(4)後遺障害のポイント
 
Ⅰ. 股関節の後遺障害の対象は、股関節の機能障害(可動域制限)、下肢の短縮、大腿骨頭壊死に伴う人工骨頭もしくは人工関節置換、痛み・その他不具合(局部に神経症状を残すもの)の4つです。
 
Ⅱ. 経験則では、受傷後6カ月で症状固定とし、股関節の機能障害で12級7号が認められています。寛骨臼蓋の骨折を合併するときは、12級7号以上の可能性があります。
 
 骨折しているときは、骨折の形状、術式、その後の骨癒合がどうなっているかを、3DCTやMRIで丁寧に立証しなければなりません。漫然リハビリ治療を7、8カ月も続けると、障害を残しているのに、可動域が4分の3を僅かに上回り、機能障害としての後遺障害が非該当になります。この点、気をつけなければなりません。
 
 12級の数値を確保した例 👉 11級相当:股関節脱臼骨折、脛骨高原骨折(40代男性・埼玉県)
 

 上記は、日本整形外科学会の公表している参考可動域角度を参考にして、比較・検証しやすくする目的で交通事故110番が作成した表です。実際は、被害者の股関節の健側と患側を計測し、医師が手を添える他動値の比較で、等級が認定されています。

 計測は医師または理学療法士、作業療法士が行いますが、計測者により誤差がでるものです。曲げ伸ばしの訓練を行ったリハビリ後か否か、その日の調子も影響するはずです。わずか5°の誤差で数百万円を失うことだってあるのです。シビアな場面なので、秋葉事務所では計測に立ち会うようにしています。
 
 股関節の計測で注意 👉 股関節可動域の計測でミスしがちな外旋・内旋
 
 参考数値で等級を取った例 👉 10級11号:寛骨臼骨折(50代男性・東京都) 
 
Ⅲ. 術後、主治医の説明する、大腿骨頭壊死の可能性は、最悪を想定しての、予防的な説明がほとんどですから、あまり過剰に心配することもありません。
 
Ⅳ. 人工骨頭に置換されたとき、この骨頭の耐久性が10年と説明されることがありますが、これも気にすることはありません。事故後の極端な肥満が克服できないで、再置換術になったケースを1例だけ交通事故110番の相談例でありました。これは、被害者側に問題があって、再置換術となった極端な例です。

 人工関節の材質は、ポリエチレンから超高分子量ポリエチレン、骨頭については、セラミックが普及し、通常の生活であれば、耐久性も20年以上とされています。認定基準は改訂され、人工骨頭、人工関節を挿入置換しても、大多数は10級11号となります。8級6号はみたことがありません。
 
 典型的な認定例 👉 10級11号:大腿骨頚部骨折 人工関節(50代男性・千葉県)

◆ 労災基準では、「10級10号:人工骨頭、人工関節を挿入置換したもの」ですが、自賠責での人工関節は10級11号「1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」=機能障害となっている点に注意が必要です。
 
 労災との違いが明らかとなった例 👉 9級相当・加重障害-10級11号:大腿骨頸部骨折(80代女性・静岡県)
 
Ⅴ. 骨盤骨の変形に伴い、下肢の短縮が認められるときは、いずれか上位の等級が認定されます。本件では、実際に、大腿骨や下腿骨が短縮しているのではありません。


 骨盤骨の変形は12級5号ですが、骨盤の歪みによる下肢の短縮が3cm以上であれば10級8号です。このときは、上位の10級8号の認定となります。大腿骨自体が短くなってしまった場合は、骨盤の変形と短縮は併合となります。

 骨盤骨の高度変形により、股関節に運動障害が生じたときは、その可動域製制限と短縮障害の等級は併合されます。このように、複数の障害が重なる場合は、事前に組み合わせを検討してから医師に診断書の記載をお願いしています。

※ これらの併合ルールは、あくまで自賠責や労災の基準です。稀に実態上の障害に比べ、自賠責の併合ルールが不利となることがあります。骨盤の変形と短縮障害が別の原因・症状であるからして、併合9級が正当なケースです。この場合、訴訟で実質的な併合等級を勝ち取る必要があります。この仕事は、連携弁護士に託すことになります。
 
Ⅵ. 骨折は正常に癒合、または脱臼の場合は整復されて、可動域制限も変形も短縮も残らなかった場合、痛みや不具合もきれいすっきり消える・・そのような事は少ないはずです。その場合、おなじみの14級9号「局部に神経症状を残すもの」を、しっかり確保して下さい。
 
 問題なく整復の例 👉 14級9号:股関節脱臼(20代女性・埼玉県)
 
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