足関節果部骨折(そくかんせつかぶこっせつ)

 
 
(1)病態

 足関節果部骨折とは、足首のくるぶしの骨折のことです。足関節は、足関節の上にある脛骨と腓骨の遠位端部をソケットに見立てれば、これに、はまり込んでいる距骨、脛骨、腓骨と靭帯でつながっている踵骨の4つの骨で構成されています。交通事故では、バイク対自動車の衝突で、バイクの運転者が跳ね飛ばされたときなど、足関節に強い外力が働くと、足関節周囲の靱帯損傷や脱臼、骨折が生じます。下腿の骨折で最も頻度の高い骨折です。

 果部とは、俗に梅干しと呼ばれる出っぱりの部分で、自分で触れて、確認することができます。果部骨折は、内側の脛骨の出っぱりを骨折した内果骨折、外側の腓骨の出っぱりを骨折した外顆骨折、内果と外果の両方を骨折した両果骨折の3つがあります。さらに、脛骨の内果と後果が折れた上に、腓骨の外果を骨折した三果骨折があります。

 両果と三果の場合、関節のソケットは破壊され、多くは足関節の脱臼を伴います。さらに、少なからず周辺の靭帯も損傷します。後遺症なく回復することは極めて少ないと言えます。両果、外果、内果は、(4)後遺障害にそれぞれの認定例を挿入しています。また、三果骨折は(コットン骨折)は次回に集中解説します。
  
(2)症状

 骨折の状態や転位の程度により異なりますが、足関節部に激痛、腫れ、皮下出血、外反変形や内反変形などを生じ、歩行困難となります。
 
(3)治療

 受傷機転、足関節の腫れ、圧痛、変形、皮下出血を確認し、XP検査で骨折を確定します。粉砕骨折では、3DCT、靱帯断裂ではMRI検査が行われます。関節内骨折のため、治療では、骨折後の転位、ズレを正しく整復することが優先されます。

 さらに、足関節では、腓骨を踵骨は踵腓靱帯、脛骨と踵骨は三角靱帯、腓骨と脛骨は後脛腓靱帯、腓骨と距骨は、後距腓靱帯で締結されています。いずれも強靱な靱帯ですが、骨折に伴って、これらの靱帯が伸ばされ、あるいは断裂すると、足関節が不安定となり、痛みを残し、関節軟骨が損傷する変形性足関節症へと進行することが予想されるので、靭帯にも十分な注意が必要です。転位の内骨折では、保存的治療でギプス固定が行われますが、現在では、ほとんどで、手術で内固定が行われています。

 腓骨の骨幹部骨折に脛腓靱帯の剥離骨折を合併したもので、腓骨骨折は、髄内釘で固定され、後脛腓靱帯はアンカーボルトで固定、腓骨と脛骨の離開は、スクリューで固定しています。
 

左から ①  ②  ③ (詳細は下記解説参照)

① 外果骨折に対して、スクリューとワイヤーで引き寄せ締結がなされています。
② 内果と外果の両果骨折の例ですが、いずれもスクリューで固定されています。
③ 果部骨折はなく、後脛腓靱帯の剥離骨折に対して、アンカーボルト固定が行われています。

 

 ↑ XPは、内果と外果の骨折です。内果の脛骨は、ピンニングで、外果の腓骨はAOプレートで固定されています。

 
(4)後遺障害のポイント
 
Ⅰ. 可動域制限 ~ 自賠責保険・調査事務所の審査を検証してみます。
 
① 足関節のどの部位に、どんな骨折をしているのか?

② その後の手術で、良好な骨癒合が得られているのか、変形癒合しているのか?

③ 足関節に、どのレベルの可動域制限を残しているか?

④ 例外的に、足関節および足趾に神経麻痺があり、それが立証されているか?
 
 一般的に、被害者は、「背屈10°底屈20°なら2分の1以下で10級11号か?」・・計測値から、安易な判断をしています。

 ところが、10級11号となれば、訴訟基準では3000万円を超える損害賠償額となります。審査では、いつでも3段論法で、慎重な審査が行われています。つまり、どうして2分の1以下の可動域となったのか、それに至る立証が必要なのであって、可動域の確認は最終判断項目と思います。


 
 両果骨折、足首が完全に固定された(=8級7号)最悪例 👉 併合7級:足関節脱臼骨折(40代男性・埼玉県)
 
 両果骨折による10級認定例 👉 10級11号:足関節開放脱臼骨折(30代男性・埼玉県)
 
 両果骨折による12級認定例 👉 12級7号:足関節脱臼骨折(40代男性・千葉県)
   
Ⅱ. 立証プロセス

① 脛骨、腓骨、距骨、踵骨、どの骨が骨折しているのか?

