(4)後遺障害のポイント
Ⅰ. 頭部外傷 高次脳機能障害認定の3要件?
① 頭部外傷後の意識障害、もしくは健忘症あるいは軽度意識障害が存在すること、
② 頭部外傷を示す以下の傷病名が診断されていること、
③ 上記の傷病名が、画像で確認できること、
そして、②の頭部外傷の傷病名には、脳挫傷、急性硬膜外血腫、びまん性軸索損傷、急性硬膜下血腫、びまん性脳損傷、外傷性くも膜下出血、外傷性脳室出血、低酸素脳症と記載されています。
この低酸素脳症が、肺脂肪塞栓、脳脂肪塞栓に合併する後遺障害、高次脳機能障害となります。
Ⅱ. 肺脂肪塞栓、脳脂肪塞栓は、全例、入院中に発症しています。
発症率は、長管骨単純骨折の0.5~3%ですが、大腿骨々折に限定すれば33%、そして、死亡率は5~15%と報告されています。
ネットでは、14歳男児の右脛骨開放骨折後の脂肪塞栓症候群が報告されています。右脛骨開放骨折に対しては、全身麻酔下に徒手整復が実施されました。麻酔を終了して2時間の経過で発熱、軽度の意識障害が認められたのですが、直後から、急激に呼吸状態が悪化、意識障害と両側肺野の線状陰影が認められたことから、電撃型脂肪塞栓と診断され、人工呼吸管理を含む集中治療が実施され、後遺障害を残すことなく治癒、めでたし、めでたしの結果が得られています。
Ⅲ. 酸素供給が停止すると、大脳で8分、小脳で13分、延髄・脊髄では45~60分を経過すれば、組織は死滅し、生命を失います。つまり、8分以内に呼吸が確保されないと、低酸素脳症による高次脳機能障害を合併するのです。
入院中であり、早期に発見されても、8~10分以内の対応は簡単なことではありません。交通事故110番 宮尾氏の経験則ですが、20歳、男性、勤務を終え、会社の寮に原付単車を運転して戻る途中の交通事故で、現場近くの救急病院に搬送され、傷病名は、右脛・腓骨開放性複雑骨折でした。固定術から2日目に、治療先で面談したのですが、普通に、会話ができる状態でした。しかし、術後3日目に胸苦しさを訴え、直後に、意識を消失しました。直後、気管切開を行われ、救命治療が実施されたのですが、意識を回復するのに40日を要しました。
この被害者は呼吸停止による脳内の酸素不足により、致命的な脳損傷を合併し、その後の治療にもかかわらず、高次脳機能障害として3級3号の後遺障害等級が認定されました。脂肪塞栓では、当初の傷病名からは予測できない急変で、生死に関わる事態を迎えるのです。現在のところ、これを防止する有効な手立てはありません。
秋葉事務所での受任例 👉 7級4号:低酸素脳・神経系統の障害(20代男性・東京都)
Ⅳ. 本件の後遺障害の立証は、高次脳機能障害に同じです。
症状固定は、受傷から1年後で、的確な神経心理学的検査で、日常生活、社会生活の支障を丁寧に立証していかなければなりません。詳細は、頭部外傷後の高次脳機能障害で解説をします。
次回 ⇒ 外傷性胸部圧迫症