シリーズ中、鎖骨の脱臼の程度を表す「Grade」が出てきます。まずは、以下の表でおさらいしましょう。

 肩鎖関節の脱臼は3段階(さらにひどい状態を含めた6段階もある)に分けられます。これをtossy分類とよびます。経験ではGradeⅡ以上のほとんどに外見上の変形が残ります。

 Grade Ⅰ  靱帯の軽度の損傷のみで捻挫と同様、明らかな脱臼はない。  Grade Ⅱ  肩鎖靱帯の損傷があり、亜脱臼位 を呈する。  Grade Ⅲ  肩鎖靱帯損傷に烏口鎖骨靱帯の損傷が加わり、完全脱臼位を呈する。

  【事案】

自転車で走行中、左路側帯に駐車中の自動車が急発進し、右転回したために前方をふさがれて衝突。肩から路面に落ちた。GradeⅡ型の亜脱臼となり、クラビクルバンドで固定した。   【問題点】

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 粉砕開放骨折+上腕神経麻痺など、特別に重篤な骨折を除いては鎖骨の骨折、脱臼で肩関節の用廃(8級レベル)はないでしょう。現実的な最高等級は併合9級と思います。   【事案】

バイクで走行中、交差点で左方よりの自動車と出合頭衝突したもの。その際、鎖骨の肩側を脱臼した。肩鎖靭帯、烏口肩鎖靭帯の断裂を伴うGradeⅢ型の脱臼である。手術で鎖骨のプレート固定が必要となった。

【問題点】

弁護士から紹介を受け、脱臼の程度から変形と可動域制限を予想し、堂々と併合9級の獲得を宣言した。 しかし、主治医は非常に難しいタイプの医師で「障害は残らない」と断言、患者以外の者の関与を嫌った。ここではまともな後遺障害診断書は無理と判断し、近隣にあるリハビリ先の整形外科で、ROM測定、裸体の写真撮影を行い、診断書を仕上げた。

【立証ポイント】

靭帯断裂を伴う脱臼の場合、鎖骨の転位を避けるためにプレートは抜釘できない。したがって変形はかなり微妙であったが、添付した写真からわずかなピアノキーサイン(鎖骨が盛り上がる)を認めて頂いた。かなりギリギリの併合9級だが、受傷の程度から予断し、しかるべき医師に診断いただければ目標等級に届く。弁護士も依頼者もびっくりの結果であったが、調査事務所も私もしっかり見ていますので。

   このシリーズは最後に鎖骨の後遺障害一覧表を見て復習して下さい。  

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 このシリーズは実例(実績投稿)から、等級別に解説します。

 まずは可動域制限のケースから。本件は「鎖骨骨折後の癒合状態が良好であれば、そんなに曲がらなくなるわけないでしょ」と可動域制限を否定してきたケースです。しっかり画像読影を行い、放射線科の医師や専門医の見立てを仰がなければ見逃される例です。やはり画像読影を重視しない法律家には任せてはダメなのです。   【事案】

原付バイクで走行中、交差点で信号無視の自動車と出合頭衝突したもの。その際、鎖骨と肋骨を骨折した。   【問題点】

受傷初期から弁護士に依頼していた。この弁護士は物損の交渉をしてくれたもの、後遺障害は事前認定(相手の保険会社に丸投げ)の方針。リハビリの甲斐なく、腕が上がらない被害者を心配したご長男から相談が入る。しかし、委任している弁護士がいる以上、限定的なアドバイスしかできない。正式に当方に契約をスイッチしたが、時すでに遅く、結果は「骨癒合が得られている」と「非該当」の通知。   【立証ポイント】

まず、XPとMRI画像を精査した。確かに骨癒合に問題はないもの、仮骨形成(骨の癒合の際にみられる、新しくできた不完全な骨組織)が不自然に膨らんでいる。新たに3.0テスラのMRI検査を実施、仮骨部が「軟骨化嚢胞」となっていることを突き止める。これが拳上不能の原因かもしれない。しかし、主治医はこれを可動域制限の原因とは認めず、疼痛による運動制限からくる関節硬縮と判断した。原因究明のため、放射線科医の画像鑑定を行ったところ、「肩峰下滑液包に液体貯留、棘上筋、肩鎖靭帯にも輝度変化を認める。」とあり、鎖骨下嚢胞化構造と相まって肩腱板も含めた複合損傷が明らかとなった。これを基に異議申立てを行い、改めて可動域制限を認めて頂いた。

