前距腓靱帯断裂 (ぜんきょひじんたいだんれつ)

内返し捻挫

  (0)まず、足関節の主要靭帯を整理します

 かつての無料相談会では、内返しと、外返し捻挫を混同している被害者が、たくさんいらっしゃいました。内返しとは、土踏まずが上を向き、足の裏が、内側に向く捻挫と覚えてください。ゆっくり試してみると、すぐに分かりますが、足裏は、外には向きにくい構造となっており、大多数は内返しに捻るので、外側靭帯を損傷することが多いのです。もちろん、急激、偶然かつ外来の交通事故では、外返し捻挫も、発生しています。

 足首は、下腿骨の脛骨と腓骨で形成されるソケットに、距骨がはまり込む構造となっています。前距腓靱帯(ぜんきょひじんたい)、踵腓靱帯(しょうひじんたい)、後距腓靱帯(こうきょひじんたい)の3つをまとめて外側靱帯と呼んでおり、外くるぶしの下側に付着しています。

 前距腓靭帯は、距骨が前に滑ることを、踵腓靭帯は、距骨が内側に傾斜することを防止しています。足首の捻挫で、損傷頻度が高いのは、前距腓靱帯です。その次は、踵腓靱帯ですが、後距腓靱帯損傷は、滅多に発生しません。

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 足関節不安定症(そくかんせつふあんていしょう)

(1)病態

 いわゆる捻挫癖で、なんども捻挫を繰り返し、痛みが持続する障害を足関節不安定症といいます。

 内返し捻挫で損傷した、外踝下にある外側靭帯、前距腓靭帯と踵腓靭帯が、十分修復されていないことを原因として、足関節不安定症が出現するのですが、さらに放置しておくと、足関節の軟骨も損傷し、変形性足関節症に増悪、日常歩行に、深刻なダメージを与えます。    (2)症状

 足関節の鈍痛、歩行や階段の昇降で、足首がぐらつく、頻繁に足首を捻挫する等。   (3)治療

 足首を強固に締結する主要な靱帯は、前距腓靱帯、踵腓靱帯、後距腓靱帯、脛腓靱帯の4つです。

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アキレス腱滑液包炎(あきれすけんかつえきほうえん)

オレンジ色 正常な滑液包

オレンジ色 腫れた滑液包   (1)病態   ① 滑液包は、アキレス腱とかかとの骨の間に1つのみ存在しているもので、この滑液包が炎症を起こすと腫れて痛み、アキレス腱前滑液包炎を発症します。   ② アキレス腱に対する強い圧迫が続くと、アキレス腱と皮膚の間に防護的に滑液包が形成されることがあり、この滑液包も炎症すると腫れて痛み、アキレス腱後滑液包炎を発症します。アキレス腱と皮膚、踵骨の間には、液体で満たされた袋状の、滑液包があり、クッション材として摩擦防止の役目を果たしていますが、この滑液包が炎症を起こすことがあります。    この症例は、若い女性に多く、ハイヒールなど、かかとの後ろを支える部分が硬い靴で歩いていると、かかと後方の軟部組織が繰り返し圧迫され、アキレス腱に過度の負荷がかかることにより炎症するものと考えられています。

 交通事故では、かかと部に対する直接的な打撲で発症しています。外傷では、直後から症状が出現するのですが、外傷でないときは、症状は徐々に進行していきます。   (2)症状

 腫れで赤くなり、熱感、かかと後方の痛み、炎症している滑液包が大きくなると、かかとの皮下に赤いしこりが出現、痛みが生じます。炎症が慢性化したときは、腫れは硬く、大きくなり、赤色は薄れてきます。   (3)治療

 症状の確認と触診がなされ、XP検査を行って診断されています。踵骨骨折の可能性を除外する必要から、XP検査が行われているのです。治療は、かかとの後方にかかる圧迫をなくす必要から、靴の底にヒールパッドを入れます。

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  (1)病態

 アキレス腱断裂とは、アキレス腱=踵骨腱が断裂することです。アキレス腱は、体の中でもっとも大きな腱で、ヒトが立ち上がる、歩くときに使用しています。

 交通事故では、歩行中、突然、車が突っ込んできて、それを避けようとした際に、ヒラメ筋が急激に収縮すること、車の衝突を受けた際の、直接の外力によって、アキレス腱を断裂することがあります。

