可動域制限での認定、自賠責保険は、後遺障害診断書に記録された可動域から等級を判定します。もっとも、画像上「曲がらなくなった」ことが確認できることが前提です。
さて、自賠責保険が認めた等級を、その後の賠償交渉で任意保険会社がすんなり認めるか、です。多くは認定等級を認めますが、場合によっては、任意保険会社独自の観点による等級を前提として、賠償金を計算することがあります。原則は自賠責保険の認定等級を尊重しますから、あえて等級を下げてくる場合は、訴訟等の争いに発展しても勝つ見込みがあるからでしょう。
可動域制限の場合、任意社の担当者によっては、治療・リハビリ中に計測された数値を抑えていることがあります。それは、可動域制限を装って不正に等級認定を得ようとする被害者に対し、事前に対抗する準備をしていたと言えます。とくに労災治療の場合、任意保険会社は症状固定まで物損交渉しかやることがありません。その間、何もしない担当者か、医療照会などで経緯を確認し、着々と後の賠償交渉に備える担当者か、両者に差があります。本件は後者だったと言えます。
自賠責で等級を取るより、後の賠償交渉や裁判で等級を維持することが大変な件もあります
12級7号:脛腓骨近位端開放骨折(50代男性・静岡県)
【事案】
バイクで直進中、交差点で対抗自動車と衝突。脛骨・腓骨共に折れて髄内釘とワイヤーで固定とした。相手損保の提案で労災で治療を進めた。
【問題点】
早期に弁護士に依頼も、「診断書を待っています」との姿勢のまま、物損の交渉も自分ですることに。適切な誘導もなきまま、不安に駆られたご家族から相談を受けた。早速、足関節をみたところ12級レベルの可動域制限を計測した。労災の優しい長期の治療費対応に甘えず、症状固定の提案と共に、弁護士交代に踏み切った。
その後、いつものように病院同行、リハビリ科の計測に立ち会い、12級7号の認定を得た。ところが、相手損保は抜け目なく、すでに治療期間中の医療照会から、可動域制限のない計測値を得ていた。賠償交渉の段になって、その回答書とカルテ上の計測値を示し、自賠責保険の12級認定を否定、14級の賠償提示が返ってきた。つまり、後遺障害診断書の数値は、「(曲がらない)演技での角度」とされてしまった。優秀な損保担当者は、このような策を打ってくるのです。本件最大の問題は、賠償交渉での等級維持となった。
【立証ポイント】
苦慮する連携弁護士をフォローしようにも、主治医は症状固定後、すぐに他県の病院に異動していた。かなり、厳しい状態ながら、経緯を説明した反論書を作成し提出した。さらに、異動してしまった主治医の行先を調べ、新たに回答書を作成して、可動域の真偽を質問した。このような回答書は戻らないと思っていたら・・・案に反して、その先生から計測の経緯と「後遺障害診断書の数値が正しい」旨の回答が返ってきた。
その回答書を見た相手損保は再検討、12級を認めた満額回答に直して頂けた。敵としては手強い担当者であったが、最後の潔さは賞賛したい。
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