秋葉事務所には珍しい傷病名のご相談、受任が多いのですが、振り返るとシモの後遺障害も多数経験しております。排尿障害は毎度の症状で、件数も多いのですが、排便の認定は今のところ1件です。
 
 シリーズ1回目は、排尿障害について実例から振り返ります。

 排尿障害とは、おしっこにまつわる後遺症です。大きく分けて、① 閉尿(尿がでない、でづらい、尿意が乏しい)、② 頻尿(尿の回数が頻繁になる、尿意がありすぎる)、③ 尿失禁(尿意がすると我慢できない、くしゃみ程度で漏れる、知らずに漏れてしまう)です。事故外傷では、主に腰椎・骨盤の骨折後、馬尾神経にダメージが加わると発生します。


 
 等級は程度に応じて、
 
① 閉尿 = 9級11号・11級10号・14級相当 

 排尿検査(ウロフロー)の残尿量、あるいは糸状ブジー(※)の使用によって程度が決まります。
  
※ ブジーとは?・・・食道、直腸、尿道、尿管、鼻涙管など、管状臓器の内径を拡張させるために用いる医療器具。
  
② 頻尿 = 11級10号

 専門医の診断が必須ですが、頻繁となった尿回数の記録も作成・提出します。回数などは個人差があるものですが、昼間の覚醒時で8回以上、夜間の就寝時で3回以上の排尿が頻尿の目安とされます。中高年の場合、事故受傷以前から頻尿のケースが多く、毎度「事故で頻尿になったのか?」の立証に苦戦しています。
   
③ 尿失禁 = 7級5号、9級11号、11級10号

 専門医の診断が必須ですが、尿パッドの使用頻度が目安となります。終日使用の7級か、常時使用の9級か、パンツを少し濡らす程度の11級か・・です。
 
 詳しくは 👉 排尿障害を段階的に検証します ④ 後遺障害等級
 
・頻便 13級11号

 頻便とは聞き慣れない言葉ですが、頻繁に便意を催す、便意が強すぎる、便漏れも含むようです。多くは服薬で抑えますが、事故外傷により生じたことを立証しなければなりません。神経の障害から、肛門括約筋が緩くなった状態を調べます。直腸内圧検査(※)で、肛門のしまり(内肛門括約筋の状態)などを検査する方法があります。検査はは、排便機能外来など、専門科の受診となります。

 いずれもしても、脊髄損傷など神経系統の障害から生じたものが認められやすく、それ以外の理由の場合、その立証は中々にハードルが高いものです。
 
※ 直腸(肛門)内圧検査 ・・・肛門から直腸にゴム風船を挿入し、ゆっくり水を注入します。便の溜まっていく感じとその時の直腸の内圧を測定します。便意をできるだけ我慢した時点で、水の注入量と直腸の内圧との比率で直腸の柔らかさを数値であらわします。数値が小さいほど直腸壁が硬いことを示します。
 
◆ 逆に、事故外傷による便秘はどうしょうか? 普通に便秘症の人は大勢います。秋葉事務所でも、相談例があるものの、認定を得たことがありません。やはり、脊髄損傷レベルの重傷でないと、信用されづらいと思います。等級は恐らく13級11号です。
 
 大事なことは、受傷直後からの泌尿器科への受診と専門的な検査の実施です。つまり、できるだけ早く症状を訴え、対処することです。遅いと、元々の頻尿では?と疑われます。それだけ、排尿障害は普通に中高年の症状として多いからです。弊所の悩みは毎度、“その訴えが遅い“ことです。とくに、若い女性は医師にすら隠しがちです。疑いのある受傷部位があれば、セクハラ覚悟で、「おしっこに異常はないですか?」とお伺いしています。
 
 
11級10号:排尿障害(30代男性・神奈川県)
 
【事案】

 歩行中、対向車に跳ねられ転倒。直後より頚部、腰部に神経症状を発症、吐き気・めまい等バレリュー症候群も重なる。何より自発的に小便が出なくなってしまった。
 
【問題点】

 これは単なる打撲捻挫ではないので、初期は原因の特定と治療に奔走することになる。まず脊髄の異変を疑い専門医に受診、結果、脊髄の輝度変化はなく、脊髄損傷はなく安堵した。しかし原因不明の排尿障害については泌尿器科に通院するものの、まったく回復しなかった。

