【病態】

 PIP関節はMP関節脱臼に同じく背側への脱臼が普通です。また脱臼の際に骨折を伴うことが多いのが特徴です。つまり脱臼骨折ということになります。中節骨の近位端(=基部:根本の関節に近い方)が脱臼すると、基節骨の掌側に骨片が付着したままになります。理由は側副靭帯が引っ張っているからです。(下図)

PIP脱臼20140418_0000

【整復】

 まずは徒手整復してシーネ、テーピングで固定します。PIP関節脱臼は多くの場合、靭帯の損傷を伴っています。固定期間が長いと関節硬縮が起こりやすいので徒手整復後は早めに可動域訓練に進ませます。  脱臼骨折の場合は、骨片との癒合が得られるよう観血的手術も必要となります。靭帯に引っ張られて分離した骨片をきれいにくっけることはなかなか難しいのです。固定には専用のアルフェンスシーネが便利なようです。

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【病態】

 指が逆関節、つまり外側に強く曲げられて起きます。母指以外でのMP関節は頻度が低く、過伸展外力(指を逆関節=外側に開く)による背側脱臼がほとんどを占めます。ちなみにPIPも外側への脱臼が多いです。 MP

【整復】

 MP関節過伸展位をとっていますが、亜脱臼例の方が脱臼例よりも外見上の変形は高度です。しかし亜脱臼例は徒手整復が可能ですが、完全に脱臼をしてしまうとkaplanの井桁状の絞扼(下図)として知られる軟部組織の締め付けのために徒手整復は困難であり、ほとんど場合観血的手術が必要となります。 続きを読む »

【病態】

 中手骨は手の甲の5本の骨です。中手骨骨折は5番目である小指側に頻発します。中手骨の頚部骨折はボクサー骨折と呼ばれ、固いものを殴ると折れるようです。  

【整復】    10°以上の転位例では患指を牽引しながらMP関節、PIP関節を90°屈曲し、掌側より骨頭を押して整復します。 この固定法ですと皮膚壊死、屈曲硬縮が生じる可能性があるため、整復後はMP関節60°、PIP関節30°屈曲位で外固定します。

中手骨  

【後遺障害】    ベネット骨折は母指(親指)の表でしたが、母指以外の指の表を参照します。2分の1制限で「用廃」=12級10号となります。もっともこの骨折から2分の1程の関節可動域制限が起きること稀で、きちんと整復がなされれば、変形の12級相当や変形・転位が残存したの場合の疼痛=12級13号もめったにありません。やはり癒合状態が良好ながら痛むケース=14級9号の判断が多いようです。

部位

MP ...

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【病態】

 第1中手骨基部関節内斜骨折のことです(下図左参照)。母指外転筋の牽引により骨片が近位に転位(ずれる)すると手術の適用になります。

【整復】

 母指をけん引しながら外転、伸展し中手骨基部を橈側(親指側)・背部より圧迫して整復します。ベネット骨折は折れた基部が脱臼しやすい構造となっています。中手骨自体が長母外転筋の作用で外側に引っ張られ、逆に折れた基部が第2中手骨側に引っ張られるからです。このように牽引・圧迫を緩めると転位するため経皮ピンニングが必要です。経皮ピンニングとは鋼線を指に差し込んで折れた骨を固定する手術です。

ベネット

【後遺障害】

A:やはり可動域制限の計測が第一です。2分の1制限で「用廃」10級7号となります。もちろん関節可動域制限の基本通り、曲がらなくなるほどの変形、転位が前提条件です。もちろん対象はMP関節です。IP関節は受傷部から離れているのでベネット骨折と関係ないはずです。その場合は他の理由を追究しなければなりません。   B:可動域に制限なく痛み等が残れば、14級9号を抑えます。変形の12級相当や神経症状の12級13号は画像次第、相当の転位・変形がなければダメです。

 

部位

MP ...