 スポーツ・武道では、球技全般に起きますが、何と言っても剣道が多いようです。秋葉の学生時代、3例みています。   (2)症状

 アキレス腱の部位の激痛、歩けない、足をつくと、たちまち転倒する、つま先立ちができない、階段の上り下りができない、などです。足関節がぶらぶら状態の完全断裂では、縫合が急がれます。   (3)診断と治療

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(1)病態

 前回㊳で果部骨折を解説しましたが、コットン骨折は、内果と外果の両果骨折に、脛骨の後部、後果骨折を合併したものを三果骨折、コットン骨折といいます。

 コットン骨折の多くは、距骨が前方もしくは後方に脱臼するので、足関節の脱臼骨折を伴います。交通事故では、軽貨物車を運転中、2トンとラックとの衝突で、自車がスピンし、電柱に激突した、バイクを運転中に、軽トラックの追突を受け、堤防から転落した、そして、意外に多かったのは、トラックからの荷物の積みおらし作業で、荷物を足下に落とした例です。   (2)症状

 激烈な痛み、腫れ、骨折部の内反もしくは外反変形、皮下出血などで立ち上がることができません。   (3)診断と治療

 診断は、足関節の腫れ、圧痛、変形、皮下出血をチェック、骨折は、XPで確定します。後果の骨折は、正面からのXPでは発見されないこともり、CT、特に3DCTやMRI撮影が有用です。

 従来は、麻酔科で徒手整復後、ギプスをタイトに巻いて8~10週間の固定が実施されていましたが、現在は、スクリュー(海綿骨ねじ)で内・外果骨折部と脛腓間を固定、後果部もスクリューで内固定し、術後は6~8週のギプス固定、4週よりはPTB歩行ギプスになります。

 整復不能例では、スクリュー、鋼線による引き寄せ締結法、プレート固定が行われています。三果骨折、コットン骨折後の足関節の可動域の予後は不良です。後果部の骨折が3分の1以上のものは、この治療を行っても、予後は不良とされています。レアケースですが、難治性疼痛症候群やCRPSを惹起しやすい部位でもあります。   (4)後遺障害のポイント

Ⅰ.

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足関節果部骨折(そくかんせつかぶこっせつ)

    (1)病態

 足関節果部骨折とは、足首のくるぶしの骨折のことです。足関節は、足関節の上にある脛骨と腓骨の遠位端部をソケットに見立てれば、これに、はまり込んでいる距骨、脛骨、腓骨と靭帯でつながっている踵骨の4つの骨で構成されています。交通事故では、バイク対自動車の衝突で、バイクの運転者が跳ね飛ばされたときなど、足関節に強い外力が働くと、足関節周囲の靱帯損傷や脱臼、骨折が生じます。下腿の骨折で最も頻度の高い骨折です。

 果部とは、俗に梅干しと呼ばれる出っぱりの部分で、自分で触れて、確認することができます。果部骨折は、内側の脛骨の出っぱりを骨折した内果骨折、外側の腓骨の出っぱりを骨折した外顆骨折、内果と外果の両方を骨折した両果骨折の3つがあります。さらに、脛骨の内果と後果が折れた上に、腓骨の外果を骨折した三果骨折があります。

 両果と三果の場合、関節のソケットは破壊され、多くは足関節の脱臼を伴います。さらに、少なからず周辺の靭帯も損傷します。後遺症なく回復することは極めて少ないと言えます。両果、外果、内果は、(4)後遺障害にそれぞれの認定例を挿入しています。また、三果骨折は(コットン骨折)は次回に集中解説します。    続きを読む »

(4)後遺障害のポイント

 交通事故外傷では、癒合で完治と断定することはできません。成長の著しい幼児~10代は、爆発的に骨組織が伸長するので、容易に癒合します。しかし、その後、骨折しなかった方の足と比べ、転位や骨成長の左右差、軟骨の不具合による関節裂隙の左右差などが残存することがあります。これが、骨短縮、可動域制限、疼痛などにつながれば後遺障害の対象となります。    解説 👉 骨端線損傷と成長線骨折   Ⅰ.