 このように、画像読影で医師の見解が分かれることが、しばしばあります。医師によっては「癒合良好」で済ましてしまいます。立証側もしっかり画像所見を検討し、しかるべき精査をしなければなりません。本件は早くから法律家が関与しながら、障害の原因追求と精査を怠ったために大変な苦労を強いられた例といえる。     このシリーズは最後に鎖骨の後遺障害一覧表を見て復習して下さい。

 

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 昨年から今年にかけて鎖骨の障害で未投稿がいくつかありましたので、総ざらいしようと思います。その前に鎖骨の障害で想定される等級を整理しましょう。

c_g_a_6 鎖骨骨折、肩鎖関節脱臼の診断名からは以下、表の通り。表のすべての認定経験がありますので、画像と診断書をご持参して相談会に参加されたら、認定等級をほぼ予断できます。

 この表、例外的なケースを除きますが、かなり参考になると思います。  

等級

症状・条件

画像所見

外見

14級続きを読む »

 ご家族と一緒に専門医のお話を伺う機会は多いものです。ある専門医はこう指導しました。  「障害を治そうと思ってはダメ、周囲がどう対処するか工夫をして。」

 高次脳機能障害は不可逆的、根本的に治るものではありません。事故前後のギャップに家族は苦しみます。それを元に戻そうと葛藤すれば心が潰れてしまいます。専門医は周囲が障害に慣れていくこと、上手に合せていくことを言っているのです。対処さえ心得えれば、多くのフォローが可能なはずです。映画からもいくつか示唆される場面がありました。  

1、ボッジャという競技

 ボッチャは、ヨーロッパで生まれた重度脳性麻痺者もしくは同程度の四肢重度機能障がい者のために考案されたスポーツで、パラリンピックの正式種目です。ジャックボール(目標球)と呼ばれる白いボールに、赤・青のそれぞれ6球ずつのボールを投げたり、転がしたり、他のボールに当てたりして、いかに近づけるかを競います。(日本ボッジャ協会より)  映画で初めて知った競技です。リハビリの延長から生まれたゲームのようです。介添え者と一緒に行う種目もあるようです。   2、脳性麻痺の漫才師

 この映画の出演で初めて存在を知りました。劇中でネタを披露しますが、ブラック過ぎて友人達は引いてしまいます。障害を笑いにする・・賛否両論ありますが、少なくとも”笑いとは常にタブーと背中合わせ”ではないかと個人的には思います。   3、リハビリの記録ビデオ

 受傷直後の昏睡・意識障害の状態~リハビリ訓練の記録ビデオを観るシーンがありました。リハビリ中は見当識障害がひどく、壮絶な映像が続きます。本人、家族にとって辛い記録と思います。それでも記録を残す意味を感じているのだと思います。私も自賠責審査や裁判用の記録ビデオを何本か作った経験から、目的は違えど、記録を残すことへの使命感を感じます。   4、心のバリアフリー

 このカップルを取り巻く家族、友人達が魅力的に描かれていました。健常者と障害者が集まって居酒屋で盛り上がるシーンがありましたが、このような場面が普遍的である社会が普遍的であるべきと思いました。

   このように映画から初めて知ったこと、考えさせられることがいくつかありました。交通事故で高次脳機能障害となった場合、本人はもちろん、ご家族の困窮は当事者でなければわかりません。ある日突然であるが故、心の持ちようが難しく、家族だけでは本当にキツいのです。障害者との関わりには周囲の理解に負うことが少なくありません。私も常にご家族からお話しだけでも聞いて差し上げるようにしています。心が限界となったご家族から、夜中に電話があることもしばしばです。

 やはり、より多くの人、社会全体で障害の存在を知ってもらうことが大事ではないでしょうか。映画やドラマは周囲の理解を向上させることに非常に役立つものと思います。 kitagawa 