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 手指の後遺障害はそれほど数は多くありません。いくつか経験したもの、よくあるものを5つ選び明日からシリーズで解説します。(参照・抜粋 『図解 整形外科 』 金芳堂)

 その前にまず手の骨と関節の名称を確認しましょう。

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【母指(親指):第1指】

中手骨と基節骨の関節をMP関節 基節骨と末節骨の関節をIP関節

 

【その他の指:第2指(示指)第3指(中指)第4指(環指)第5指(小指)】

中手骨と基節骨の関節をMP関節 基節骨と中節骨の関節をPIP関節

中節骨と末節骨の関節をDIP関節

 

 このように親指以外は中節骨が存在します。欧米の医学界では親指を特に「サム」と呼び人差し指から第1指~4指とし、区別しています。  

【英語】 続きを読む »

 どもる、滑舌が悪い、発音がおかしい、言葉が詰まってしまう・・・流暢に話すことができない運動性の失語(ブローカ型)、そして意味のない空疎な発言ばかり、質問に対して関係のない回答をする、言葉が出てこなく考え込む・・・感覚性の失語(ウェルニッケ型)、これら2つに大別される失語ですが両方が障害されるケースもあります。  両方が障害され、その程度も重篤であれば「全失語」となります。「あの・・」「ええと・・」「だから・・」等の言葉が多く、ようやく単語を単発的に発言するのが精いっぱいで、連続した文章として話すことができません。

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混合性失語:言語表出も聴理解も障害される失語群

  (5)全失語

・病巣:ブローカ野とウェルニッケ野を含む広範な病巣

・基本概念:非流暢な発話、復唱障害、重篤な理解障害

・頻発症状:発語失行、残語、再帰性発話  

(6)混合型超皮質性失語

・病巣:ブローカ野とウェルニッケ野を孤立させるような病巣

・基本概念:非流暢な発話、良好な復唱、重篤な聴理解障害

・頻発症状:反響言語、補完現象    

その他

  (7)伝導失語

・病巣:ブローカ野とウェルニッケ野の連絡を断つような病巣(弓状束など)

・基本概念:流暢な発話、顕著な復唱障害、良好な聴理解

・頻発症状:音韻性錯語、自己修正による接近行為、音韻性錯読、錯書  

(8)失名詞失語(健忘失語)

・病巣:多様だがブローカ野単独の病巣で起こることもある

・基本概念:流暢な発話、良好な復唱、良好な聴理解

・頻発症状:迂言

 

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20140311082718 本日の病院同行は長野県です。3月ですが昨夜の積雪で銀世界です。    病院では言語聴覚士の先生に言語のリハビリの同席許可を頂き、依頼者の失語について詳しく聞きました。そしてデータとしてSLTA検査の結果を持ち帰りました。

 さて、失語と一言で言っても奥が深いもので、学術的な分類と臨床上の分類で微妙に違いがあるようです。過去、高次脳機能障害で数例経験していますが、ブローカ型(運動性質後)とウェルニッケ型(感覚性失語)のどちらかに2分できました。しかし本件はブローカ、ウェルニケ双方が併存する混合型で、初めて遭遇するタイプです。再度、失語症の分類について整理してみたいと思います。

 熊本県言語聴覚士会の資料が大変わかりやすく、本文の参考にさせて頂きました。  

運動性失語:聴理解より言語表出が障害される失語群

  (1)ブローカ失語

・1861年にポール・ブローカがムッシュー・タンの脳を剖検して発見。

・病巣:ブローカ野+中心前回下部

・基本概念:非流暢な発話、復唱障害、自発話に比べ良好な聴理解

・頻発症状:発語失行、失文法  

(2)超皮質性運動性失語

・病巣:ブローカ野を孤立させるような病巣

・基本概念:非流暢な発話、良好な復唱、自発話に比べ良好な聴理解

・頻発症状:無言症、発話開始の遅れ、保続、声量低下    

感覚性失語:言語表出より聴理解が障害される失語群

  (3)ウェルニッケ失語

・1874年にカール・ウェルニッケが発見。

・病巣:ウェルニッケ野を含む病巣

・基本概念:流暢な発話、復唱障害、聴理解障害

・頻発症状:音韻性錯語、語性錯語、ジャーゴン、錯文法     (4)超皮質性感覚性失語

・病巣:ウェルニッケ野を孤立させるような病巣

・基本概念:流暢な発話、良好な復唱、聴理解障害

・頻発症状:語性錯語、空虚な会話、読解障害、書字障害

     まずは基本の2種を4分類で整理しました。(明日に続く)