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腓骨遠位端損傷・骨端線損傷(ひこつえんいたんそんしょう・こったんせんそんしょう)  

  (1)病態

 成長期の子ども、(女子では15歳、男子では17歳頃まで)に特有な骨折です。足関節の脛骨および腓骨の遠位端には成長軟骨層があり、骨端核を中心に成長していきます。骨端線損傷は、骨の骨端線部分およびその周囲に起こる骨折のことです。

 ここでは、腓骨の遠位端・骨端線損傷を中心に解説します。

 成長期では、どんどん骨組織が発達します。下腿骨の脛骨と腓骨が、どんどん伸びていくのです。この時期に、足の捻挫などにより骨端線、成長軟骨部分を損傷することがあります。足関節を構成する脛骨および腓骨の遠位端には成長軟骨層があり、骨端核を中心として、成長と共に成人の骨へと変化していくのですが、骨端部分が成人に近い状態にまで完成されても、脛骨と腓骨の成長が終了するまでは、骨幹と骨端の間に骨端線が残っています。

 骨端線部分は完成された骨よりも当然に、強度が弱く、外力による影響を受けやすい部分であることから、強い外力の働いた捻挫や衝撃で骨端線損傷を起こしやすいのです。損傷の程度が軽いものでは、XP検査でも分かりにくく、捻挫と診断されるようなものから、骨端線からきれいにスライスしたように骨折している重傷例まで、いくつかの種類に分かれます。   ◆ 骨端線損傷のパターン

① 脛骨の骨端線を横断するように骨端線が離開したもの続きを読む »

浅腓骨神経麻痺(せんひこつしんけいまひ)

 軽い内返し捻挫をイメージしてイラストを作成しています。   (1)病態

 膝窩部で坐骨神経から枝分かれした総腓骨神経は、腓骨々頭の後ろから前側に回り込むように走行し、膝下部、深腓骨神経と浅腓骨神経に分岐して腓骨に寄り添って足趾まで下降しています。

 下腿を走行、下降してきた浅腓骨神経は、足関節の手前で、中間足背神経と、内側足背神経に分岐し、足趾に到達、足の甲から足指の上側の感覚を支配しています。

 上のイラストですが、上の青○印の部分で、浅腓骨神経が圧迫されることが多いのです。下の青○印は、足首を内返しに捻挫したときに、距骨の角が隆起して浅腓骨神経を下から押し上げ、伸びてしまうことがあります。   (2)症状

 いずれも、足の甲の先部分にしびれと痛みを発症します。   (3)治療

 浅腓骨神経麻痺は、足の甲部周辺の感覚を支配する神経であり、この神経に麻痺が生じても、足関節や足趾の自動運動が不能になること、筋萎縮することもありません。

 青○印の2つのポイントを圧迫しないようにすれば、程なく改善するもので、交通事故であっても、後遺障害の対象ではありません。   (4)後遺障害のポイント   Ⅰ.

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深腓骨神経麻痺=前足根管症候群(しんひこつしんけいまひ)

    (1)病態

 イラストのピンク色の線が深腓骨神経で、赤色で表示された部分の感覚を支配しています。青色の部分は、下伸筋支帯といい、筋膜が変性してできた腱で、ちょうど足首を回り込むようにして存在し、トンネルのような形状で足の背部を通る4つの筋肉を足根骨に押しつける役割を果たしているのですが、深腓骨神経はこの下を通り抜けて出てくるのです。

 サンダルのストラップによる圧迫、ジョギングシューズの紐の締め付けなどの繰り返しで、前足根管症候群を発症すると考えられています。足の下伸筋支帯の圧迫により生じる深腓骨神経麻痺は、前足根管症候群と診断されています。

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(4)後遺障害のポイント   ◆ 腓骨神経麻痺の経験は、交通事故110番宮尾氏が医療調査員時代、1999年5月から1年間、治療先に複数回の同行にて学習を続けました。まず、そのレポートから、確定診断までの観察。   ① 好発部位が、膝の外側周辺と、足関節の周辺であること、

② 骨折がなくても、強い打撲で発症する可能性のあること、

② 腓骨神経断裂では、自力で足首や足趾を曲げることができなくなること、

③ 足関節は、drop foot、下垂足の状態となること、

 これらを経験則としてマスターしたことから、傷病名に腓骨神経麻痺がなくても、受傷機転から、腓骨神経麻痺を疑うことができるようになり、結果、この19年で80例を超える経験則を積み上げたのです。   続きを読む »

 腓骨神経麻痺(ひこつしんけいまひ)

印は、腓骨神経断裂の好発部位です。   (1)病態

 長時間の正座で、足が痺れて立つことも歩くこともできなくなることがありますが、これは、一過性の腓骨神経麻痺です。腓骨神経は、坐骨神経から腓骨神経と脛骨神経に分岐しています。腓骨神経は、膝の外側を通り、腓骨の側面を下降して、足関節を通り、足指に達します。

