(4)後遺障害のポイント   Ⅰ. 交通事故外傷では、上手に修復されたとしても、多くで、複視を残します。骨折部分や骨の欠片が、眼を動かす筋肉やその筋肉を支配している神経などを損傷させ、これらの筋肉などの損傷では、眼を上下左右に適切に動かせなくなり、モノが2重に見える複視が生じるのです。複視には正面視での複視、左右上下の複視の2種類があります。

   検査には、ヘスコオルジメーター=ヘススクリーンを使用し、複像表のパターンで判断します。

ヘスコオルジメーター

   複視の後遺障害の認定要件は、以下の3つとなります。   ① 本人が複視のあることを自覚していること、   ② 眼筋の麻痺など、複視を残す明らかな原因が認められること、   ③ ヘススクリーンテストにより患側の像が水平方向または垂直方向の目盛りで5°以上離れた位置にあることが確認されること、    正面視で複視を残すものとは、ヘススクリーンテストにより正面視で複視が中心の位置にあることが確認されたもので、正面視以外で複視を残すものとは、上記以外のものをいいます。

 複視は、眼球の運動障害によって生ずるものですが、複視を残すと共に眼球に著しい運動障害を残したときは、いずれか上位の等級で認定することになります。正面視の複視は、両眼で見ると高度の頭痛や眩暈が生じるので、日常生活や業務に著しい支障を来すものとして10級2号の認定がなされます。

 左右上下の複視は正面視の複視ほどの大きな支障は考えられないのですが、軽度の頭痛や眼精疲労は認められます。この場合は13級2号の認定がなされます。

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 眼窩底骨折(がんかていこっせつ)

 予想される障害 ⇒ 眼球運動障害・複視・視野障害・眼球陥凹・瞼裂狭小化・眼窩下神経領域の知覚障害     (1)病態

 眼窩底は厚みが薄く、紙と例えられており、外傷で容易に損傷し、眼窩内容物が上顎洞に侵入することも頻繁です。しかし、生物学的には、これにより、眼球破裂を回避しているのです。

※ 眼窩内容物  眼窩とは、頭骨の前面にあって眼球が入り込む窪みですが、眼窩内容物とは、眼球や視神経・外眼筋・涙腺などの付属器神経、血管、脂肪などのことで、眼窩では、これらを収納し、保護しています。

 眼窩を構成する骨は、頬骨、上顎骨、涙骨、篩骨、前頭骨、口蓋骨、蝶形骨の7つで、眼窩の上縁と下縁はそれぞれ前頭骨と上顎骨によって形成されています。前頭骨と上顎骨は、強度があり、骨折し難いのですが、眼窩底は厚みが薄く、とりわけ篩骨は、外傷で容易に骨折してしまいます。眼窩底破裂骨折は、吹き抜け骨折とも呼ばれ、特に、眼窩内側と眼窩底に多発しています。   (2)症状

 ふきぬけ骨折では、眼窩内の出血が副鼻腔を介して鼻出血を生じることもあり、眼球運動障害、複視、 視野障害、眼球陥凹、瞼裂狭小化、眼窩下神経領域の知覚障害を発症することがあります。

 交通事故では、歩行者、自転車、バイクの運転者に多く、顔面を強く打撲することで、発症しています。眼窩底破裂骨折では、事故直後に眼球が陥凹、あっという間に、眼窩内出血やまぶたの腫脹によって眼瞼が狭小化していき、ゾンビ状態となるのですが、これを目の当たりにした暴走族の彼女が、白目をむいて気絶したなんて、笑えないお話しも、無料相談会では聞かされています。しかし、眼球自体には、損傷がおよばないことがほとんどです。

 直後の症状では、眼球の上転障害がみられ、これに伴う複視や視野障害、眼窩下神経領域の感覚障害により頬から上口唇のシビレ、眼球陥没、痛み、骨折部分の腫れ、皮下気腫、目の周りの青紫色のあざ、鼻出血、眼球下垂、球後血腫、眼球内陥、視野狭窄、吐き気などがあります。   ※ 球後出血  眼窩骨折では、骨折で傷ついた血管から出た血が溜まることがあり、これを球後出血と呼びます。そうなると、眼球や視神経、眼球に出入りする血管が圧迫されて視力障害を起こすことがあります。   ※ 眼球陥入、眼球内陥、眼球陥没  眼窩壁の骨折が広い範囲におよぶときは、眼球が眼窩の中に沈み込みます。このことを眼球陥入などと言います。   (3)検査・治療