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5、味覚・嗅覚・めまい・ふらつき

  ☐ 味がついているのに大量に醤油をかけて食べる

☐ 事故後、苦手で食べられなかった魚介類が食べられるようになった

☐ 足元にガソリンがこぼれているのに煙草を吸おうとしてライターを点火した

☐ 腐った果物を平気で食べている  

 これらは実際に担当した被害者さんの例です。ガソリンの強烈な臭いがしない、痛んでいる果物の腐臭や腐った味がわからない・・・大変危険な障害と言えます。多くの場合、味覚と臭覚の異常は併発します。

 味覚・臭覚は前頭葉に損傷を受けた場合に失われる感覚です。また頭蓋底骨折から嗅覚、味覚、視覚、聴覚に障害を起こすケースがあります。機械で例えるなら脳そのものの損傷の場合、それらの感覚を認識する「回路の故障」です。神経の損傷の場合は神経の伝達が絶たれる事を原因とします。これは「ケーブルの断線」ですね。    高次脳機能障害でこれらを多数経験しています。五感(視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚)が正常か、すべてチェックする必要があります。該当する障害について眼科、耳鼻咽喉科、神経科にて受診し検査をします。回路の故障かケーブルの断線か、原因の特定は脳外科ですが、臭いがしない、味がわからないといった障害の有無、程度の検査はそれぞれの専門科になります。 c_n_2 c_n_4 続きを読む »

4、情動障害、人格変化

   これも前日の注意・遂行能力の障害に同じく、元々の個性を考慮しなければなりません。性格が怒りっぽい人やわがままな人もいるので、やはり家族から聞かなければわかりません。些細な変化では主治医でも把握できないのです。  

☐ 些細なことでキレる

☐ 幼児に返ったように行動・発言が子供っぽくなった

☐ 人前で着替えを始めてしまう

☐ 好きなお菓子ばかりずっと食べ続け、他の食べ物に見向きもしない  

 「易怒性」と言って多くの被害者で経験しています。理由なく不機嫌になる人もおりますが、多くは電車で人の声が大きいとか、テレビのニュースの内容が気に食わない程度のことで、いつまでも文句を言い続けています。通常は理性で抑えられるようなことも我慢できないようです。

 幼児退行は認知症患者に多い例です。高次脳機能障害でも30歳になるいい大人が部屋をぬいぐるみで一杯にしたり、家族に甘えたりわがままを言うようになります。

 羞恥心が低下する、感情を抑えられずにすぐ泣く、気に入らないと物にあたる、これらは「脱抑制」に分類されます。一つのことに執着する「固執性」がみられることがあります。

 このように感情を理性で抑えることができず、より本能的になってしまうようです。   c_g_ne_92  

☐ 毎週のようにゴルフをしていたのに、家にあるゴルフクラブに見向きもしなくなった

☐ 猫好きで何匹も飼っていたのに、世話をしなくなった

☐ 明るくよくしゃべる人だったのに、無口で暗くなった

☐ 「誰かが私の財布を隠した」など、被害妄想がある

☐ 掃除、片づけをまったくしなくなり、部屋は散らかり放題。逆にずぼらだった性格が几帳面になり、神経質に掃除をしている

☐ いつも疲れていて家でゴロゴロ、居眠りが多い。突然、寝落ちする      「性格変化」は文字通り性格が変わってしまうことです。久々に友人が訪ねてきてもそっけなく、友人は「人が変わった?」ように感じます。私の経験では性格が陽気になった例はなく、多くは陰気、人見知り、悲観的になる傾向でした。

 極端に疲れやすい。これは肉体的な疲れというよりは精神的な疲れです。「易疲労性」に分類されます。この障害により職場や学校への復帰が困難となります。

c_n_91続きを読む »

3、注意障害、遂行機能

 注意障害と遂行能力障害の兆候は重なる部分が多く、多くの場合、併発します。障害ではなく、そもそも飽きっぽい人、要領が悪い人がおります。元々の能力、性格かもしれません。やはり事故前後の比較が必要で、家族の観察を聞かねば判断できません。