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 DVDが発売されたので早速観ました。私が知る限り、主人公が交通事故で高次脳機能障害となったケースはこの映画が初めてと思います。

dakisimetai] 映画は実話をもとにしており、先にテレビドキュメンタリーで製作されています。あらすじは高校生の時、交通事故で障害を持った主人公がタクシー運転手と出合い、結婚、出産をします。しかし、産後直ちに亡くなってしまいます。切なくも暖かい視点で物語は進みます。主演の北川 景子さんがとっても愛らしく、涙を誘います。映画を通して障害者を取り巻く環境、家族・周囲の人々の心情も描かれています。

 職業柄、どうしても高次脳機能障害の症状を観察してしまいます。そこで事務所の補助者にも映画から、どのような症状があるか?学習として鑑賞を勧めました。今日の日誌はその答え合わせです。  

(Q1)主人公からどのような症状が観察できますか?障害の種別とそれを伺わせる場面を挙げて下さい。  

(A)1、左半身・片麻痺・・車イスを使用。左足関節を固定するための装具を装着しているので、足関節は用廃レベル。さらに左足はやや内反していること、お茶を入れるシーン他で左肘に屈曲位が見られるので、痙性麻痺と判断できる。

2、短期記憶障害・・記銘力が低下しています。買い物に来て何を買うかを忘れてしまったこと、また買い物を書いたメモすら家に忘れていたことからうかがわれます。事故前の記憶は保たれているようで、薄れた昔の記憶は徐々に思い出すことができるようでした。

3、易疲労性・・家に送ってもらった後、疲れてすぐに寝てしまった場面から。ちなみに易怒性については、冒頭、施設のダブルブッキングのシーンや浮気を疑ってキレるシーンを検討するに、障害ではなく自然、従来の性格からと思われます。

4、相貌失認・・寺門ジモンさん演じる友人の婚約者の顔を忘れています。しばらく誰かわからない状態が続きます。

※ 映画上、表現は避けたと思いますが、ドキュメンタリーでは言語障害、ブローカ型と見受けられます。

  (Q2)主人公の自賠責の障害等級は何級と読み取れますか?   (A)別表Ⅰ2級。精神の障害は5級レベルですが、半身麻痺が包括して検討されるはずです。主人公は一人暮らしを強行していますが、定期的にヘルパーさんがきていること、母親が見守りをしていることから介護認定は問題ないでしょう。  ちなみに身体障害者手帳は2級、精神障害者手帳は2級と予想します。

 つづく  

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 前腕骨折の重傷例を解説します。骨幹部がポキッと折れた骨折は比較的、障害を残さずに治癒しますが、関節の脱臼を含むような骨折は何かと障害を残しがちです。  

病態

 モンテジア骨折とは、尺骨骨幹部骨折と同時に肘部の橈骨頭の脱臼したものです。原因は、転倒によって手を地面に強く突く、もしくは強くねじると、腕の中で尺骨と橈骨が強制的に回内運動、つまり内側にねじれを起こします。逆に回外、外側にねじれて脱臼することもあります。その時に尺骨は橈骨と強く衝突して骨折し、その衝撃が元になって橈骨は橈骨頭が脱臼してしまうのです。

 下図のようにねじれの方向によって伸展型(左)と屈曲型(右)に分かれます。 c_g_j_43    montejia ← 伸展型のXP

治療

 徒手整復を基本とします。多くはまず骨折した尺骨をプレート固定します。次に肘部脱臼の整復ですが、橈骨輪状靱帯や方形靱帯(それぞれ尺骨と橈骨をつなぐ靭帯)の断裂を伴う場合、再脱臼を防ぐためワイヤーで固定します。  

後遺障害

〇 橈骨の脱臼部により肘関節の可動域や、尺骨の長さが変わることにより手関節の可動域制限が起こる可能性があります。したがって肘関節は必須、その他、手関節や回内・回外の可動域制限の有無を確認します。

部位

主要運動 ...

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 最近、弁護士先生から寄せられた質問について、質疑応答。(内容は若干脚色しています)  

Q)肩甲骨を骨折した被害者さんですが、肩関節が脱臼し、もちろん整復はなされたのですが、以後も2度脱臼を起してしまい、肩関節に不安定性を残しています。この場合、後遺障害の認定は何級でどのように立証したらよいでしょうか?  

