ストラドル骨折・マルゲーニュ骨折、恥骨結合離開・仙腸関節脱臼における後遺障害のポイント>
 
 不安定型の骨盤骨折が癒合不良となった場合、具体的には変形(文字通り形が変わってくっついた)や転位(ズレてくっついた)、もしくは偽関節(くっつかなかった)となれば、変形の12級5号となります。また、これら癒合不良に派生する後遺障害と内臓損傷、神経損傷における障害は以下の3つが想定されます。
 
○ 骨盤骨折自体に関するもので、疼痛、股関節の可動域制限、骨盤の歪みによる下肢の短縮

○ 骨盤輪内に収納されている臓器の損傷・神経損傷による障害

○ 内腸骨動脈などの血管の損傷による障害
 
 以下、骨盤骨折から派生する後遺障害を解説します。
 

1. 骨盤の歪みによる下肢の短縮障害、神経症状、可動域制限

 両側の恥骨と坐骨の骨折で、骨盤輪の連続性が損なわれるストラドル骨折や骨盤複垂直骨折であるマルゲーニュ骨折では、骨盤の安定性が失われます。

 創外固定器の使用で骨盤骨の安定化を実現し、その後に整復固定が行われていますが、ここまで大規模な骨折では、元通りの骨癒合は期待できません。間違いなく、変形骨癒合を残しているのです。

 上のイラストでは、仙腸関節が脱臼し、恥骨結合が離開、右股関節は、大腿骨頭が後方脱臼しています。この不安定損傷に対しては、手術により、仙腸関節と右大腿骨頭を整復固定、右寛骨臼蓋の形成術などが行われ、同時に、恥骨結合離開についてはAOプレートによる内固定が実施されますが、骨盤骨は、捻れ、歪みなどを残して症状固定となり、完全に元通りに回復までは期待できません。

○ 最初に着手すべきは、まずはレントゲン、より視認し易い3DCTによる変形癒合の立証です。骨盤自体の変形で12級5号となります。この変形の等級が認めたれた場合、疼痛の神経症状(12級13号程度)は内包して認定されます。変形が目立たない場合ですが、痛み・しびれ等の症状が、受傷以来一貫していれば14等級9号認定の余地を残します。

 骨盤骨の歪みにより、左右の下肢に脚長差が生じたとき、画像解析ソフトONISを駆使して、その左右差を画像に打出して立証しています。後遺障害を審査する自賠責保険側に対して、診断書上の記載だけに留まらず、視覚的に変形をアピールする必要があります。

 上記の要件で等級は認定されていますが、本件では、骨盤骨の歪みが原因であり、下肢に実質的な短縮はありません。そこで、実務上は、骨盤骨の変形の12級5号と比較して、いずれか上位の等級が認定となります。

 また、3cm以上の短縮(10級8号)は、ほとんどのケースで手術で整復されています。そんな左右差で歩行は不便ですから、普通は手術で治すはずです。下肢のひどい骨折では10級以上を目にしますが、骨盤骨折によるものでは経験がありません。

○ 骨盤骨折による股関節の可動域制限は、寛骨臼の吹き抜け骨折などで、大腿骨の受け皿に不整が残り、股関節の可動を邪魔することから生じます。関節面の正常な癒合が難しい場合、手術で人工関節とします。すると、可動域制限を残さず治療することになります。

 手術回避とした場合でも、骨盤の変形や関節面の不整、関節唇損傷から残ることがあります。その場合、12級7号が認定されます。しかし、10級以上は・・普通は手術で改善させます。骨盤骨折による股関節の10級以上は目にしたことがありません。


   
 ⇒ ⑧ 後遺障害のポイント (不安定型)Ⅱ