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☐ 仕事を始めてもすぐぼーっとしてしまう。集中力がもたない

☐ お皿を洗っている途中で、テレビを観始めてしまう

☐ 窓の掃除をすると、ずっと同じところを拭いている    注意障害とは集中力が極端に低下します。したがって脈絡のない行動にでたり、会話もまとまりがなく、話が飛びがちです。同時にいくつかの作業を進めることができなくなります。また逆に一つのことに固執してしまうこともあります。これでは仕事や勉強も長続きしません。

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☐ 旅行の計画はおろか、スケジュールを組むことができない

☐ 買い物の段取りが悪く、売り場を行ったり来たりして何倍も時間がかかる

☐ コピーを取ってFAXをする、その間に電話をするなど同時並行で複数の作業ができない

☐ ...

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2、視覚認知機能、失認、失行

  ☐ 歩いていてよく左肩をぶつけませんか?  

 左目が見えないというより左目に映る映像を認識できない状態です。これは「半側空間無視」です。圧倒的に左側に問題が生じます。通常、人は眼に映った情報を脳で解析しています。しかし脳の解析システムが故障することよって、映るものが認識できない状況に陥るのです。したがって当人は見えてないことすら自覚できません。コブクロのギターを持っている方しか見えない?状態です。

 以下の兆候がないか家族から聞き取る必要があります。

・ 食卓に並んだいくつかのおかずの皿から右半分しか箸をつけない ・ 片側から話しかけられても反応しない、片側に人が立っていても存在に気づかない ・ 家の絵を描かせると片側半分だけしか描かない

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☐ 右手を出してと言われて左手を出したり、よく左右を間違えませんか?  

 左右の側頭葉のどちらかが損傷した被害者で数例、経験しています。左右が定かではなくなり、よく右と左を間違えます。一般に「左右失認」と呼ばれています。些細な事のようですがこの障害から様々な場面で判断力が低下する傾向があります。  また病院内で一回廊下を曲がると帰ってこれない、自分の位置に混乱をきたす「空間認識能力の低下」などは右側頭葉の障害で経験があります。  

☐ 主治医の顔、もしくは新しく会った人の顔を覚えられないなどありますか?

   顔を覚えるのが苦手のレベルでは済まない症状は「相貌失認」と言われています。相貌失認では人の区別だけではなく、「笑っているのか、怒っているのか」など表情を読み取る観察力も失われることがあります。

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  ☐ 箸やスプーン、歯ブラシが使えなくなったり、よく使っていた電気器具の使用法を忘れてしまったことはありますか?  

 「失行」とは日常動作がスムーズにできなかったり、今まで使っていた道具が使えなくなる障害です。着衣の動作がぎこちない、ズボンを逆に履いてしまう、さらにそれに気づかない、愛用していたステレオが使えなくなった…。ご家族から色々エピソードを聞き出します。 続きを読む »

 お待たせしました。被害者さんと家族に症状の質問を始めます。

1、記憶障害

c_n_7   ☐ 昨夜、夕食は何を食べましたか?事故以来、物忘れがひどくなっていませんか?  

 高次脳機能障害患者の80%に記憶障害があると報告されています。それは昔のことが思い出せない「逆向性健忘」と新しいことが覚えられない「前向性健忘」に大別されます。逆向性健忘とは以前の記憶が失われる記憶喪失の一種です。前向性健忘とは記銘力(そもそも物事を覚える能力)の低下です。  

☐ カップラーメンにお湯を入れてそのまま・・このようなことはないですか?    問題なのは「うっかりお湯を入れたのを忘れていた」との反応ではなく、「誰がお湯を入れたの?」とまったく覚えていないことです。これは前向性健忘でもさらに直前のことも覚えることができない「ワーキングメモリーの喪失」です。暗記力そのものが低下するので、カードの暗証番号が覚えられない、新聞を読めない、足し算も2桁になるとできなくなることもあります。  

☐ 家族全員の名前、主治医の先生の名前、飼っているペットの名前が言えますか?