② 骨折の部位は、骨幹部それとも遠位端? 遠位端であれば、外果、内果あるいは後果?

③ 骨折の形状は、亀裂、開放性、粉砕、剥離? 手術の内容は? 現在の骨癒合状況は?

④ 周辺靭帯の損傷はMRIで立証されているか?

⑤ 最後に、足関節に、どのレベルの可動域制限が認められるか?

⑥ 痛くて動かすことができないとしても、疼痛の原因は?

⑦ 関節烈隙の狭小化や関節部の軟骨損傷から、変形性足関節症なのか?

⑧ 腓骨神経麻痺などは、神経伝達速度検査、針筋電図検査で立証されているか?
 
 後遺障害診断書には、①~⑧の具体的な説明が欠かせないのです。どの骨、どの部位、どんな骨折、骨癒合状況、これらは、XP、CT、3DCTで確認できます。靱帯損傷なら、MRIで検証しなければなりません。

 つまり、後遺障害をサポートするには、画像を読む能力も必要です。腓骨神経は、下腿を走行する神経ですが、坐骨神経から腓骨神経と𦙾骨神経に分かれ、腓骨神経は、膝の外側を通り、腓骨の側面を下降して、足関節を通過、足趾に達しています。

 この通り道を理解しておかなければ、腓骨神経麻痺を議論することはできないのです。これらの緻密さで導き出された後遺障害等級では、狂いがありません。
 
 緻密な立証を果たした例 👉 併合7級:足関節脱臼骨折(30代男性・埼玉県)
 
Ⅲ. 可動域は回復も、痛みや不具合

 骨癒合が正常で、足関節周辺の靭帯も深刻な損傷なし・・・すると、主治医は「後遺症なく治しました」と得意満面です。医師には感謝ですが、完全に痛みや不具合が無くなるとは思えません。長時間歩くと痛みが増す、正座が出来ない、足首が浮いた感じがする、治りの良い被害者さんですら、このような不具合をよく聞きます。

 これら不完全な症状こそ、神経症状の14級9号を確保したいところです。医師に細々と症状を訴え、後遺障害診断書を書いてもらう折衝力、技術が必要です。被害者と言えど、座っていて自動的に助けられることはありません。
 
 内果骨折の立証例 👉 14級9号:足関節内果骨折(30代男性・滋賀県)
 
 外果骨折、危うく等級を取りこぼしそうになった例 👉 14級9号:足関節外果骨折(70代男性・山梨県)
   
◆ 交通事故110番の経験則 ~ メールの質問から

Q1.「右足首を骨折、3カ月を経過したのですが、後遺障害は認められるでしょうか?」

 被害者からの質問では、ほとんどが右足を骨折したであり、本件では、右足首と特定していますが、右足首のどの部分を、どのように骨折したのかが分からないと、後遺障害には踏み込めません。

 質問の右足首骨折だけでは、腓骨の外果部、脛骨の内果部、関節内骨折で距骨骨折、あるいは、かかとの後果骨折なのか、それらの全部を骨折しているのかが分かりません。したがって、診断書記載の傷病名のすべてと、固定術を受けているときは、手術の内容をお教えくださいと返信しました。

 数日後、右足関節外果骨折であり、太い骨と細い骨はボルトで固定されているとの回答がありました。直近の土曜日、交通事故無料相談会に、XP、CT、MRIのCDを持参で参加されることになりました。41歳男性会社員で、原付で買いものに出掛けたときに、乗用車の追突を受けたもので、6mほど飛ばされ、街路樹に激突する事故発生状況でした。

 面談時のXP、CT、MRIで右腓骨の骨幹部骨折が確認できました。右腓骨は衝撃で中央部の骨幹部が横骨折し、その外力で腓骨遠位端部が脱臼骨折していたのです。右腓骨の骨幹部はAOプレートで固定、脛骨と腓骨の離開はボルト固定、剥離した脛腓靱帯はアンカーボルトで固定されていました。

 ポイントは、なんと言っても画像所見です。

 XP、CT、MRIの画像をチェックすることで、間違いのない後遺障害等級に踏み込むことができます。右足関節の可動域は、背屈が15°屈曲が35°であり、2分の1に近い制限が認められました。3カ月の経過で10級11号+5°の可動域ですから、6カ月の時点で症状固定とすれば、12級7号は確実と判断、そのことを伝えました。

 その後、チーム110のスタッフが、病院同行による後遺障害のサポートを行い、6カ月で症状固定、後遺障害は、12級7号が認定されました。仕事の内容は、建築工事の現場監督であり、右足の機能障害は、仕事上の大きな支障となりました。連携の弁護士が損保と示談交渉し、総額1547万円で解決となりました。
 
 次回 ⇒ 足関節果部脱臼骨折、コットン骨折