 排尿障害は脊髄損傷を原因とするか、仙骨や腰椎の骨折、ヘルニアの突出による馬尾神経への圧迫で生じるもの・・・これが通常の説明です。しかし本件は「骨折等器質的損傷がなく、むち打ちの類で何故おしっこが出なくなるの?」と因果関係を否定されることが当然に予想されます。因果関係の解明に向け、厳しい戦いとなった。
 
【立証ポイント】

 脊髄の専門医から紹介の紹介である泌尿器科の専門医にたどり着く。そこでウロダイナミクス検査を実施、閉尿の具体的な原因の究明を果たす。そして分析データにより「頚部神経症状がもたらした排尿筋括約筋強調不全」の診断結果に漕ぎ着けた。調査事務所も6か月にわたる審査期間を要すことに。悩みに悩んだ様子が目に浮かぶようです。結果、「胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当程度の支障を残すもの」として、異例とも思われる11級10号の認定となる。治療も障害立証も専門医の協力と専門的な検査なくして成し得ない。厳しい現実を乗り越えた瞬間だった。

  
 
併合10級:腸間膜損傷 尿道・膀胱損傷 異議申立(20代男性・埼玉県)
 
【事案】

 バイクで直進中、対向右折自動車と衝突。その際、ハンドルが腹部に食い込み、骨盤骨折、腹壁損傷、腸間膜動脈損傷、尿道・膀胱損傷となった。さらに、右橈骨遠位端骨折、左膝前十字靭帯損傷があり、右橈骨神経、左腓骨神経に軽度の神経麻痺も残った。受傷後、最初の半年は臓器の手術、その後、形成科で腹壁の整復手術を数度、繰り返した。
 
【問題点】

 1年半後に症状固定としたが、それぞれ以下の等級が認定された。

 左膝の軽度不安定感(前十字靭帯損傷)=12級7号、右手しびれ(正中神経麻痺)=14級9号、腹部の醜条痕=12級相当、左足関節の可動域制限(腓骨神経麻痺)=非該当。 これらが併合され11級の認定。

 このように、回復が良好な故、穏当な等級に留まっていた。しかし、内臓、腹部の手術は成功したものの、以来、排尿・排便の回数が激増し、仕事に復帰後も回数が減らず、尿漏れも併発していた。このまま相手保険会社との示談に不安を覚え、相談会に参加された。まず、頻尿・頻便・尿漏れの原因を検証する必要がある。早速、検査を進めた。しかし事故から3年半後のウロダイナミクス検査では膀胱・尿路に明らかな数値が得られなかった。直腸の検査に至っては時期を逸した状態。
 
【立証ポイント】

 得意の立証パターンに乗せられず、やや手詰まりながら、事故全体を洗いなおすべく、3か所の病院すべてのカルテ開示を行い、延べ900ページの記録を丹念に検証した。手術経緯から腸間膜損傷、膀胱・尿道損傷の修復経緯と、その後の看護記録にて排尿・排便の記録をすべて抜出し、各部損傷を起因とする症状であることを訴えた。また画像上も骨盤が軽度の恥骨結合離開と左右の転位を示す画像をプリント、あらゆる変化を補強として提示した。 もちろん、ウロダイナミクス検査上、やや甘い数値ながら、事故外傷を原因とした確定診断を2人の専門医から導いた。これらの医証が自己申告上の排尿・排便の回数、尿漏れの程度を証明できるか?・・異議申立書提出後、8カ月の審査を要した。
 
 結果は・・
 
 「腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの」について、それぞれ以下の認定。
 
1、頻尿=11級10号
 
2、頻便=13級11号
 
3、尿漏れ=11級10号  それぞれ同一系統の障害として併合10級
 
 さらに既存の11等級に併合され併合9級への変更となった。
 
 調査事務所は症状の残存及び、内臓各部の損傷との因果関係を認めた結果となった。排尿・排便障害の程度、つまり、労務への影響は11級に留まったが、検査数値上、自賠責認定の限界と思う。これは逸失利益の伸長に関わる問題、引き続き連携弁護士へ戦いを残した。

 複数の箇所を受傷した重大事故の場合、残存する障害が審査上から漏れてしまうことがある。尿漏れすら漏らさない、執念の再申請であった。
    
 次回 ⇒ 生殖器の喪失