 確実に覚えているはずのことも、少し考え込んだり、間違ったりする・・・これは単なる度忘れなのか否か?家族の判断を聞く必要があります。これは「固有名詞失名辞」と呼ばれ、失語症の方に併発するケースが多いようです。人名、地名、固有名詞が想起できない、つまり意味や関係性はわかっているが言葉として出てこない状態です。  ひどいと認知機能の障害に分類されます。認知機能の障害は痴呆のように明らかな知能低下の症状が現れますので、ここでしっかりチェックせずとも見逃されることは少ないと言えます。

 固有名詞失名辞20140219_0001続きを読む »

 昨日に続き、チェックを進めます。  

(2)面談前チェック

 いよいよ高次脳機能障害の相談者が事務所に来所しました。症状の質問に入る前に前提条件があります。他の障害にはない独特なものです。  

☐ お一人でいらしたのか、家族のみでいらしたのか  

 高次脳機能障害の方の多くは病識がありません。病識とは「自分がケガで障害を負っているという自覚」です。2級の重篤な被害者でも「家族からおかしいと言われています」程度の自覚しかなかったケースもあります。多くの場合、本人は回復したと思っています。したがって家族の方からお話を伺わなければ障害の有無・程度がわからないのです。またご家族の方だけ相談にいらした場合でも、本人の様子を観察する必要から、改めてお連れいただくか、外出が難しい方の場合はご本人に会いに行く必要があります。  

(3)面談での観察

 普通の交通事故被害者から法律相談を受けるのとはまったく違います。障害を見抜く観察力が必要であることを肝に命じて下さい。(高次脳機能障害を見逃した弁護士を何人も知っていますよ!)  

☐ 被害者の話し方を観察します。    ここで言語機能に関する障害をチェックします。言語障害、失語などと呼ばれる症状ですが、高次脳機能障害では以下の2種が代表的です。   1、運動性失語…左前頭葉のブローカ領域の損傷。

 話し言葉の流暢性が失われます。したがって極端にゆっくり話す、どもりがち、滑舌が悪い、言葉が出てこないで考え込むなどが表れます。  

2、感覚性失語…左側頭葉に位置するウェルニッケ領域の損傷。

 流暢性は保つものの、言い間違いが多く、発言量の割に内容も乏しくなります。同じことを繰り返し話す、話しが回りくどい、意味不明な事を話す、質問と答えがかみ合わない頓珍漢な会話となります。   20120404  

☐ 態度を観察    些細なことで激高する、ムッとする、わずか10分の面談でも疲れ切ってうなだれてしまう、気が散ってキョロキョロ見回す、子供のように家族に甘える…だんだんおかしな態度が現れてきます。「易怒性」、「易疲労性」、「集中力の欠如」、「幼児退行」などを疑わねばなりません。これは後述の情動障害、行為障害、人格変化で再度、質問項目を挙げます。  

☐ ご家族から日常生活でのエピソードを伺い、ギャップを抽出します。  

 失語や態度で何か異常を感じたとしても、元々ケガをする前からそのような方もいますので、ここで家族の意見が重要となります。ケガをする前との比較は家族しかできません。つまり「この話し方は事故からですか?」、「事故前から怒りっぽかったですか?」と家族に追質問する必要があります。    相談を受ける弁護士のみならず、主治医でさえケガをする前の被害者を知らないのです。主治医は24時間患者と生活を共にし、観察しているわけではないのです。限られた診断時間では些細な変化に気付かないことは無理もありません。まして一見普通に歩き、普通に話す患者には「もう治った、障害がなくてよかった」と断定してしまう医師もおります。慎重に家族からの聴取をしなければ医師とて見逃す、繊細な障害なのです。

 具体的な症状のチェック項目は明日に。

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 3月1~2日東京、29~30日大阪で弁護士向け研修会を実施します。今回は「実戦力」がテーマです。実際に被害者が事務所に相談に訪れた時に的確な対応ができるかを訓練します。  先駆けて今日から高次脳機能障害のチェック項目について概要を押さえていきましょう。  

(1) 事前チェック (書面チェック)

 相談者から基本的な事故情報を事前に聴取、できれば書面で確認します。高次脳機能障害を予断する場合、以下の3項目が必須の情報となります。  

☐ 診断名は?