 検査は、顔面の単純XP、内側壁骨折に対してはCTが有効です。頭部CTでは、3DCTで眼球陥凹と内側壁骨折所見がハッキリと描出されます。頭部外傷では、MRI撮影も必要です。

 眼窩底破裂骨折は、頭蓋骨骨折ですから、脳神経外科の対応が必要です。脳震盪、脳挫傷、眼窩下神経障害、視神経障害を合併することがあり、神経質な対応が必要です。

 眼窩底骨折の治療は、骨折した部分の整復手術です。骨の損傷が軽度では、骨を整復して眼窩内容物を落ないように固定します。    手術が必要なのは、以下の2つです。   ① 骨折した部分に眼球周囲の筋肉や眼窩内の軟部組織が挟まり、複視が生じているとき、   ② 眼球が眼窩内に陥入しているとき、    骨の損傷が重度では、チタン製やシリコン素材などで作られた補正用プレートを眼窩内に入れ、眼球を支える土台を作ることもあります。腸骨からの骨移植で、骨癒合を促進させることも実施されています。その他に、上顎洞バルーン、分かりやすくは風船素材を鼻腔内に3~4週間挿入し、眼球を支えるオペも行われています。

 鼻出血では、鼻をかむことを避ける指示がなされ、代わりに、スプレー式点鼻薬が使用されています。また、骨折がごく軽度では、手術を見送り、経過観察をすることもあります。    つづく ...

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(1)病態

 眼球には、角膜と水晶体の2つのレンズがあります。いずれも無色透明の組織で、角膜は、形が変わらない固定レンズ、水晶体は、見るものの距離に応じて厚みが変わる可変レンズの役目を果たしています。

 外界からの光は、角膜で70%程度の屈折を完了し、残りの30%は水晶体で行っています。水晶体自体では、厚みを変化させることはできず、このレンズに、周りから力を加えているのが毛様体とチン小帯=毛様小体です。

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 水晶体亜脱臼(すいしょうたいあだっきゅう) ⇒ 複視  

(1)病態

 カメラで言えば、レンズの役目を果たしているのが水晶体ですが、この水晶体が正しい位置からずれた状態を亜脱臼、完全に外れてしまった状態を脱臼といいます。具体的には、水晶体は、チン小帯と呼ばれる細い糸で眼球壁に固定されています。

 チン小帯のもう一方の端は虹彩につながる毛様体に付着し、虹彩の後方、瞳孔の中心に位置するように固定されているのです。水晶体が完全に支えを失って後方の硝子体の中に沈み込む、瞳孔を通って虹彩の前に飛び出たものを水晶体完全脱臼、一部の支えを失って、下方に沈んだときは、亜脱臼といいます。ズレの方向によって、前方脱臼、後方脱臼、側方脱臼などともいわれています。   ※ チン小帯

 チン小帯とは、毛様体と水晶体の間を結び、水晶体を支える働きをしています。

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(4)後遺障害のポイント   Ⅰ.  まぶしさ

 外傷性虹彩炎では、軽度なものが多く、後遺障害を残すことは稀ですが、虹彩離断となると、かなり高い確率で、視力低下、複視、まぶしさ、瞳孔不整形の後遺障害を残します。

 まぶしさ=羞明については、瞳孔の対光反射が著しく障害され、著明な羞明により労働に支障を来すものは、単眼で12級相当、両眼で11級相当が認定されています。

 瞳孔の対光反射は認められるが不十分であり、羞名を訴え労働に支障を来すものは、単眼で14級相当、両眼で12級相当が認定されます。 いずれも、対光反射検査で立証します。  

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 虹彩離断(こうさいりだん)  

↑ 茶目=虹彩が断裂しています

(1)病態

 交通事故の鈍的外傷により、虹彩が離断されたもので、ほとんどで、前房出血を伴います。シートベルトをクリップで挟み込み、身体をあまり締め付けない状態で運転しているドライバーを見かけますが、正面衝突でエアバッグが膨らんだ際に、虹彩離断を発症した例があります。シートベルトをクリップで挟み、ユルユルにしていたことが分かれば、人身傷害保険は無責、対人保険であっても、無責、もしくは減額とされることが確実で、勝手な自己判断は、慎まなければなりません。   (2)症状