A) 不安定性と脱臼癖は程度の差と言えるかもしれません。

 イメージでは 不安定症 < 動揺性肩関節 < 脱臼ぐせ < 完全脱臼

 脱臼は大きく分けて2種、関節唇の損傷による前方脱臼(図1)であるバンカート病変、上腕骨の骨頭の損傷によるヒルサックス病変です(図2)。他には後方脱臼も外傷によって起きることあります。 バンカートxp続きを読む »

 中断していた指シリーズ5選完結です。最後はいわゆる突き指のひどい病態、マレット変形です。指先へ垂直に衝撃を受ける「突き指」は正確には「槌指(つちゆび)」と呼びます。野球、バレーボールでボールが指先に当たり受傷することが多数例です。もちろん交通事故外傷でも可能性があります。      【病態】

 DIP関節部への外傷が原因でDIP関節の伸展機能が損傷を受けたり、DIP 関節が亜脱臼となったものを言います。屈曲を強制されて生じるもの、軸圧によって生じるものの2種があり、治療法も異なるので注意が必要です。  放置すると関節が固まってしまい、いわゆるスワンネック変形を及ぼします。

swan←白鳥の首変形(スワンネック)  ※meddic様から拝借  

【治療】

 軽度であれば亜脱臼を整復後、消炎鎮痛処置します。しかし伸筋腱損傷や骨片を伴うもの、特に軸圧損傷で脱臼骨折となった場合はスワンネックにならないよう、手術で整復する必要があります。代表的な手術は以下、石黒法です。

マレット変形石黒法続きを読む »

【病態】

 PIP関節はMP関節脱臼に同じく背側への脱臼が普通です。また脱臼の際に骨折を伴うことが多いのが特徴です。つまり脱臼骨折ということになります。中節骨の近位端(=基部:根本の関節に近い方)が脱臼すると、基節骨の掌側に骨片が付着したままになります。理由は側副靭帯が引っ張っているからです。(下図)

PIP脱臼20140418_0000

【整復】

 まずは徒手整復してシーネ、テーピングで固定します。PIP関節脱臼は多くの場合、靭帯の損傷を伴っています。固定期間が長いと関節硬縮が起こりやすいので徒手整復後は早めに可動域訓練に進ませます。  脱臼骨折の場合は、骨片との癒合が得られるよう観血的手術も必要となります。靭帯に引っ張られて分離した骨片をきれいにくっけることはなかなか難しいのです。固定には専用のアルフェンスシーネが便利なようです。

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【病態】

 指が逆関節、つまり外側に強く曲げられて起きます。母指以外でのMP関節は頻度が低く、過伸展外力(指を逆関節=外側に開く)による背側脱臼がほとんどを占めます。ちなみにPIPも外側への脱臼が多いです。 MP

【整復】

 MP関節過伸展位をとっていますが、亜脱臼例の方が脱臼例よりも外見上の変形は高度です。しかし亜脱臼例は徒手整復が可能ですが、完全に脱臼をしてしまうとkaplanの井桁状の絞扼(下図)として知られる軟部組織の締め付けのために徒手整復は困難であり、ほとんど場合観血的手術が必要となります。 続きを読む »

【病態】

 中手骨は手の甲の5本の骨です。中手骨骨折は5番目である小指側に頻発します。中手骨の頚部骨折はボクサー骨折と呼ばれ、固いものを殴ると折れるようです。  

【整復】    10°以上の転位例では患指を牽引しながらMP関節、PIP関節を90°屈曲し、掌側より骨頭を押して整復します。 この固定法ですと皮膚壊死、屈曲硬縮が生じる可能性があるため、整復後はMP関節60°、PIP関節30°屈曲位で外固定します。

中手骨  

【後遺障害】    ベネット骨折は母指(親指)の表でしたが、母指以外の指の表を参照します。2分の1制限で「用廃」=12級10号となります。もっともこの骨折から2分の1程の関節可動域制限が起きること稀で、きちんと整復がなされれば、変形の12級相当や変形・転位が残存したの場合の疼痛=12級13号もめったにありません。やはり癒合状態が良好ながら痛むケース=14級9号の判断が多いようです。

部位

MP ...