 傷病名が脳挫傷、びまん性軸策損傷、びまん性脳損傷、急性硬膜外血腫、急性硬膜下血腫、外傷性くも膜下出血、脳室出血であること。   骨折後の脂肪塞栓で呼吸障害を発症、脳に供給される酸素が激減した低酸素脳症も含みます。

 では逆に危険な診断名を挙げます。頭部打撲、頭部挫傷、脳震盪、頚椎捻挫・・・これらの診断名をもって脳障害の症状を訴えても、障害とは認定されません。そしてMTBI(外傷軽度脳損傷)が診断されても、自賠責保険・労災は高次脳機能障害とは認めません。臨床上そのような症状が報告されていますが、行政上では存在自体を疑問視されており、はっきり区別されています。

  ☐ XP、CT、MRIの画像で確認できているか?

 受傷直後に急性の血腫が生じた場合は明確に画像が残ります。それは局所性の損傷として重要な画像所見となります。さらにMRIのT2フレアで脳萎縮、脳室拡大の進行が時系列で描出されていれば決定的な画像所見となります。  びまん性脳損傷の場合は点状出血を探すことになります。微細な出血は見逃される危険性がありますので、精密なMRI検査(DWI:ディフージョン)が望まれます。時間が経ってしまった場合はT2スターなどを追加検査する必要があります。    このように「どのような脳損傷の形態か?」を把握し「どの時期にどのような画像検査をすべきか?」これを相談者に指し示すことができなければ取り返しのつかないことになります。つまり画像所見がないために障害が認められなくなってしまうのです。

  ☐ 頭部外傷後の意識障害が少なくとも6時間以上続いていたか?もしくは健忘症あるいは軽度意識障害が少なくとも1週間以上続いていたか?

 意識障害(半昏睡~昏睡状態で呼びかけに開眼・応答しない状態)、JCSが3~2桁、GCSが12点以下の状態が少なくとも6時間以上続いていること。  または軽度意識障害としてJCSが1桁、GCSが13~14点の状態、もしくは健忘症が少なくとも1週間以上続いていることが認定要件となっています。

 通常、脳に器質的なダメージが加われば意識障害の状態に陥ります。意識障害も程度の差があり、完全に意識が喪失している場合、朦朧とした状態が数時間~数日続く場合があります。明確な画像所見があれば、障害の存在は否定されません。しかし画像所見が不明瞭、もしくは脳萎縮・脳室拡大の器質的変化が乏しい場合は、意識障害の有無・度合いが脳損傷の有無を推定させる一つの要素となります。

 相談を受けた法律家は画像所見が決定的ではない場合、画像の追加検査はもちろん、なるべく急ぎ、「頭部外傷後の意識障害についての所見」(専用診断書)を初診の病院に記載依頼して下さい。救急救命科で記録してあるはずですが、命を左右する場面で正確な記録が脳神経外科に引き継がれていない危険性があります。また事故から時間が経っていれば、主治医の転勤等でカルテの記録(ものすごく達筆)しか残っておらず、正確な数値が曖昧となってしまうことも多々あります。急がなければならないのです。

 画像も不明瞭、意識障害もなし・・・万事休す。障害は否定されます。

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 ドラマはあまり見ません。まして一年も続く大河ドラマなど・・。しかし先日NHK大河ドラマ「軍師 官兵衛」を観ました。行政書士仲間は戦国好きが多く、皆しっかり大河ドラマを観ています。忘年会でも官兵衛が話題に上がりました。

kan さて黒田官兵衛については詳しい方も多いと思いますので人物説明は割愛します。一言で言いますと戦国時代、信長、秀吉、家康の3天下人に仕えた軍師です。様々な逸話が残っていますが私にとって注目すべきことが一つあります。それは後遺障害の観点から「関節硬縮」です。    まず背景から・・・

 官兵衛が主君 織田信長に謀反を起こした荒木村重のもとへ、「謀反を思いとどまるよう」説得のために単身、有岡城へ出向きます。しかし村重は説得に応じず、官兵衛を牢に幽閉してしまいます。この牢は天井低く、官兵衛は座ったままの状態を強いられ、1年間も閉じ込められました。その後、村重の謀反は失敗し、官兵衛は救出されます。しかし下肢、とくに左脚が不自由になり、しばらく自力で歩くことができなくなりました。戦国時代にどのようなリハビリをしたのか、また装具はどうしたのか記録にありませんが、有馬温泉で療養したとの記録があり、杖を使って歩けるまでに回復はしたようです。ドラマの冒頭、小田原城への使者のシーンで足を引きずってましたね。

