(0)エピローグ

 最初に「むち打ち」被害に遭った被害者さんに、むち打ちの概要と、解決までの道筋を説明します。
  
 交通事故外傷の実に60%は「むち打ち」です。「むち打ち」とは俗称であり、正式にはいくつかの病態に分かれます。いずれも、治療方法が確立されたとは言い難いもので、その理学療法は、電気治療、牽引、ホットパックなど、対処療法の域をでません。痛みには、痛み止め薬が処方されます。また、徒手による整復、マッサージも有効です。頚部~肩への過緊張をとることも改善につながります。この施術、整骨院・接骨院が人気の理由と思います。
  
 多くは安静を続ければ、一定の回復が図れます。よって、保険会社は3カ月で治療費を打ち切る算段をしています。また、仮に後遺障害14級9号が認められても、逸失利益(将来にわたる損害)を2~3年と少なくみる理由は、「いずれ、むち打ちは治るのだから・・」です。
 
 確かに、被害者意識と相まって、症状を重く感じ、治療が長期化するケースは多いものです。被害者さん側も、ある程度の治療を経て、それでよしとする潔さは必要です。ただし、一定数の方は単なる打撲・捻挫と言った筋肉の炎症に収まらず、頚部神経への衝撃から、神経症状に陥ります。すると、痛みに留まらず、上肢のしびれ、頚から肩にかけて重だるい、頭痛、めまい、吐き気、耳鳴り、疲労感など、不定愁訴(ふていしゅうそ)と呼ばれる「なんだか調子悪い」状態が数か月続きます。
 
 それでも、相手損保は何か月も治療費をみてくれないでしょう。だって「たかが捻挫」と思っているからです。およそ、3カ月での打ち切りを予定しています。その場合、”単なる捻挫ではない神経症状”を訴えて、なんとか6カ月までみてもらい、症状固定とします。すぐさま後遺障害を申請、14級9号の認定を得ます。14級とは言え、弁護士に交渉を依頼すれば、主婦でも300万円を超える賠償金になります。その後、自費、あるいは健保で治療をするには、十分な資金を確保できるのです。
  
 損保と延々と治療費を巡って争うことに「利」はありません。「離」あるのみです。予後の治療費を賠償金で確保、つまり、実利ある解決に舵を切ります。一日も早く交通事故を終わりにさせ、平穏な日常生活を取り戻すのです。いつまでも被害事故に捕らわれる日常こそ、最大の損害と思います。
 
 対する相手損保の担当者も、早期に治療費を打切り、解決させたいのです。解決のスピードこそ、保険会社の優先事項だからです。
 
 さて、「むち打ち」の症状は病態によって大きな幅があります。数日で軽快する軽傷から、手術を要する重症まで、症状の個人差もあり、その差は広大です。まず、自らの病態を把握し、適切な医師の治療を受ける必要があります。併せて、症状固定時に間違いのない後遺症診断と、後遺障害・等級認定が得られるよう、周到に計画・準備をします。

 その後、交通事故に長けた弁護士に委任して交渉解決、あるいは「交通事故紛争処理センター」の斡旋で解決させます。速やかに交通事故から卒業しましょう。
 

【1】頚椎捻挫型

(1)症状

 多くは追突事故を受けた後に頚部に違和感が生じます。当日はレントゲンで「骨に異常ないですね」と言われ、痛み止めの薬(ロキソニン、カロナールなど)、湿布やモーラステープ、ロキソニンハップが処方されて帰ります。翌日~3日後位になると、痛みに加え、こわばり、肩が重だるい、腕から手指にかけてしびれを感じるようになります。
 