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【病態】

 第1中手骨基部関節内斜骨折のことです(下図左参照)。母指外転筋の牽引により骨片が近位に転位(ずれる)すると手術の適用になります。

【整復】

 母指をけん引しながら外転、伸展し中手骨基部を橈側(親指側)・背部より圧迫して整復します。ベネット骨折は折れた基部が脱臼しやすい構造となっています。中手骨自体が長母外転筋の作用で外側に引っ張られ、逆に折れた基部が第2中手骨側に引っ張られるからです。このように牽引・圧迫を緩めると転位するため経皮ピンニングが必要です。経皮ピンニングとは鋼線を指に差し込んで折れた骨を固定する手術です。

ベネット

【後遺障害】

A:やはり可動域制限の計測が第一です。2分の1制限で「用廃」10級7号となります。もちろん関節可動域制限の基本通り、曲がらなくなるほどの変形、転位が前提条件です。もちろん対象はMP関節です。IP関節は受傷部から離れているのでベネット骨折と関係ないはずです。その場合は他の理由を追究しなければなりません。   B:可動域に制限なく痛み等が残れば、14級9号を抑えます。変形の12級相当や神経症状の12級13号は画像次第、相当の転位・変形がなければダメです。

 

部位

MP ...

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 手指の後遺障害はそれほど数は多くありません。いくつか経験したもの、よくあるものを5つ選び明日からシリーズで解説します。(参照・抜粋 『図解 整形外科 』 金芳堂)

 その前にまず手の骨と関節の名称を確認しましょう。

c_g_j_48

【母指(親指):第1指】

中手骨と基節骨の関節をMP関節 基節骨と末節骨の関節をIP関節

 

【その他の指:第2指(示指)第3指(中指)第4指(環指)第5指(小指)】

中手骨と基節骨の関節をMP関節 基節骨と中節骨の関節をPIP関節

中節骨と末節骨の関節をDIP関節

 

 このように親指以外は中節骨が存在します。欧米の医学界では親指を特に「サム」と呼び人差し指から第1指~4指とし、区別しています。  

【英語】 続きを読む »

 どもる、滑舌が悪い、発音がおかしい、言葉が詰まってしまう・・・流暢に話すことができない運動性の失語(ブローカ型)、そして意味のない空疎な発言ばかり、質問に対して関係のない回答をする、言葉が出てこなく考え込む・・・感覚性の失語(ウェルニッケ型)、これら2つに大別される失語ですが両方が障害されるケースもあります。  両方が障害され、その程度も重篤であれば「全失語」となります。「あの・・」「ええと・・」「だから・・」等の言葉が多く、ようやく単語を単発的に発言するのが精いっぱいで、連続した文章として話すことができません。

BrocasAreaSmall_(ja) 

混合性失語:言語表出も聴理解も障害される失語群

  (5)全失語

・病巣:ブローカ野とウェルニッケ野を含む広範な病巣

・基本概念:非流暢な発話、復唱障害、重篤な理解障害

・頻発症状:発語失行、残語、再帰性発話  

(6)混合型超皮質性失語

・病巣:ブローカ野とウェルニッケ野を孤立させるような病巣

・基本概念:非流暢な発話、良好な復唱、重篤な聴理解障害

・頻発症状:反響言語、補完現象    

その他

  (7)伝導失語

・病巣:ブローカ野とウェルニッケ野の連絡を断つような病巣(弓状束など)

・基本概念:流暢な発話、顕著な復唱障害、良好な聴理解

・頻発症状:音韻性錯語、自己修正による接近行為、音韻性錯読、錯書  

(8)失名詞失語(健忘失語)

・病巣:多様だがブローカ野単独の病巣で起こることもある

・基本概念:流暢な発話、良好な復唱、良好な聴理解

・頻発症状:迂言

 

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20140311082718 本日の病院同行は長野県です。3月ですが昨夜の積雪で銀世界です。    病院では言語聴覚士の先生に言語のリハビリの同席許可を頂き、依頼者の失語について詳しく聞きました。そしてデータとしてSLTA検査の結果を持ち帰りました。

 さて、失語と一言で言っても奥が深いもので、学術的な分類と臨床上の分類で微妙に違いがあるようです。過去、高次脳機能障害で数例経験していますが、ブローカ型(運動性質後)とウェルニッケ型(感覚性失語)のどちらかに2分できました。しかし本件はブローカ、ウェルニケ双方が併存する混合型で、初めて遭遇するタイプです。再度、失語症の分類について整理してみたいと思います。