 外力による圧力で、茶目が引き伸ばされ、引き裂かれたものと覚えてください。瞳孔は、正円をしていますが、離断した虹彩に引っ張られて、不整形となります。茶目の全周が離断すると、外傷性無虹彩症と呼んでいます。外傷性虹彩炎よりは重傷で、視力低下、まぶしさ=羞明や眼圧の上昇などの症状が現れます。   (3)治療

 視力、眼圧、細隙灯顕微鏡検査、眼底検査などが実施され、外傷性虹彩炎、高眼圧、硝子体出血、網膜剥離などの合併症の有無を確認し、治療は、散瞳薬、ステロイド薬の点眼で炎症を鎮め、高眼圧に対しては、点眼および内服治療が行われています。大きな離断では、瞳孔偏位や多瞳孔症も予想され、単眼複視や眩輝、羞明の症状が出現します。

 虹彩離断は、しばしば隅角後退を伴い、緑内障や前房出血の原因ともなっています。著しい複視、眩輝、瞳孔の不整形を生じている大きな剥離、離断では、まぶしさと視界の改善を目的に、虹彩剥根部の縫合術が行われています。   ※ 隅角検査 ・・・隅角とは、正面から見えない、角膜と虹彩の根元が交わる部分であり、細隙灯顕微鏡で検査します。隅角には、眼圧を調節する房水の排出口があり、隅角検査は、緑内障を診断する上で欠かせない検査となっています。外傷性虹彩離断では、隅角が後退するリスクがあり、眼圧亢進は、隅角後退を原因としています。   ※ 房水・・・眼内組織に栄養を運ぶ液体を房水と呼んでいます。   ※ 多瞳孔症・・・多瞳孔症=重瞳(ちょうどう)は、1つの眼球に、瞳が2つ認められることです。

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 涙小管断裂(るいしょうかんだんれつ)  

(1)病態

 まぶたの中の涙腺から分泌された涙液が過剰となったときは、それが鼻腔へ排出される経路=涙道が、人体には備えられています。涙道は、涙点、涙小管、涙嚢、鼻涙管で構成されています。目に溜まった過剰な涙は、目頭にある吸入口=涙点から吸収され、涙小管を経て眼窩下壁の窪み=涙嚢に溜まり、そこから鼻涙管を経て鼻腔へ排出されているのです。   (2)症状

 これらの経路が、外傷などで損傷を受けると涙道損傷を来します。放置すると、涙道は連続性が絶たれ、涙液の鼻腔への排出ができなくなり、涙は内眼角付近からこぼれ、頬を伝って落ちるようになります。流涙が続くことになります。

 涙液には眼球の乾燥防止と眼球や眼瞼結膜の清浄化する作用があります。流涙が生じた側では、涙液の正常な排出機能が無くなり、結膜の清浄化が損なわれ、眼脂が溜まりやすくなり、結膜炎を起こしやすくなります。結膜炎が生じると、涙腺は一層刺激され、さらに涙液を分泌するようになります。涙道の閉塞した目は、結膜炎で赤くなり、常に涙を垂れ流しながら生活をしなければなりません。

 これらの損傷は、主として、涙小管と鼻涙管で生じます。涙小管断裂は、交通事故で目頭を深く切ったときに発生しています。   (3)治療

 断裂した管の遠位・近位端を縫合して管を再建し、管内へシリコン製のチューブを挿入して管の癒着や狭窄の防止をはかります。挿入期間は損傷の程度によって異なりますが、短くて2週間、長ければ6カ月以上のこともあります。最初の治療で、管の損傷が見逃された陳旧例では、管の再建は非常に困難となります。初期治療での管の再建が大切です。

 鼻涙管損傷は鼻涙管が走行する上顎骨が骨折、骨片がずれることで、管が閉塞した状態をいいます。鼻涙管損傷では、上顎骨を適切に整復すれば管も再開通しますが、不適切な整復では閉塞したままとなり、このときは、涙嚢から鼻腔へ直接涙が排出する経路を設ける、涙嚢鼻腔吻合術が行われます。

 上記の治療で、涙道が再開通すれば、流涙は消失し、眼脂の付着や結膜炎などの付随する症状は軽快するのですが、どこででも受けられるオペではありません。交通事故による涙小管断裂では、多くの治療先で経験則が乏しく、放置されています。また、損傷が大きく、オペができないことも発生しています。   (4)後遺障害のポイント

