高次脳機能障害は、周囲からはっきりわかる障害ではないことがあります。些細な能力低下はしばらく観察しなければわかりません。易怒性など性格変化、嗜好の変化、易疲労性などは、ケガをする前の患者に会っていなければ、事故前後の違いはわかりません。このような、前提がありますので、高次脳機能障害の専門医は、家族からの聴き取りなどを経過的に丁寧に行い、障害の診断・評価を進めます。

 しかし、脳外科のお医者さんは、脳血管障害やクモ膜下出血で倒れた患者さんを救うことが仕事です。したがって、脳の出血が止まり、普通に話して歩いている患者さんに対しては、「次は念のため3カ月後に画像を撮りましょう」と、経過観察になります。脳の器質的変化がない限り、障害はないと考えています。お忙しいのか、家族の訴えにも耳を貸しません。高次脳機能障害は、守備範囲を外れるものなのです。

 ところが、一緒に暮らしている家族は違います。退院して戻ってきたお父さんの変化を目の当たりにします。最初は、「大ケガだったからそのダメージのせいで・・」と、徐々に治る期待を持ちますが、お父さんの変化が半年~1年も続く場合、後遺症が残ったと判断して良いと思います。それでも、事故前のお父さんを知らない主医師は、「次は半年後、念のため来て下さい」と、ほとんど治療終了とされます。脳外科医のすべてに、高次脳機能障害の知識が必ずしも備わっていないことを実感します。
 
 現在、担当している高次脳機能障害のご依頼者様から、まさにその例が出現しました。現在の医師に相談しても詮無きこと、さっさと転院させて、専門医に診てもらうよう段取りしました。案の定、専門医は本人に次いで、家族から症状・変化を聴き取り、追加のMRI検査と神経心理学検査の指示をしました。これで、障害の立証と認定のレールに乗せた感があります。他方、一体どれだけの高次脳機能障害の患者さんが見逃されるのか・・不安は尽きません。