても、仕事には影響を与えないという考え方です。したがって、仕事に影響を与えることをきちんと説明できれば、逸失利益が認められることになります。例えば、モデル等の外見が重視される職業の場合がこれに該当します。

 しかし、疼痛があれば、仕事に影響を与える蓋然性が高くなるため、一定期間(10年程度)の逸失利益(逸失利益率は10~14%程度)が認められる可能性があります。この交渉は弁護士の手腕によります。変形に伴う痛みは、鎖骨骨折部のCT、3D撮影で骨癒合状況を明らかにして立証していきます。基本的には骨癒合が完璧であれば、運動痛が生じることはなく、被害者の方がいくら「痛い」とおっしゃられても、逸失利益の獲得は容易ではありません。
 
Ⅱ.  鎖骨の遠位端骨折部の変形により、肩関節の可動域に影響を与えることが予想されます。

 こうなると、鎖骨の変形以外に、肩関節の機能障害が後遺障害の対象となります。可動域制限での認定を目指すには、骨折部位の変形をCT、3DCTで立証しなければなりません。
 
 受傷した側の可動域が正常側の4分の3以下であれば、12級6号が認定され、先の変形による12級5号と併合され、併合11級が認定されるのです。
 
 その実例 👉 併合11級:鎖骨骨折(40代男性・千葉県)
 
 1/2制限=10級はそれなりにひどい骨折 👉 10級10号、12級5号:鎖骨骨折(30代女性・千葉県)
 

※ 参考運動は、その可動域が1/2になった場合、主要運動が12級認定に5°足りない、10級認定で10°満たない場合でも下駄をはかせて認定してくれるものです。
 
Ⅲ. 変形や可動域制限はないが、痛みの残存で14級9号
 
 プレート固定術によって変形を防ぎ、肩の可動域に影響を残すような変形や転位もなく・・「それでは後遺症はないです。」とされたら、被害者さんは浮かばれません。骨折など、人体に相当の破壊があった以上、痛みや不具合は数年続くものです。この点、自賠責保険は14級9号「局部に痛みを残すもの」の認定余地を残します。これはどの部位の障害にも同じく、後遺障害認定のセオリーです。
  
 その実例 👉 14級9号:鎖骨骨折(10代女性・群馬県)
 
◆ 近年の傾向

 そもそも鎖骨骨折が肩関節の可動域に影響するのか? と言う観点でみますと、痛みやそのせいで関節拘縮が生じ、数年の制限があるとしても、何年も続く事はありません。やはり、自賠責保険の審査でも、見た目で分かる程の肩関節の可動を妨げる鎖骨の変形でもない限り、単なる鎖骨骨折では可動域制限を認めない傾向です。
 
 それを説明するに最適な実例 👉 非該当⇒14級9号:鎖骨骨幹部骨折(40代男性・埼玉県)
 
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