肩鎖関節脱臼(けんさかんせつだっきゅう)

 鎖骨骨折に並び、秋葉事務所では認定例が豊富です。別途、実績ページをご覧下さい。
 

 
(1)病態
 
 肩鎖関節とは鎖骨と肩甲骨の間にある関節のことです。転倒の際に手をついた時や、バイクで正面から衝突(ハンドルを握ったままで前方から強い衝撃を受けた)時に好発します。鎖骨が折れなかった場合に起きている印象です。肩鎖関節の脱臼によって、鎖骨と肩甲骨をつなぐ肩鎖靭帯が伸びてしまうことになり、鎖骨の遠位(肩側)が上に出っ張ってしまいます。これをピアノキーサイン(※)と呼びます。視認すればわかることですが、症例に慣れていないのか、町の整形外科では見逃されることが多々あります。
 
 見逃された例 👉 12級5号:肩鎖関節脱臼(60代男性・神奈川県)
 
※ 突出した部分を指で押すと浮き沈みするので「ピアノキーサイン」といいます。


 
 肩鎖関節脱臼は、肩鎖靭帯・烏口鎖骨靭帯の損傷の程度や鎖骨のずれの程度等に応じて、下記の6つのグレードに分類されています。数字が大きくなるほど、傷害の程度が大きくなります。大多数はグレードⅢ未満で、グレードⅥ以上は、滅多に発生しないと言われています。Ⅰ・Ⅱ・Ⅲでは、主として保存療法が、Ⅳ・Ⅴ・Ⅵでは観血術による固定が選択されています。
 

 
(2)治療

 完全脱臼で肩甲骨の骨折など重度の場合は手術対応で、プレート・スクリュー固定となります。肩鎖関節脱臼の多くは亜脱臼で収まります。亜脱臼とは、脱臼後に関節が戻ることを意味しますが、先の説明の通り、肩鎖靭帯が伸びてしまえば、鎖骨の転位(上に出っ張る)が起きます。それがひどければ、鋼線を巻き付ける手術をします。さらに、クラビクルバンドやバストバンドで固定します。軽度の場合は、そのまま保存療法になります。骨折や靭帯断裂が無い場合は、消炎鎮痛の処置だけになり、すべきことが限られると思います。
 
(3)後遺障害のポイント
 
Ⅰ. グレードⅠの捻挫では、後遺障害を残しません。湿布を貼って、痛みに対処します。
  
Ⅱ. グレードⅡ・Ⅲでは、外見上、鎖骨が突出し、ピアノキーサインが陽性となります。
 
 裸体で変形が確認できれば、体幹骨の変形として12級5号が認められます。あくまでも外見上の変形であり、XP撮影により初めて分かる程度のものは非該当となります。

 ピアノキーサインが陽性のときは、男性は上半身裸、女性なら両肩が見えるように、外見上の変形を写真撮影し、後遺障害診断書に添付しなければなりません。また、体幹骨の変形による12級5号では、傷害部分の疼痛も周辺症状として含まれてしまいます。つまり、疼痛の神経症状でさらに12級13号が認定され、併合11級となることはありません。

 さらに、鎖骨の変形と同じですが、脱臼部分に運動痛があるか、ないかも重要なポイントになります。なんの痛みもなければ、変形で12級5号が認定されても、原則として仕事には影響を与えないということで、簡単に逸失利益が認められません。毎度、弁護士が賠償交渉で苦労するところです。ただし、モデル等のように外見が仕事に影響お与える職業の場合には、例外的に、認められることになります。

 しかし、運動痛が認められていれば、10年程度の逸失利益が認められる可能性があります。変形に伴う痛みは、自覚症状以外に、肩鎖関節部のCT、3D撮影で立証することになります。
 
 変形の実例(それなりに苦労のケース) 👉 非該当⇒12級5号:肩鎖関節脱臼 異議申立(30代男性・山梨県)
  
Ⅲ. 肩鎖関節部の靱帯損傷や変形により、肩関節の可動域に影響を与えることが予想されます。こうなると、肩鎖関節部の変形以外に、肩関節の機能障害が後遺障害の対象となります。この場合には、肩鎖関節部の変形をCT、3Dという方法で、靱帯断裂はMRIで立証しなければなりません。

 患側の関節可動域が正常側の関節可動域の2分の1以下とは、手が肩の位置辺りまでしか上がらないイメージです。この場合には10級10号が認定されます。患側の関節可動域が正常側の関節可動域の4分の3以下とは、手が肩の位置よりは上がるけれど、上までは上がらないイメージです。この場合には12級6号が認定されます。
 
 変形+可動域制限の例 👉 12級5号⇒併合11級:肩鎖関節脱臼 異議申立(60代男性・神奈川県)
 
Ⅳ. 変形はないが、痛みでの認定=12級13号

 比較的、珍しいケースです。ピアノキーサインのような、目立った変形はないが、痛みや不具合が残ったケースです。脱臼や亜脱臼を経たもので、画像でそれらが確認できれば、12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」に届きます。ちなみに、14級9号の認定はありません。それは、脱臼のない、単なる鎖骨部の打撲の審査になるからに他なりません(肩鎖関節脱臼の診断名ではないということです)。
 
 打撲とされていたが、肩鎖関節脱臼がわかり・・ 👉 12級13号:肩鎖関節亜脱臼(50代男性・山梨県)
  
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