(1)病態と治療

 
  
 コーレス骨折・スミス骨折は、橈骨遠位端骨折のことです。橈骨は上腕2本の骨の親指側の骨です。遠位端とは、その手関節に近い部分のことです。大まかにいえば橈骨遠位端骨折ですが、その折れた方向によって、それぞれ名前が付けられています。医師によって診断名にバラつきがあります。印象では、コーレス・スミスのように折れ方がはっきりしていない場合、橈骨遠位端骨折と付けているようです。
 
手の甲側に折れた=コーレス骨折 
 
手のひら側に折れた=スミス骨折
 
 倒れたとき、手をついた際、橈骨遠位端骨折が生じますが、手のつき方で折れた方向が2分します。転倒時に手の平をついて倒れたときは、Colles(コーレス)骨折、手の甲をついて倒れたときは、Smith(スミス)骨折となるようです。

 ↑ のレントゲンのように、横から観ないとわかりません(矢状断と言います)。通常、3DCTも撮ると思いますので、その立体像からコーレスかスミスか、それ以外(橈骨遠位端骨折)か、はっきり区別できます。
  
① コーレス骨折

 手首に強い痛みがあり、短時間のうちに腫れて来ます。手のひらをついての骨折では、食器のフォークを伏せて置いたような変形が見られます。健側の手で支えないと、患側の手はブラブラ状態で力が入りません。骨折や腫れで神経が圧迫され、親指~薬指母指側1/2までの指が痺れることもあります。


  
 正中神経麻痺を好発する部位です。XPで確認でき、骨折部は、フォーク背様に変形がみられます。以前は、麻酔下で徒手整復を行い、前腕の変形を起こさせないため上腕からギブス固定を行うのが主流でしたが、現在では、ロッキングプレートによる固定が一般的です。
 

  
 前腕骨は橈骨と尺骨で構成されており、手首のところで、2つの骨が橈尺関節を形成しています。骨折による橈骨の背側の傾きが20°以上、橈骨が5mm以上の短縮変形をきたすと、この関節の機能に障害をもたらします。手関節の疼痛、握力の低下、前腕の回内・回外制限等を発症するのです。ロッキングプレートによる固定であっても、上記がキーポイントとなります。この場合、オペでは、疼痛の軽減と運動制限の改善を目的として橈骨矯正骨切り、尺骨短縮手術等が施行されます。
  
② スミス骨折

 転倒の際に、手の甲を地面について骨折すると、骨折部は手のひらの方向にズレます。自転車のハンドルを持ったまま転んだときに骨折することが多く、バイクで追突した時にも生じます。これらはスミス骨折と呼ばれています。XPでは、骨折片は、コーレス骨折とは逆の手掌側に転位しています。症状、治療、合併症、手術等はコーレス骨折と同じです。
 
(3)後遺障害のポイント

Ⅰ. ロッキングプレートなど、これだけ医療技術が進歩していても、地方では、今なお、徒手整復後のギプス固定が治療の主流となっています。この治療法であれば、6ヶ月で症状固定を選択すれば、手関節の機能障害で12級6号は確実です。10級10号以上となる場合、癒合後の変形や転位がひどいケースでしょうか。念のため、回内・回外運動もチェックすべきでしょう。


 
 10級の可動域制限と12級の変形を立証した例 👉 併合9級:スミス骨折(40代男性・千葉県)
 
 橈骨遠位端骨折のひどい例 👉 10級10号:橈骨遠位端粉砕骨折(40代男性・東京都)
  
Ⅱ. 手関節の可動域制限には及ばなかった、もしくは改善できたが、癒合しなかった場合、変形が残る場合は、以下の偽関節と変形障害が検討されます。もっとも、それらに及べば、手術で改善を図ることが普通です。骨の欠損には人工骨を埋め込むことで防ぎます。変形もプレート固定術の進歩からかなり整復されます。一応、基準は以下の表の通りです。
 

 


 
Ⅲ. 痛みや不具合が残存した場合、14級9号「局部に神経症状を残すもの」の可能性が残ります。最近の固定術は安定しており、変形障害はめったに見なくなりました。長管骨の変形に該当する程の変形ではないが、変形癒合が明らかな場合、12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当します。
 
 せめて14級確保の例 👉 14級9号:橈骨遠位端骨折(50代女性・埼玉県)
   
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