 腓骨神経は、最も外傷を受けやすい神経で、膝窩部周辺や足関節の外傷で断裂することがあり、大腿骨顆部や脛骨顆部、足関節果部の粉砕骨折では、要注意です。   (2)症状

 腓骨神経麻痺では、足関節の背屈や足関節は自動運動が不能で、下垂足(かすいそく)となり、あひる歩行(※)=鶏歩、また、外反運動が不能になり内反尖足(ないはんせんそく※)を示し、足背の痛みを訴えます。腓骨神経の完全断裂では、足趾の自動運動も不能となります。

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 脛骨神経麻痺(けいこつしんけいまひ)

  (1)病態

 脛骨神経は、大腿後面の中央より遠位で坐骨神経の内側部分として分岐し、中央を下行、足関節の底屈と足趾の屈曲を行う筋群と、足関節外果より足背外側、足底の知覚を支配しています。

 脛骨神経は深部を走行しており、外傷の際に損傷を受けることはほとんどありません。稀に、膝窩部で損傷を受けることもありますが、腓骨神経麻痺に比較すれば少数例です。脛骨神経麻痺の代表は、神経の完全断裂ではなく、絞扼性神経障害の足根管症候群です。   (2)症状

 足根管症候群では、つま先立ちができない、足趾の屈曲が困難、足底の夜間痛、痺れなどの症状が出現します。大半は、保存療法もしくはオペで改善が得られるものであり、であれば、過剰反応することもありません。脛骨神経が完全麻痺すると、腓腹筋、ヒラメ筋の麻痺により足関節の底屈、内反、足趾の屈曲が困難となり外反鉤足を示します。   ※ 外反鉤足(がいはんこうそく)  踵足は、足のつま先が宙に浮き、踵だけで接地する足の変形です。中足骨の骨間筋は、神経麻痺のため、足趾に鉤爪変形が生じ、また、足底の感覚障害も起きます。   (3)診断と治療

 治療としては、足根管症候群であれば、保存的に、ステロイド剤の局注、鎮痛消炎剤の内服、足底板の装用、安静で改善を見ることもありますが、効果が得られなければ、屈筋支帯を切離し、神経剥離術を実施します。   (4)後遺障害のポイント   Ⅰ.

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 坐骨神経麻痺(ざこつしんけいまひ)

    (1)病態

 坐骨神経は背骨から出発、お尻を貫いて太ももの後面を下がり、ふくらはぎを通って足に分布します。

 坐骨神経は、末梢神経では、最も太くて、長さが1mの神経です。大腿後側の中央まで下降して、そこで、総腓骨神経と脛骨神経とに分岐しています。つまり、膝の裏までは、坐骨神経であり、そこから脛骨神経と腓骨神経の2手に分岐し、この2つの神経が足の運動と感覚を支配しているのです。   (2)症状

 坐骨神経麻痺では、ふくらはぎの裏側や足の裏の痺れや感覚鈍麻、うずき、灼熱感、疼痛を発症し、膝や足の脱力感を訴え、歩行困難となります。

 完全断裂では、足関節の自動運動不能、下垂足を示し、膝の屈曲が自動でできなくなります。   (3)診断と治療

 坐骨神経麻痺は、坐骨神経が圧迫されたことによる絞扼性神経障害もしくは座骨神経痛であることが大半であり、この因子を除去してやれば、改善が果たせます。

 MRI、針筋電図、神経伝達速度検査で診断されていますが、腰部脊柱管狭窄症、腰部椎間板ヘルニアに合併しているときは、ラセーグテストやアキレス腱反射の神経学的検査でも確認できます。

 治療は、保存療法が中心で、鎮痛消炎剤や筋弛緩剤の内服で、炎症を抑制しつつ、物理療法として超音波治療などが行われています。保存療法で改善が得られないときは、圧迫している梨状筋切離術などの手術が行われています。   (4)後遺障害のポイント   Ⅰ.