 涙小管断裂により、1眼に常に流涙が認められるものは14級相当が認定されています。なお、涙小管断裂による流涙が両眼に残存しているときは12級相当が認定されます。ただし、流涙を残す眼や両眼が失明したときは、いずれも、流涙による等級の認定はありません。    交通事故110番では、散髪屋さんのご主人で涙小管断裂の相談例があります。彼は、左膝の高原骨折で10級11号が認定されており、これが損害賠償の基本となりました。涙小管断裂による14級相当はおまけの扱いでしたが、現実の理髪業では、涙小管断裂による、絶え間のない流涙が大きな支障となっていました。

 左膝の高原骨折による疼痛と可動域制限は、補助椅子に座ることで解決できたのですが、流涙を止めることができないので、常に、ガーゼで目を拭わなければなりません。実際に、弁護士が苦労したのは、休業損害と逸失利益の基礎収入の算出で、税務申告は、かなりな過少申告で参考になりません。現実収入を証明する証票はなく、帳簿の記載もなかったのです。

 6カ月を要して、実績の積み上げを行い、損害賠償につなげたのですが、涙小管断裂による支障を損害賠償で実現するところまで漕ぎ着けませんでした。私は、今でも、支障のれべるから、14級の評価は低すぎると考えています。   続きを読む »

 外傷性散瞳(がいしょうせいさんどう)    想定される障害 ⇒ 羞明(しゅうめい)・・・ 普通の人がまぶしいと感じない光をまぶしいと感じる状態をいいます。

 

(1)病態

 先に、虹彩について、カメラの絞りに相当するもので、自律神経が瞳孔の散大筋、括約筋をコントロールし、明暗により眼に入る光の量を自動的に調節していると解説しています。

 交通事故で、眼に鈍的打撲を受けると、ときとして、瞳の大きさを調節する筋肉が機械的な損傷を受け、ることがあります。散大筋、もしくは括約筋の損傷により、瞳の大きさを調節することができず、瞳が大きくなったままの状態を外傷性散瞳といいます。

 時間の経過で、徐々に回復することも報告されていますが、筋肉の損傷では、現実的には、治療の方法がありません。   (2)症状

 明るいところに出ても、瞳を小さく調節することができず、まぶしさや像のぼやけの症状が出現し、散瞳が大きければ、この症状は強くなります。まぶしさから逃れるには、虹彩付きのコンタクトレンズを装用することになります。

 散瞳および虹彩根部の損傷によって外傷性の続発性緑内障を発症することも予想されます。逆に、瞳が小さくなる、外傷性縮瞳となることもあります。   (3)後遺障害のポイント   Ⅰ.

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 外傷性虹彩炎(がいしょうせいこうさいえん)     (1)病態

 前房は、虹彩と透明な角膜の間の部分をいい、虹彩は、前房を含む目の前側部分を言います。外傷性虹彩炎とは、打撲による茶目の部分=虹彩の炎症であると覚えてください。   (2)症状

 交通事故によるまぶた部分の鈍的外傷で、虹彩に炎症が生じると、前房出血を伴い、羞明や、流涙、強い目の痛み、充血、視力低下などの症状が現れます。虹彩炎の合併症には、白内障や緑内障、そして虹彩以外の部分への炎症の波及なども予想され、これらの合併症は視力の低下、ときには、失明に至るので神経質に対応しなければなりません。   続きを読む »

   外傷性斜視(がいしょうせいしゃし)  

  左から内斜視・外斜視・上斜視・下斜視

  (1)病態

 斜視には、内斜視、外斜視、上斜視、下斜視の4種類があります。    片目が正常な位置にあるときに、   ① 内斜視とは、もう片方の目が、内側に向いている、   ② 外斜視とは、もう片方の目が、外側に向いている、   ③ 上斜視とは、もう片方の目が、上側に向いている、   ④ 下斜視とは、もう片方の目が、下側に向いている状態のことです。    自動車や自転車、歩行中の交通事故などで、頭部、眼部に対する強い打撃により斜視となることがあり、外傷性斜視といわれています。

 眼窩底ふきぬけ骨折は、斜視を伴う代表的な傷病名です。頭部外傷、外傷性くも膜下出血では、外転神経などの視神経が影響を受け、眼球運動に障害が起こることもあります。

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 滑車神経麻痺(かっしゃしんけいまひ) ⇒ 複視     (1)病態

