そもそも、むち打ちは自覚症状(痛み、しびれ等々)のみで、画像所見は不明瞭、神経学的所見もあいまい、医師も「頚椎捻挫ですから安静にしていれば治ります」となるケースが多いのです。これが保険会社が「賠償病」と暗に軽視する理由です。
しつこく症状を訴える患者に対し、医師も最後には「精神的なものです」と言って心療内科への紹介状を渡します。医師も保険会社も、はたまた家族も、誰も自身の症状を信じてくれません。この段階で「どうしたらいいでしょうか?」と、相談者が後を絶ちません。お気持はわかりますが、その境遇を打開するのは自分です。つまり、正しい診断・治療へ辿りつく努力が必要です。
バレ・リュー症候群
(1)症状
例えば、痛み・しびれはもちろん、めまいやふらつき、頭痛、吐き気、耳鳴り、不眠、疲れ易い、ぼーっとするなどの異常が長期間に及ぶ場合、バレ・リュー症候群の可能性があります。
1925年にフランスの神経学者バレ博士が、「頚部の疾患、外傷でありながら頭部や顔面に頑固な自覚症状を訴える症例があり、これらの症例は頚部の交感神経機能と密接な関わりを持つ」と発表したものです。さらに「深部交感神経(椎骨神経)が責任部位であり自覚的所見が症状のほとんどを占める」と続きます。つまり「自覚症状だけ!?」なのです。そんな無責任な!と言いたいですが、バレ博士の教え子リュー氏(だからバレ・リューか!)が多くの症例を集め研究を引継ぎましたが、完全解明されず現在に至ります。臨床上、その存在は知られていますが、原因や根治療法は確立していません。
(2)治療
これは整形外科の分野から外れます。牽引や電気治療を続けても効果は望めません。早めに神経内科、ペインクリニック等専門医に診てもうらう必要があります。症状の緩和には神経ブロック(※)が有効です。その種類・方法は専門医に判断を仰ぎます。
硬膜外ブロック、K点ブロック、星状神経節ブロックなど、注射を打つ場所は頚部になります。薬剤はキシロカイン、カルボカイン等の麻酔薬が主で、この注射は神経科の領域になります。最近では、ペインクリニックの呼称で個人開業医でも施行しています。
※ 神経ブロック 👉 神経ブロックとは?
受傷直後は安静が大事ですが、過度の安静は頚部・肩関節の関節拘縮や、抑うつ傾向によって痛みを強めてしまうので、ポリネックでの固定は避けたほうが良いとされています。この辺が、単なる頚椎捻挫の治療と一緒にできないところです。
(3)後遺障害
この傷病名が直接、後遺障害の対象とはなりません。あくまで頚部神経症状の一環として、12級13号か14級9号の対象です。大事なことは神経症状の検査をきちんと行っていること、受傷後遅くとも3か月以内に神経症状の診断を受けてカルテに記入してもらうこと、そして専門医の治療を開始していること、これらを6か月後の後遺障害診断書の段階でやっても遅いのです。受傷から3か月以上経って「諸症状が起きた」と書いても、「受傷後3か月以上経ってから発生した症状は、事故との因果関係に乏しく・・」と、毎度お決まりの審査回答となります。後遺障害は認められません。
秋葉事務所を訪れた被害者さんでも、神経症状の記録が遅くになってからで、泣く泣く非該当や低い等級を甘受し、ペインクリニックに自費で通った方が少なからずおりました。とりわけ、不眠や耳鳴りは非常にお辛いと思います。この方々は、受傷から半年も経ってからの相談だったり、保険会社に治療費打ち切りを宣告された後であったり、すでに等級申請を済ませていたり・・・つまり、相談時期が決定的に遅いのです。
早期に手を打てば、むち打ちでも、以下の認定につながります(バレ・リュー症候群かどうかは不明のものも含む)。毎度、立証の苦労がありますが、受傷初期に専門科へ受診したこと、そして、早期の秋葉への相談から救われています。14級9号や12級13号の認定を得て解決、数百万円を確保できました。今後数年は、治療費の心配はないでしょう。
むち打ちで耳鳴り? 👉 14級相当:耳鳴り(30代女性・東京都)
むち打ちでめまい? 👉 14級9号:めまい(50代男性・群馬県)
追突されて、臭いがしなくなった? 👉 12級相当:嗅覚障害(60代男性・長野県)
医師も万能ではありません。専門外の症状には素人と変わないかもしれません。周りが「むち打ちなんて」と甘く見ても、自分の事は自分でしっかり見極めて下さい。
次回 ⇒ むち打ちの病態分類 Ⅴ