 ここで官兵衛の病態を分析します。考えられるのは2つ・・

1、くる病  おそらく陽も当たらず不衛生な環境から、ビタミンD不足を原因とする「くる病」が考えられます。大腿骨、脛骨や半月板が石灰化を起こし、ひどいと骨の変形となります。当然脚が曲がったままで伸びず、歩行不能が考えられます。しかし栄養状態の回復と運動療法から回復する病気でもあります。

2、廃用性症候群

 人間の関節は一か月も動かさなければ誰でも固まって曲がらなくなります。これを廃用性関節硬縮と呼びます。狭い牢で一年も歩かず座ったままであれば関節は固まってしまい、元通り100%動くまでの回復は困難となります。

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 老眼は正式には『老視』と言う眼の老化現象で、眼のピントを調節する機能が衰え、近くが見えなくなる症状です。正確には、近くだけでなく、普段ピントを調節しなければ見れない範囲は全て見にくくなります。最近私も老眼気味?で本が読みづらいことがあります。まぁ新聞の文字は問題ないのでもう数年は大丈夫かと思います。  さて交通事故外傷においても、眼球自体の直接的な受傷はもちろん、顔面のケガ、とくに眼窩底骨折やルフォーⅡ型~Ⅲ型の頬骨の骨折でこの調節能力に障害を残すことがあります。高齢ですと元々老眼であるケースが多いため判別が難しくなりますが、やはり専門的な検査で立証する必要があります。代表的な検査方法を3つ挙げます。

1、石原式近距離視力表

 この検査で異常があれば、各種の精密な調節検査を行います。この検査は老眼鏡を処方する場合の検査に必須です。眼前30cmの距離で明視できる最小の字づまり視標でその眼の近距離視力を求めます。5mの遠距離視力が裸眼または矯正眼鏡にて1.0であるのに、近距離視力が同じ条件下で1.0より低ければ調節障害となります。

2、石原式近点計

 調節障害が疑われた場合に調節の近点がどの位置にあるかを調べます。接眼部の試験枠にレンズを加入することによって、人工的な近視を作れば、この機械にて遠点も計測できます。調節幅の測定は精密な調節機能を知るために必要です。調節幅の検査では、被検眼の矯正視力、被検者の努力、注意、集中力、視標を移動させる速度、視標の大きさ、コントラスト、明るさなどが影響する。また、ピントがぼけ始めた点を正確に答えるのもむずかしい、さらに調節lag(lag of accommodation)として、正確に調節を行っていなくてもピントが合ったように見える現象がある場合があります。この調節lagには、ピンホール効果としての小瞳孔や乱視の存在などが影響しており、自覚的検査での調節幅は、他覚的に求めた真の屈折力の変化としての調節幅よりも大きな値となります。

3、アコモドポリレコーダー

 毎度カミカミでうまく言えません。この検査は遠方と近方に置かれた視標にピントが合うまでの時間の長さから調節障害を診断する専用の機器のことです。内蔵された視標はレンズによって光学的に遠方と近方に設置され、電動式に遠方視標と近方視標が交互に点灯するようになっている。視標にピントが合うまでの時間を調節時間として反復測定する。近方視標にピントが合うまでの時間を緊張時間、遠方視標にピントが合うまでの時間を弛緩時間として調節時間の現れ方をいくつかの型に分類し、調節障害の性格を明らかにすることができます。  この検査も自覚的な検査であり、被検眼の矯正視力、被検者の努力、注意、集中力が影響し、ピントがぼけ始めた時点を正確に応答するむずかしさが課題です。また、調節lagも混入することは石原式と同様ですが、調節幅を求める検査ではなく、調節時間の型からどのような調節障害かを診断することを目的となります。検査結果の再現性が得にくいこと、正常者あるいは異常者であっても、いくつかの型に当てはまってしまうために、検査結果(アコモドグラムパターン)だけから診断することは難しいとも言えます。したがって検査は治療の初期から症状固定まで3回ほど行い、あまり数値に変化がないことが望ましいのです。

後遺障害の判定と等級は

調節機能に関すること

11 級 1 号 両眼の眼球に著しい調節機能障害または運動障害を残すもの、アコモドポリレコーダーによる調節力が 2 ...

