(1)病態

 腱鞘炎は、タイピングなどの事務作業で、限度を超えて上肢を酷使した場合、発症する・・と広く知られています。交通事故のように一度の衝撃で発症することは、通常ありません。稀に、骨折や打撲・捻挫の予後、二次的な発症となるかもしれません。少し踏み込んで解説します。まず、前腕~手関節の構造から、

※ 腱鞘 腱が通るトンネル

※ 長母指外転筋腱 親指を伸ばす働き

※ 短母指伸筋腱 親指を広げる働き
 
◆ ド・ケルバン病 = 狭窄性腱鞘炎(きょうさくせいけんしょうえん)

 右手首の腱鞘炎で代表的なものは、ド・ケルバン病です。ド・ケルバン病は、長母指外転筋腱と短母指伸筋腱が、腱が通過する腱鞘で狭窄された状態です。腱鞘、腱が走行するトンネルが炎症し、トンネルの空間が狭められて腱の滑走が妨げられるのです。

 症状は、手首の腫れ、痺れ、多少の熱感があり、親指を動かすときに痛みが生じ、物を掴んだり持ち上げたりすることが困難になります。親指を酷使した結果、腱や腱鞘への負担から発症します。妊婦や出産後、更年期の女性に多くみられます。スポーツでは、テニスをしている人に多いと報告されています。1985年に狭窄性腱鞘炎を報告したスイスの医師、フリッツ・ド・ケルヴァンの名前から付けられました。


 ↑ 親指を曲げ、グー状態で小指側に手首を曲げると激痛が走るフィンケルシュタインテストにより診断されています。
 
(2)治療

 治療は、以下3つに大別します。
 
① 安静下で、軟膏で炎症を抑え、装具による固定を行うもの
 
② 腱鞘内にステロイド注射を行い、装具で固定するもの
 
③ 局所麻酔により、皮下腱鞘の切開を行う、日帰り手術となるもの
 
 の3種類で、適切な治療が行われれば、後遺障害を残しません。
  
(3)後遺障害のポイント

 腱鞘炎を放置した結果、症状が悪化すれば、筋肉が拘縮し、手首や指を動かすことができなくなり、局所麻酔による皮下腱鞘の切開では済まなくなり、直視下の手術となってしまうこともあります。後遺障害を残すのは、このようなケースに限られます。

 そもそも、打撲・捻挫をこじらせたからと言って、骨折なく、靭帯損傷もない炎症は回復することが常識です。その常識を超えて症状が残存した場合、受傷機転と症状の一貫性、そして症状の信憑性から、「局部に神経症状を残すもの」14級9号の余地は残ります。
 
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