 熊本県言語聴覚士会の資料が大変わかりやすく、本文の参考にさせて頂きました。  

運動性失語:聴理解より言語表出が障害される失語群

  (1)ブローカ失語

・1861年にポール・ブローカがムッシュー・タンの脳を剖検して発見。

・病巣:ブローカ野+中心前回下部

・基本概念:非流暢な発話、復唱障害、自発話に比べ良好な聴理解

・頻発症状:発語失行、失文法  

(2)超皮質性運動性失語

・病巣:ブローカ野を孤立させるような病巣

・基本概念:非流暢な発話、良好な復唱、自発話に比べ良好な聴理解

・頻発症状:無言症、発話開始の遅れ、保続、声量低下    

感覚性失語:言語表出より聴理解が障害される失語群

  (3)ウェルニッケ失語

・1874年にカール・ウェルニッケが発見。

・病巣:ウェルニッケ野を含む病巣

・基本概念:流暢な発話、復唱障害、聴理解障害

・頻発症状:音韻性錯語、語性錯語、ジャーゴン、錯文法     (4)超皮質性感覚性失語

・病巣:ウェルニッケ野を孤立させるような病巣

・基本概念:流暢な発話、良好な復唱、聴理解障害

・頻発症状:語性錯語、空虚な会話、読解障害、書字障害

     まずは基本の2種を4分類で整理しました。(明日に続く)

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5、味覚・嗅覚・めまい・ふらつき

  ☐ 味がついているのに大量に醤油をかけて食べる

☐ 事故後、苦手で食べられなかった魚介類が食べられるようになった

☐ 足元にガソリンがこぼれているのに煙草を吸おうとしてライターを点火した

☐ 腐った果物を平気で食べている  

 これらは実際に担当した被害者さんの例です。ガソリンの強烈な臭いがしない、痛んでいる果物の腐臭や腐った味がわからない・・・大変危険な障害と言えます。多くの場合、味覚と臭覚の異常は併発します。

 味覚・臭覚は前頭葉に損傷を受けた場合に失われる感覚です。また頭蓋底骨折から嗅覚、味覚、視覚、聴覚に障害を起こすケースがあります。機械で例えるなら脳そのものの損傷の場合、それらの感覚を認識する「回路の故障」です。神経の損傷の場合は神経の伝達が絶たれる事を原因とします。これは「ケーブルの断線」ですね。    高次脳機能障害でこれらを多数経験しています。五感(視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚)が正常か、すべてチェックする必要があります。該当する障害について眼科、耳鼻咽喉科、神経科にて受診し検査をします。回路の故障かケーブルの断線か、原因の特定は脳外科ですが、臭いがしない、味がわからないといった障害の有無、程度の検査はそれぞれの専門科になります。 c_n_2 c_n_4 続きを読む »

4、情動障害、人格変化

   これも前日の注意・遂行能力の障害に同じく、元々の個性を考慮しなければなりません。性格が怒りっぽい人やわがままな人もいるので、やはり家族から聞かなければわかりません。些細な変化では主治医でも把握できないのです。  

☐ 些細なことでキレる

☐ 幼児に返ったように行動・発言が子供っぽくなった

☐ 人前で着替えを始めてしまう

☐ 好きなお菓子ばかりずっと食べ続け、他の食べ物に見向きもしない  

 「易怒性」と言って多くの被害者で経験しています。理由なく不機嫌になる人もおりますが、多くは電車で人の声が大きいとか、テレビのニュースの内容が気に食わない程度のことで、いつまでも文句を言い続けています。通常は理性で抑えられるようなことも我慢できないようです。

 幼児退行は認知症患者に多い例です。高次脳機能障害でも30歳になるいい大人が部屋をぬいぐるみで一杯にしたり、家族に甘えたりわがままを言うようになります。

 羞恥心が低下する、感情を抑えられずにすぐ泣く、気に入らないと物にあたる、これらは「脱抑制」に分類されます。一つのことに執着する「固執性」がみられることがあります。