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 昨日につづいて、実例をお話ししましょう。  

変なおじさん

 

 私が中学生の頃、通学路に昼間から働くでもなし、ふらふらしているおじさんがいました。おじさんといっても20代後半くらいでしょうか。おでこにケガの跡があって、いつも意味不明の言葉を通行人や通学中の小中学生に話しかけています。そうです、「変なおじさん」です。

 心配する生徒の父兄が、町内会に問い合わせをしたそうです。変なおじさんの正体が判明しました。何でも、交通事故で頭を打って、体は回復したのですが、精神に障害が残ってしまったそうです。仕事に復帰できず、ご家族で面倒をみていたようです。気ままにふらふら近隣を歩いているようですが、他人に迷惑をかけることはないとのことです。今思えば、変質者や認知症患者とは違う様相でした。その後、学生・学童に何かしたわけでもないので、「変なおじさん」は「可哀想なおじさん」に変わりました。    このおじさんの障害について、私なりの見立てでは、まず見当識、認知能力に問題があり、軽度の言語障害(ウェルニッケ型)、遂行能力の低下、注意障害もあるはずです。おそらく性格変化(羞恥心の欠如、易疲労性)もあるかと思います。記憶障害、その他の障害についてはわかりません。これだけでも、高次脳機能障害5級以上は明らかです。    当時は「「高次脳機能障害」という診断名はなく、単に、「外傷性精神障害」などと診断されていました。行政における、つまり自治体の補償・福祉制度や労災は未整備で、自賠責保険の審査基準も未熟だったはずです。自賠責保険で高次脳機能障害の審査会が設置されたのは平成13年です。それまでは単なる脳外傷と扱われ、治癒後、精神障害の残存について、審査が徹底されていなかったかもしれません。多くの脳神経外科でも新しい分野であり、神経学的検査の方法なども周知されていなかったと思います。

 おそらく見た目(頭や体)のケガは治ったので、悲しいくらいの賠償金、もしかしたら後遺障害すら認定されていなかったのかもしれません。    これは昭和の話ですが、最近の数年間でも見逃された例をいくつか経験しています。これは明日に。    ⇒ やっぱり見逃されていた高次脳機能障害  

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 漢字ですと書き方が難しく、言葉にするとカミカミな膝の靭帯の呼び方。医師はカルテ上、英語で略して記載することが多いようです。今日は少し手抜きですが英語表記を復習しましょう。  

前十字靭帯(ACL)= Anterior Cruciate Ligament     後十字靭帯(PCL)= Posterior Cruciate Ligament   内側側副靭帯(MCL)= Medial Collateral Ligament      外側側副靭帯(LCL)= Lateral ...

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 今日は高次脳機能障害が疑われる被害者さんの病院同行でした。症状固定はまだ先ですが、先月、早めに「意識障害の所見」を主治医に記載していただきました。しかし意識障害の続いた時間は高次脳機能障害の要件を満たす基準には至っていません。画像上、比較的脳への損傷は明瞭なので、意識障害の所見をもって障害が否定されることはないと思いますが、より被害者の受傷直後の様子を説明するために、受傷直後における健忘の状況について追記していただきました。

 健忘とは「もの忘れ」で記憶障害の1つ。つまり自分がしたことを忘れる症状です。健忘について今日明日と続けて説明します。

「記憶」は以下の3つの要素から成り立っています。

1、新しい情報を知覚し、脳裏に刻み込む「記銘」

2、記銘したものを心の中に持ち続ける「保持」

3、保持されたものを再び意識の上に浮かび上がらせる「追想」or「想起」

「健忘症はそのうち「追想」の障害で起こります。まず忘れる範囲によって二分します。

a.自分がどこの誰であるか分からない、出生から以降のすべてを忘れてしまう「全健忘(全生活史健忘)」。これは記憶喪失ですね。

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