涙小管断裂(るいしょうかんだんれつ)
(1)病態
まぶたの中の涙腺から分泌された涙液が過剰となったときは、それが鼻腔へ排出される経路=涙道が、人体には備えられています。涙道は、涙点、涙小管、涙嚢、鼻涙管で構成されています。目に溜まった過剰な涙は、目頭にある吸入口=涙点から吸収され、涙小管を経て眼窩下壁の窪み=涙嚢に溜まり、そこから鼻涙管を経て鼻腔へ排出されているのです。
(2)症状
これらの経路が、外傷などで損傷を受けると涙道損傷を来します。放置すると、涙道は連続性が絶たれ、涙液の鼻腔への排出ができなくなり、涙は内眼角付近からこぼれ、頬を伝って落ちるようになります。流涙が続くことになります。
涙液には眼球の乾燥防止と眼球や眼瞼結膜の清浄化する作用があります。流涙が生じた側では、涙液の正常な排出機能が無くなり、結膜の清浄化が損なわれ、眼脂が溜まりやすくなり、結膜炎を起こしやすくなります。結膜炎が生じると、涙腺は一層刺激され、さらに涙液を分泌するようになります。涙道の閉塞した目は、結膜炎で赤くなり、常に涙を垂れ流しながら生活をしなければなりません。
これらの損傷は、主として、涙小管と鼻涙管で生じます。涙小管断裂は、交通事故で目頭を深く切ったときに発生しています。
(3)治療
断裂した管の遠位・近位端を縫合して管を再建し、管内へシリコン製のチューブを挿入して管の癒着や狭窄の防止をはかります。挿入期間は損傷の程度によって異なりますが、短くて2週間、長ければ6カ月以上のこともあります。最初の治療で、管の損傷が見逃された陳旧例では、管の再建は非常に困難となります。初期治療での管の再建が大切です。
鼻涙管損傷は鼻涙管が走行する上顎骨が骨折、骨片がずれることで、管が閉塞した状態をいいます。鼻涙管損傷では、上顎骨を適切に整復すれば管も再開通しますが、不適切な整復では閉塞したままとなり、このときは、涙嚢から鼻腔へ直接涙が排出する経路を設ける、涙嚢鼻腔吻合術が行われます。
上記の治療で、涙道が再開通すれば、流涙は消失し、眼脂の付着や結膜炎などの付随する症状は軽快するのですが、どこででも受けられるオペではありません。交通事故による涙小管断裂では、多くの治療先で経験則が乏しく、放置されています。また、損傷が大きく、オペができないことも発生しています。
(4)後遺障害のポイント
涙小管断裂により、1眼に常に流涙が認められるものは14級相当が認定されています。なお、涙小管断裂による流涙が両眼に残存しているときは12級相当が認定されます。ただし、流涙を残す眼や両眼が失明したときは、いずれも、流涙による等級の認定はありません。
交通事故110番では、散髪屋さんのご主人で涙小管断裂の相談例があります。彼は、左膝の高原骨折で10級11号が認定されており、これが損害賠償の基本となりました。涙小管断裂による14級相当はおまけの扱いでしたが、現実の理髪業では、涙小管断裂による、絶え間のない流涙が大きな支障となっていました。
左膝の高原骨折による疼痛と可動域制限は、補助椅子に座ることで解決できたのですが、流涙を止めることができないので、常に、ガーゼで目を拭わなければなりません。実際に、弁護士が苦労したのは、休業損害と逸失利益の基礎収入の算出で、税務申告は、かなりな過少申告で参考になりません。現実収入を証明する証票はなく、帳簿の記載もなかったのです。
6カ月を要して、実績の積み上げを行い、損害賠償につなげたのですが、涙小管断裂による支障を損害賠償で実現するところまで漕ぎ着けませんでした。私は、今でも、支障のれべるから、14級の評価は低すぎると考えています。
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