 眼球を内側に向け、引き続き下に向けるとき、つまり自分の鼻を睨むときに働く筋肉が上斜筋です。眼球を動かす神経の1つ、滑車神経=第4脳神経が上斜筋を支配しており、上斜筋の麻痺は、すなわち滑車神経麻痺となるのです。

 交通事故では、バイクの運転者の頭部外傷、側頭骨骨折、眼窩壁骨折を原因として発症しています。   (2)症状

 麻痺した側の眼は、内側と下側に動かないので、片方の像がもう片方の像より少しだけ上と横にずれて見える複視が出現し、階段を下りるのが困難になります。階段を下りるには、内側と下側を見る必要があるからです。しかし、麻痺が生じている筋肉と反対方向に頭を傾ければ、複視を打ち消すことができます。この姿勢をでは、麻痺していない筋肉により、両眼の焦点を合わせることができるからです。   (3)治療

 CT、あるいはMRI検査で確定診断が行われています。治療としては、上下のズレにつき、プリズムレンズの眼鏡による補正が行われていますが、これでは、傾きの補正できないのが難点です。眼の体操でやや改善が得られることもありますが、複視の根治には、上直筋の下方で、この筋肉を縫い縮める手術が実施されています。   (4)後遺障害のポイント   Ⅰ.

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 外転神経麻痺(がいてんしんけいまひ) ⇒ 複視の障害     (1)病態

 外転神経は、外側直筋を収縮させ、眼球を外側に向かって水平に動かします。眼球の運動に関わる神経は、ほかに動眼神経、滑車神経がありますが、正常な視機能を成立させるには、脳の命令にしたがって眼球を的確に動かすことが必要となります。例えば、両眼を連動させ、常に同じ視野を捉えていなければ、モノが2つに重なって見えることになり、正しい立体感も得ることができなくなります。   (2)症状

 交通事故による頭部外傷で、外転神経が麻痺すると、眼球は外転ができなくなり、正常よりも内側を向く内斜視となります。側頭骨々折、眼窩壁骨折などにより、外側直筋を断裂したときも、同じ症状となります。そうなると、両眼の視線が見たい物の場所で交わらなくなり、複視の症状が現れます。複視とは、モノが2つにダブって見えることです。

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 眼瞼下垂(がんけんかすい)と瞳孔(どうこう)の収縮          (1)病態・症状

 ホルネル症候群では、①片側のまぶたが垂れ下がり、②瞳孔が収縮して、③発汗が減少します。交通事故では、眼と脳を結ぶ神経線維が分断されることが原因で発症しています。

 眼と脳をつなぐ神経線維のいくつかは環状になっており、それらの神経線維は脳から脊髄に沿って下行、脊髄を下ったあと、胸部から出て、頚動脈のそばを通って上へ戻り、頭蓋を通って、眼に到達しているのですが、神経線維がこの経路のどこかで分断されると、ホルネル症候群が起こります。

 ホルネル症候群は、交通事故外傷による頭、脳、頚部、または脊髄の疾患、大動脈や頚動脈の解離、などが原因で発症すると報告されています。この部分は覚える必要はありません。   (2)治療

 医師は、症状が出ている側の眼に、コカインを少量含む点眼薬をさし、30分を経過しても瞳孔が広がらなければ、ホルネル症候群と診断します。その後、他の点眼薬による検査が実施され、それらの点眼薬に瞳孔がどのように反応するかを見ることで、神経損傷のおよその位置がわかります。脳、脊髄、胸部、頚部などのCT、MRI検査も必要となります。原因が特定されれば、その治療が開始されますが、ホルネル症候群そのものに対する具体的な治療法はなく、改善は、風まかせです。   (3)後遺障害のポイント   1、眼瞼下垂

 後遺障害の、まぶたに著しい運動障害を残すものとは、まぶたを閉じたときに、角膜を完全に覆えないもので、兎眼、まぶたを開いたときに、瞳孔を覆うもので、これは、眼瞼下垂と呼ばれています。

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(3)後遺障害のポイント   ① 眼球の運動障害

 眼球の運動は、上下・内外・上下斜めの3対の外眼筋の一定の緊張で維持されています。動眼神経麻痺により、外眼筋の一部が麻痺すると、緊張状態が壊れ、反対の方向に偏位します。

