(1)病態

 小児の上腕骨顆上骨折で、重大かつ深刻な合併症として発生しています。骨折に伴う腫脹により、動脈の血流障害を生じ、前腕屈筋や正中神経・尺骨神経麻痺などをきたす病態で、見逃すと、筋肉の変性や神経麻痺が残り、大きな後遺障害を残します。初期症状として有名な5つのPを注意深く観察しなければなりません。
 
① Pain(疼痛)

② Pallor(蒼白)

③ Paresthesia(知覚障害)

④ Paralysis(運動麻痺)

⑤ Pulselessness(脈拍消失)
 
 小児に多く発症します。上腕骨顆上骨折の手術後、お子さんが骨折部のひどい痛みを訴え、手指が蒼白で、手首で脈がとれないときは、自宅に戻っていても、治療先に急がなければなりません。元の治療先が頼りなければ、近隣の医大系の総合病院に駆け込むのです。動脈閉鎖後、6~8時間でフォルクマン拘縮が生じるので、この時間内に対処しないと、取り返しのつかないことになります。
  
(2)治療

 治療先は、骨折の整復やギプスで圧迫などの阻血の要因を除去します。これでも、改善が得られないときは、緊急的に筋膜切開を行い、内圧を減少させます。

 積極的な治療は早いに越したことはありません。「様子を見ましょう」と手をこまねいていると、拘縮は治らなくなります。町の整形外科では、この症例に対処できません。一早く専門医を受診しなければなりません。


 
(3)後遺障害のポイント
 
Ⅰ. 早期発見と壊死の防止が、正にポイントとなります。
 
Ⅱ. フォルクマン拘縮では、最終的には、筋肉がカチカチに拘縮、正中神経麻痺・尺骨神経麻痺を発症、手は麻痺に特有の変形を示します。
 
◆ 立証は、神経伝達速度検査もしくは針筋電図検査で行います。

 後遺障害は、一上肢の2関節の用廃で6級6号が、手指の用廃で7級7号が認定、等級は併合(〇級相当)されるのですが、一上肢を手関節以上で亡失したものには及ばず、併合6級の認定となります。


 
Ⅲ. フォルクマン拘縮が進み、筋肉の壊死に至ると、基本的に治療法はありません。

 陳旧性では、カチカチに線維化した筋肉を切除、再建手術が実施されていますが、予後は不良で、回復は望むべくもありません。あくまでも、発生予防を心掛けることとなり、初期症状が出現すれば、即座に、治療先に駆け込まなければなりません。

 この症例に陥った被害者さんは、骨折の初期段階で何ら注意することなく、放置されたケースになります。プレート固定など、骨折の整復術が発達した近年では珍しい症例です。昔はギプスで固定しましたので、気付くのが遅れて、多かったと思います。
 
 次回 ⇒ 肘関節と手関節の関係