 薬 👉 ロキソニン 湿布&モーラステープ
 
(2)治療

 安静が第一です。無理に動かしたりせず、痛みが和らぐのを待ちます。町の整形外科で理学療法を続けても良いでしょう。
 
(3)後遺障害

 医師や保険会社の言う通り、多くは「治る」ものです。したがって、週1回リハビリに通った程度では後遺障害とはなりません。もし、1か月経っても症状が軽減しない場合、早期に【2】神経根型、【3】正中型~の病態を疑い、その際、MRI撮影をして下さい。普通、個人開業医にMRIの設備がありませんので、紹介状を頂いて、総合病院での検査になるはずです。

 コツンとぶつかった、バンパー交換程度の追突ではなく、自動車が横転した、後部が潰れて全損・・それなりの受傷機転が前提ですが、受傷から6カ月間、症状の一貫性があり、理学療法の通院を週3回程度6カ月継続した場合、多くの被害者さんに14級9号が認められています。
 
 実績ページから、ご自身と類似のケースを探して下さい 👉 むちうちでも後遺症となるケースがあります。諦めないで!
 
 症状がひどいので12級になりませんか?・・多くの被害者さんが主張します。しかしながら、症状の重さで12級13号か14級9号かが、決まるわけではありません。画像所見+他覚的所見(腱反射など、医師の検査による所見)があるものが12級で、それらはないが「症状が信用できるもの」が14級、と理解しています。
 
 12級は画像所見が前提の実例 👉 12級13号:頚椎捻挫(50代男性・兵庫県)
 
 例外的に筋電図で12級を立証した実例 👉 14級9号⇒12級13号:外傷性頚部症候群 異議申立(40代男性・千葉県)
 
 むち打ちの大多数は、画像所見は微妙で、他覚的所見も無いか、あいまいです。本人が「痛い」と言っているだけなのです。したがって、14級については、受傷機転(どのような衝撃でケガをしたのか)と、症状の一貫性(受傷から症状固定まで、症状と診察内容が一定)などから推察、審査するしかないのです。
   
 以下の状態ですと、後遺障害の認定はピンチです。
 
・修理費30万円以下の小破(車種にもよりますが。そもそも、それ程の衝撃ではない
 
・救急搬送なく、自走で帰宅。なおかつ、初診日が3日後。
 
・最初のレントゲンだけでMRIを撮っていない
 
・月に数回程度の通院(20~30回の通院では少な過ぎ?)
 
・整骨院・接骨院中心の通院(自賠責保険は”病院”への通院を重んじます)
 
・神経症状の検査をやってない、その結果を診断書に書いてない
 
症状が一貫していない(途中から診断名が登場する、途中から痛みを訴える部位が変わっている、増えている)
 
治療期間に30日の間が空いた(一旦治療は終了、その後は再発を意味します)
 
・過去に頚椎捻挫で14級9号の認定を受けた
  
・心因性(痛みは被害者意識?、心の病のせい?)
 
・賠償意識が強すぎて損保担当者とケンカ、不正請求の疑念、大げさだと疑われる
 
 これらの方は非該当もしくは、12級13号(なのに)⇒ 14級9号となる可能性が大です。毎度、口を酸っぱくして言いますが、治療と後遺障害は別物です。早めに立証の計画を立てて下さい。
 
◆ 損保とのケンカに利はあるか?

 自らの損害を訴えることがは大事です。しかし、度を越せば、相手損保との戦争必至で、相手から弁護士を入れられることもあります。そのような状態から、ご相談・ご依頼を受けることも少なからずありますが、どうも、14級9号の認定結果は振るいません。物損交渉や休業損害の請求で、もめにもめたケースも含みます。

 もちろん、自賠責保険の審査はエビデンス(医学的な所見を考察)に基づいて審査します。ただし、14級9号はエビデンスの乏しい中、症状の程度・残存を推察するものですから、「症状が疑われてしまったのでは・・」と懸念しています。少なくとも、弊社のおよそ1000件超の申請からそう結論しています。
 
 その懸念 👉 何度も言いますが、保険会社とケンカするな
  
 もう少し踏み込んで 👉 細かい費用でケンカするなよ! ①
 
 次回 ⇒ むち打ち の病態分類 Ⅱ