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 複合靭帯損傷(ふくごうじんたいそんしょう)   (1)病態

 膝関節の安定性は、靭帯で制御されています。まず、それぞれの靭帯の役割を整理します。    膝関節には、4つの主要靭帯、   ① ACL前十字靭帯、② PCL後十字靭帯、③ MCL内側側副靭帯、④ LCL外側側副靭帯、があり、   ⑤ PLS膝関節後外側支持機構と共に、膝の安定性を保持、正しい運動軌跡を誘導しています。   続きを読む »

 PLS 膝関節後外側支持機構損傷(ひざかんせつこうがいそくしじきこう)

(1)病態

 PLSは、LCL外側側副靱帯、膝窩筋腱と膝窩腓骨靱帯で構成されています。PLSは、主に膝の外側の安定性、外旋安定性に寄与している重要な靱帯と腱の複合体です。

 PLS損傷は、膝の靱帯損傷では少ない症例ですが、交通事故に代表される高エネルギー外傷では、複合靱帯損傷の形態で発症しています。

 単独損傷は少なく、特に、後十字靱帯損傷、膝関節の脱臼を合併したときは、膝窩動脈損傷、腓骨神経断裂などの血管・神経損傷が危惧され、重症例となります。   (2)症状

 急性期のPLS損傷は、膝外側部に圧痛を認め、広範な腫れと皮下血腫を認めます。PCL損傷、半月板損傷を合併しているときは、関節内血腫を伴います。

 PLS損傷では、内反動揺性と回旋動揺性のいずれか、あるいは両方が見られます。これらの動揺性を確認することにより、どの靱帯を損傷しているかが分かります。   (3)診断と治療

 何よりMRI検査ですが、損傷を正確に読み取ることは、膝関節の専門医でなければ無理です。内半・回旋動揺性がみられたら、早期に専門外来へ行くべきです。    内反ストレステストは、被害者を仰臥位で、完全伸展位と30°の屈曲位で行います。30°屈曲位のみで関節裂隙が開大するときは、LCL単独損傷が疑われます。完全伸展位でも、関節裂隙の開大が認められるときは、PLSの広範な損傷やPCL損傷の合併を疑うことになります。

〇 ...

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LCL 外側々副靭帯損傷(がいそくそくふくじんたいそんしょう)

(1)病態

 LCL外側々副靭帯は、ACL、PCL、MCL靱帯に比較すると、損傷する頻度は少ないのですが、交通事故に代表される高エネルギー外傷においては、PCL後十字靱帯損傷や腓骨神経麻痺を合併することもあり、重篤な後遺障害を残すことがあります。

 交通事故では、膝の内側からの打撃、膝を内側に捻ったときに断裂することがあります。単独損傷はほとんど発生していません。多くは、後方の関節包、PLS膝関節後外側支持機構という領域を含む複合損傷を来します。   (2)症状

 LCL外側々副靭帯損傷では、靭帯が断裂または引き伸ばされることによる膝外側部の疼痛、外側半月板周囲の膝の激痛と運動制限を生じます。

 膝の左右の不安定感もハッキリしており、膝が外れる、膝が抜けるなどの感覚を伴います。Grade III(靱帯の完全断裂)では、腓骨神経麻痺による下腿から足先の麻痺、膝窩筋腱領域に広がる膝外側から膝裏にかけての広範な疼痛と不安定性が見られます。   (3)診断と治療

 LCL外側々副靭帯は、膝が内側に向かないように制御している靭帯です。LCL外側々副靭帯損傷は、徒手検査で外側不安定性を認めることで、診断可能です(外反・内半テスト)。

 さらに、ストレスXP撮影で、動揺性、靭帯の緩みを確認してグレードを判別することができます。MRIでは、骨挫傷、軟骨損傷、その他の靭帯や半月板損傷など、合併損傷がないかを検証します。とくに、後十字靭帯損傷を合併していることが多く、Grade II以上の不安定性を認めるときは、MRI検査で、それらを検証しなければなりません。

 膝外側側副靭帯損傷の治療は、原則的にはリハビリを中心とした保存療法が中心ですが、Grade IIIで重度な不安定性が見られるときは、靱帯再建術が必要となり、膝関節の専門医の出番です。   続きを読む »

MCL 内側々副靱帯損傷(ないそくそくふくじんたいそんしょう)

(1)病態

 少々乱暴ですが、靭帯とは、膝を締め付けているベルトであると理解して下さい。膝の左右の内・外側々副靭帯と、前後の十字靭帯というベルトで膝を強固に固定しているのです。

