昨日に続き、近時の相談から最悪例を紹介します。
担当した弁護士先生、実は完全な悪意があったわけではないのかもしれません。実は、解決方法をよくわかっていなかっただけで・・。本音を聞いてみたいところです。
2、加害者は無保険!、弁護士に依頼したものの・・
歩行中、無保険の加害者にはねられ受傷、脚を骨折、後遺障害は12級でした。相手は信号無視でしたから、過失割合は当然に0:100でした。幸い、自宅の自動車に東京海上日動の人身傷害保険がついていました。治療費はこれで賄うことができました。また、弁護士費用特約の加入もありました。できるだけ、人身傷害保険で出るものを先に受け取りました。
最低限、人身傷害で賄われたとしても、何もしてくれない相手を許せるはずがありません。後遺障害の請求から弁護士費用特約を利用、ネットで「交通事故に強い」と宣伝する弁護士事務所に依頼しました。弁護士は、まず、相手の自賠責保険に被害者請求をかけてくれました(無保険は任意保険で、自賠責だけはありました)。自賠責保険の後遺障害保険金を先に確保です。続いて、支払い能力が定かではない加害者に訴訟提起しました。
裁判は相手の欠席もあり、公示送達(裁判所に審議内容を張り出し、欠席の相手から何も返答なければ審議を進めてしまう)で当然に勝訴、賠償金800万円の判決を取りました。
よくぞやってくれました! これから返す刀で人身傷害保険への請求だ! ・・と褒めたいところですが、ここからががっくり。
その弁護士さん、依頼者さんに判決文を渡して、「私どもの契約はここまです。人身傷害への請求はご自身で進めて下さい」と終了宣言。確かに契約書には、「加害者との交渉、訴訟まで」との記載です。
その後、依頼者さんは独力で人傷社へ判決文を提出、保険金請求をかけました。
その回答は・・・
東京海上日動 担当者:「すでにお支払いした治療費、休業損害、傷害慰謝料、相手からお受け取りの自賠責保険金224万を差し引くと、0円です。」
依頼者さん:「えっ、判決で800万円ですよ、その金額から既払い分を受け取ったとしても、400万円以上あるじゃないですか!(怒)」と反論しました。
東京海上日動 担当者:「約款上、裁判の判決額を尊重するのは、”先に人身傷害保険金を受け取った後に、相手から賠償金を受け取り、損害総額からオーバーした金額を返してもらう”、つまり求償の場合における規定です。 本件のように、相手に求償できない場合については、約款に規定がありません。したがって、弊社の人身傷害基準で計算します。その結果、既払い分でMAXとなり、追加支払い金額はありません。(あしからず)」
依頼者さん:「何で全額もらえないの? 何のこっちゃ全然わからん!」
人身傷害の担当者と任せた弁護士・・・果たしてこのような解決でよいのでしょうか?
良いわけありません。このからくりは少し難しいのですが、こちらに解説
⇒ 無保険車傷害特約はどこへ行ったの? ⑦ 東海日動は頑固に人傷基準
支払い能力が疑問の相手でも、判決額を取って、返す刀で自身加入の人身傷害保険、あるいは無保険車傷害保険に判決額で請求する策、私どもは「宮尾メソッド」と呼んでいます。お金を持っていない加害者を追い込む裁判ではなく、保険金請求の為に判決額をゲットする裁判です。このスキームを全国規模の弁護士研修会で流布したはずですが、知らない先生がまだまだ大多数なのかもしれません。
本件、加害者が無保険の場合こそ、「人身傷害保険への請求が交通事故解決の最大の山場」となるのです。自身加入の保険会社(人身傷害保険、無保険車傷害保険)への請求が主戦場だからです。
ここで、問題視したいのは、依頼した弁護士先生です。この先生、着手金で49万円、訴訟費用・日当で30万円、成功報酬44800円、その他経費を含めて、およそ100万円の報酬を手にしています。欠席裁判は楽ちんですが、それなりに手間暇はあったかもしれません。しかし、依頼者さんはこの裁判から何らお金を得ていません。人身傷害保険からの支払い以外では、自賠責保険の後遺障害保険金224万円だけです。その224万円ですら、人身傷害に請求すれば確保できたかもしれません。
結果的に弁護士に頼まずとも、最初から最後まで人身傷害保険に請求するだけで、ここまでの金額は確保できたと思います。この弁護士は結果論だと言うもしれません。いえ、「裁判に勝つけど、相手からの回収は無理かな」という結果は見えていたはずです。意図的か、単に知識不足からの成り行きか・・弁護士が儲けるだけの手続きだった? ことになります。
この弁護士さんの仕事では、交通事故の完全解決になりません。本件、事故解決における最大の山場である「人身傷害への請求」を前に降りてしまったのです。裁判までしながら依頼者の経済的利益にほとんど寄与なく、片手落ちの仕事と誹りを受けても仕方ないと思います。いくら”契約書上、そこまでだから”としても、100万円もの報酬を得ておきながら、依頼者さんを置き去りです。法律・保険の素人相手に良心の呵責はないものか、と考えてしまいます。
結局、この件は相談まで。 この被害者さんはこれ以上戦う気力なく、弁護士不信も加わり・・あきらめてしまいました。
※ 本例は実例ながら、個人情報保護の観点から、内容・数字等、一部脚色しています。