 ゴールドマン視野計で注視野を測定し、注視野の広さが2分の1以下に制限されていれば、著しい運動障害として、単眼で12級1号、両眼で11級1号が認定されています。  

ゴールドマン視野計

  1、注視野

 頭部を固定した状態で、眼球の運動のみで見える範囲のことで、単眼視では各方向50°両眼視では45°となります。

 単眼、両眼の注視野の範囲は、以下の通りです。続きを読む »

 動眼神経麻痺(どうがんしんけいまひ)

 ⇒ 複視・眼球の運動障害・眼瞼下垂・瞳孔散大

 

(1)病態

 動眼神経麻痺は、眼本体の外傷ではなく、頭部外傷、脳幹部損傷や脳圧の亢進により、第3脳神経が圧迫を受け、これが引き伸ばされたときに発症するものです。

  (2)症状

 動眼神経が麻痺すると、真っ直ぐ正面を見ているときでも、麻痺が生じた眼は外側を向いており、モノが二重に重なって見える=複視を発症します。

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【2】まぶたの運動障害

 まぶたの運動障害は、顔面や側頭部の強打で、視神経や外眼筋が損傷されたときに発症します。ホルネル症候群、動眼神経麻痺、眼瞼外傷による上眼瞼挙筋損傷、外転神経麻痺が代表的な傷病名となります。    まぶたには、 まぶたを閉じる=眼瞼閉鎖、

        まぶたを開ける=眼瞼挙上、

        瞬き=瞬目運動    以上の3つの運動があり、後遺障害である、まぶたに著しい運動障害を残すものとは、瞼を閉じたときに、角膜を完全に覆えないもので、兎眼と呼ばれています。同じく、まぶたを開いたときに、瞳孔を覆うもので、これは、眼瞼下垂と呼ばれています。

 単眼で12級2号、両眼で11級2号が認定されますが、男女とも、相当に深刻です。 実務上では、顔面の醜状障害として上位等級の9級16号も視野に入れます。   続きを読む »

 外傷性眼瞼下垂(がいしょうせいがんけんかすい)

 ⇒ まぶたの欠損・運動障害  

(1)病態

 眼瞼挙筋は、まぶたや眼球の運動に関わる動眼神経が支配しており、自分の意志でまぶたを開けたり閉じたりすることができる筋肉です。ミュラー筋は自律神経が支配しており、自分の意志で動かすことはできません。また、額の筋肉の前頭筋も眉毛を上げる作用があります。眼瞼下垂などで、まぶたが開けにくい状態では、前頭筋を使ってまぶたを上げることが癖となり、額のしわが深くなります。

 外傷性の眼瞼下垂は、腱膜性眼瞼下垂と呼ばれるものと動眼神経麻痺の2つに分類されます。腱膜性眼瞼下垂は、挙筋腱膜の断裂や瞼板との付着部分が分離するなどにより、瞼板を正しく持ち上げることができず、まぶたが開きづらくなっている状態です。上まぶたが下垂し、まぶたが開きにくくなることで、物が見えにくい状態を眼瞼下垂と呼び、先に説明の、まぶたの切創=裂傷で、眼瞼挙筋や挙筋腱膜を損傷することでも発症します。   (2)後遺障害のポイント

【1】まぶたの欠損

 交通事故によるまぶたの切創=裂傷では、縫合や形成術を行っても、著しい欠損を残すことが予想されるのです。

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(1)病態

 まぶたの皮膚は、まつ毛側に近づくにつれて薄くなり、眉毛側は分厚く固い皮膚となっています。薄い皮膚の直下には、皮膚と密に癒着している眼輪筋、まぶたを閉じるための筋肉があります。眼輪筋の下には脂肪層があり、脂肪層の下には、目の縁に瞼板という軟骨があります。    まぶたを開けるのに使われる筋肉には、眼瞼挙筋ミュラー筋5の2つがあります。これらは共に瞼板に付着していますす。    交通事故によるまぶたの外傷では、   ① まぶたの打撲による腫脹 ② まぶたの皮下出血    ③ まぶたの切創=裂傷 ④ 外傷性眼瞼下垂 ⑤ 涙小管断裂が予想されます。    ① まぶたの腫脹    上下のまぶたの打撲による軟部組織の腫脹で、交通事故では、自転車やバイクの運転者に多発しています。眼球内に炎症がおよんでいなければ、安静とアイシングにより、1週間前後で治癒するので、後遺障害を残すことはありません。   ② まぶたの皮下出血