 このベルトが伸びきったり、部分断裂したり、全部が断裂すると、当然に、膝はガクビキ状態、膝崩れを発症、これを医学では、動揺関節と呼んでいるのです。

 MCLは浅層、深層、後斜靱帯の3層構造となっており、長さ10cm、幅3cmの範囲で膝関節内側部の大腿骨内上顆から脛骨内側部にかけて走行しています。MCL損傷は、靭帯損傷の中でも最も多発する症例で、交通事故では、膝の外側から大きな衝撃が加えられたときに生じます。

 側副靭帯は、内側と外側にあるのですが、交通事故でも、スキー・サッカー・相撲でも、圧倒的に内側々副靭帯の損傷です。限界を超えて膝が外側に押し出されると、また外側に向けて捻ると、このMCLが断裂するのです。   (2)症状

 膝関節内は出血し、ポンポンに腫れ、強烈に痛く、ある被害者は、受傷直後は、アクセルを踏むことすらできなかったと話していました。

 逆に、腫れや歩けない程の激痛がなく、自転車をこいで家に帰った、そのまま運転して会社に行ったなど、事故での損傷を自ら否定することになります。後で画像で損傷が見つかった!としても、陳旧性の損傷が濃厚です。陳旧性とは古傷、あるいは経年性の靭帯の変性です。   (3)診断と治療

 診断では、膝の内側靭帯が断裂しているので、膝をまっすぐに伸ばした状態で、脛骨を外側に反らす外反動揺性テストを行うと、膝がぐにゃと横に曲がります。普通、膝関節は横に曲がりません。

 損傷のレベルを知るために、単純XP、CTスキャン、関節造影、MRIなどの検査が実施されます。靭帯損傷の検査、一昔前はエコーでしたが、近年、3.0テスラに高精度化したMRIが有効です。   続きを読む »

PCL 後十字靱帯損傷(こうじゅうじじんたいそんしょう)

(1)病態

 ACL前十字靱帯とPCL後十字靱帯は、共に、膝関節の中にある靭帯で、大腿骨と脛骨をつなぎ、膝関節における前後の動揺性を防止している重要な靱帯です。交通事故では膝をダッシュボードで打ちつけて発症することが多く、ダッシュボードインジュリィ(dashboard injury)と呼んでいますが、PCLだけの単独損傷は、ほとんどありません。

 多くは、膝蓋骨骨折、脛骨顆部骨折、MCL損傷を合併するので、実に厄介な外傷となるのです。運転席や助手席で膝を曲げた状態のまま、ダッシュボードに外力・衝撃などによって、膝を打ちつけ、𦙾骨が90°曲がったまま後方に押しやられ、PCL後十字靱帯損傷となるのです。同時に、膝蓋骨骨折、脛骨顆部骨折などに合併して生じることが多いのです。

  (2)症状

 後十字靭帯損傷は、前十字靭帯損傷と比べ、機能障害の自覚や痛みが少ないのが特徴です。前十字靭帯損傷に比して、痛みや機能障害の自覚が小さいものの、痛みや腫れは出現します。訴えは、膝蓋骨骨折などの痛みが中心となります。   (3)診断と治療

 後十字靭帯損傷とは、靭帯が部分断裂したレベルであり、単独損傷では、大腿四頭筋訓練を中心とした保存療法の適用となります。

 自覚症状としては、受傷初期は痛みがありますが、そう長びかないようです。問題は、靭帯が断裂、あるいは部分断裂で伸びてしまうと、膝がぐらつきます。まず、ぐらつきの特性を診断する必要があります。症状をしっかり医師に伝え、その異常に早く気付いてもらわなければなりません。    ◆ この治療を得意としているのは、膝の専門外来、スポーツ外来で、専門医が配置されています。ACL損傷に同じく、PCL損傷も徒手テストと画像から診断をおこないます。町の整形外科医では、湿布だけ出して帰らされることがあります。往々にして、診断が遅れることがありますので注意です。   ① MRI

 まずは、損傷の程度を確認、診断名につなげます。骨折を伴う場合は、当然に単純X線写真とCTは実施しているはずです。靭帯を精査するには、加えてMRI(場合によっては関節造影)検査を行います。

 ただし、骨折を伴う場合、骨折部に金属(プレート・スクリュー)で固定すると、すぐには検査できません。ハレーション(金属が反射して筋状の線が写る)が起きて、患部が観えなくなってしまうからです。骨折の癒合が優先されますから、毎度、抜釘するまでMRIはお預けとなります。    ② 後方引き出しテスト(posterior sag)

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