 このように感情を理性で抑えることができず、より本能的になってしまうようです。   c_g_ne_92  

☐ 毎週のようにゴルフをしていたのに、家にあるゴルフクラブに見向きもしなくなった

☐ 猫好きで何匹も飼っていたのに、世話をしなくなった

☐ 明るくよくしゃべる人だったのに、無口で暗くなった

☐ 「誰かが私の財布を隠した」など、被害妄想がある

☐ 掃除、片づけをまったくしなくなり、部屋は散らかり放題。逆にずぼらだった性格が几帳面になり、神経質に掃除をしている

☐ いつも疲れていて家でゴロゴロ、居眠りが多い。突然、寝落ちする      「性格変化」は文字通り性格が変わってしまうことです。久々に友人が訪ねてきてもそっけなく、友人は「人が変わった?」ように感じます。私の経験では性格が陽気になった例はなく、多くは陰気、人見知り、悲観的になる傾向でした。

 極端に疲れやすい。これは肉体的な疲れというよりは精神的な疲れです。「易疲労性」に分類されます。この障害により職場や学校への復帰が困難となります。

c_n_91続きを読む »

3、注意障害、遂行機能

 注意障害と遂行能力障害の兆候は重なる部分が多く、多くの場合、併発します。障害ではなく、そもそも飽きっぽい人、要領が悪い人がおります。元々の能力、性格かもしれません。やはり事故前後の比較が必要で、家族の観察を聞かねば判断できません。

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☐ 仕事を始めてもすぐぼーっとしてしまう。集中力がもたない

☐ お皿を洗っている途中で、テレビを観始めてしまう

☐ 窓の掃除をすると、ずっと同じところを拭いている    注意障害とは集中力が極端に低下します。したがって脈絡のない行動にでたり、会話もまとまりがなく、話が飛びがちです。同時にいくつかの作業を進めることができなくなります。また逆に一つのことに固執してしまうこともあります。これでは仕事や勉強も長続きしません。

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☐ 旅行の計画はおろか、スケジュールを組むことができない

☐ 買い物の段取りが悪く、売り場を行ったり来たりして何倍も時間がかかる

☐ コピーを取ってFAXをする、その間に電話をするなど同時並行で複数の作業ができない

☐ ...

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2、視覚認知機能、失認、失行

  ☐ 歩いていてよく左肩をぶつけませんか?  

 左目が見えないというより左目に映る映像を認識できない状態です。これは「半側空間無視」です。圧倒的に左側に問題が生じます。通常、人は眼に映った情報を脳で解析しています。しかし脳の解析システムが故障することよって、映るものが認識できない状況に陥るのです。したがって当人は見えてないことすら自覚できません。コブクロのギターを持っている方しか見えない?状態です。

 以下の兆候がないか家族から聞き取る必要があります。

・ 食卓に並んだいくつかのおかずの皿から右半分しか箸をつけない ・ 片側から話しかけられても反応しない、片側に人が立っていても存在に気づかない ・ 家の絵を描かせると片側半分だけしか描かない

   c_n_62  

☐ 右手を出してと言われて左手を出したり、よく左右を間違えませんか?  

 左右の側頭葉のどちらかが損傷した被害者で数例、経験しています。左右が定かではなくなり、よく右と左を間違えます。一般に「左右失認」と呼ばれています。些細な事のようですがこの障害から様々な場面で判断力が低下する傾向があります。  また病院内で一回廊下を曲がると帰ってこれない、自分の位置に混乱をきたす「空間認識能力の低下」などは右側頭葉の障害で経験があります。  

☐ 主治医の顔、もしくは新しく会った人の顔を覚えられないなどありますか?

   顔を覚えるのが苦手のレベルでは済まない症状は「相貌失認」と言われています。相貌失認では人の区別だけではなく、「笑っているのか、怒っているのか」など表情を読み取る観察力も失われることがあります。

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  ☐ 箸やスプーン、歯ブラシが使えなくなったり、よく使っていた電気器具の使用法を忘れてしまったことはありますか?  

 「失行」とは日常動作がスムーズにできなかったり、今まで使っていた道具が使えなくなる障害です。着衣の動作がぎこちない、ズボンを逆に履いてしまう、さらにそれに気づかない、愛用していたステレオが使えなくなった…。ご家族から色々エピソードを聞き出します。 続きを読む »

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