 上下のまぶたの打撲で、まぶたの皮下血管が損傷を受け、内出血します。目の周りが黒ずみ、皮膚が紫色に腫れ、目が開けられなくなることもあります。視力や眼球運動に異常がなければ、安静、アイシングで1、2週間で皮下出血は吸収され、予後も良好で、後遺障害を残しません。

③ まぶたの切創=裂傷

 刃物による切創ではなく、ボクシングでも、不意のバッティングや拳の打撃により、また、交通事故の打撲でも、まぶたが切創することがあります。

 まぶたの創は、ひどい出血を伴いますが、厚く重ねたガーゼで15分ほど圧迫すると、ほとんど止血することができます。止血後に、眼科あるいは形成外科で縫合することになります。普通は、2週間程度で治療は完了します。

 複雑で大きな裂傷では、まぶたに瘢痕を残し、顔面醜状として後遺障害の対象になります。 瘢痕であれば10円銅貨以上、線状痕であれば3cm以上で、12級14号が認められます。

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眼底・網膜・硝子体・脈絡膜出血(しょうしたい・みゃくらくまくしゅっけつ)

(1)病態

 交通事故の衝撃をまぶたに受けて、網膜や脈絡膜、硝子体に出血を起こすことをいいます。とりわけ、黄斑部に出血を起こすことが多いのですが、黄斑部は、外傷性黄斑円孔で解説していますが、モノを見る最も大切な部位であり、出血すると、出血が吸収されたとしても、黄斑部の視細胞が損傷され、中心部だけが見えない中心JL暗点と視力低下を残すことがあります。

 治療は、安静と止血剤や消炎酵素剤を投与しますが、視力改善は困難で、オペもできません。   (2)治療

 治療は、止血剤や血管強化剤などの投与や、レーザー光での凝固術が行なわれています。レーザー光凝固術は、出血部の網膜を焼き固めて、網膜の血流をスムーズにし、出血の吸収と再出血を防止させるために有効なオペですが、改善が得られないときは、硝子体切除術を行ない、出血で濁った硝子体を取り除いて、視力回復を試みます。

 硝子体は眼球の丸みを保つために必要な組織であり、切除では、代わりにシリコンオイルやガスが注入されています。   (3)後遺障害のポイント

Ⅰ 後遺障害は、視力低下がポイントになりますが、黄斑部以外の出血では、程度が軽ければ、後遺症を残すことなく治癒しています。   Ⅱ 硝子体出血とは、網膜やブドウ膜の出血が、硝子体に流れ込んでいる状態です。出血が軽度では、出血した血液は徐々に吸収され、眼底が十分に見えるようになると、視力は回復し、後遺障害を残すことはありません。   Ⅲ 大量出血のとき、また、出血が完全に吸収されたものの、膜状の混濁が硝子体に残ったときは、この膜を切除して視力の改善をさせるなどの手術が行われています。網膜剥離を合併しないときは、後遺障害を残しません。    次回 ⇒ 眼瞼=まぶたの外傷  

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 網膜振盪症(もうまくしんとうしょう)

  (1)病態

 交通事故では、自転車、バイクの運転者の眼球打撲で発症しています。

 打撲の衝撃が眼底に加わることで、網膜の黄斑部に浮腫を起こした状態です。皮膚にモノが当たると、内出血はしないものの、腫れることがあります。そのことが、眼底の一部に起こったと想像してください。眼の奥を見ると、黄斑部が乳白色に混濁し、小出血を伴っていることもあります。   (2)症状

 視力は、ダブって見える、ぼやけることもありますが、安静加療で、2、3日で元通りとなります。外傷の程度が強いときは、次に説明する黄斑円孔、脈絡膜出血などが予想されます。   (3)治療

 交通事故による眼球の打撲では、後に緑内障の原因となる外傷性の虹彩離断、外傷性白内障、水晶体亜脱臼、硝子体出血、網膜剥離などを合併することがあります。眼球の打撲では、眼科の受診など、神経質な対応が求められます。   (4)後遺障害のポイント

 平均的には、2、3週間で治癒し、網膜振盪症で後遺障害を残すことはありません。     次回 👉 眼底・網膜・硝子体・脈絡膜出血  

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