(1)病態
心臓は、全身に血液と酸素を供給する、ポンプの役割を果たしています。全身に酸素を届けたあとの血液=静脈血は右心房から右心室へ戻り、肺に送られます。肺で酸素が供給された血液=動脈血は、左心房から左心室へ送られ、大動脈を通って全身を循環し、酸素を届けます。この一連の動きは、途絶えることなく、1日に10万回も繰り返されています。
血液の流れを一定方向に維持するために、心臓内の4つの部屋には、弁が設置されています。
① 右心房と右心室にあるのが三尖弁、
② 右心室と肺動脈の間にあるのが肺動脈弁、
③ 左心房と左心室の間にあるのが僧帽弁、
④ 左心室と全身をめぐる大動脈の間にあるのが大動脈弁です。
大多数は、鋭利な刃物や弾丸により、心筋、心膜、心室中隔、弁・腱索・乳頭筋、冠動脈などの損傷をきたした穿通性心臓外傷であり、交通事故では滅多に経験しないものです。
交通事故110番では、トラックの荷崩れにより、ロープが掛かっていた鉄製のフックが後方に飛び、後方を走行中の軽トラックの運転手を直撃、大動脈弁を損傷した被害者を担当した経験があります。金属片が胸部を直撃したような工場内の労災事故であれば、複数例の経験があります。さすがに、刃物、弾丸の経験はありません。ネットでは、バイク事故2、自動車事故4、転落1例が紹介されています。
(2)症状
症状は、意識障害、頻脈、頻呼吸、四肢冷感および冷汗などのショック症状を示しています。心タンポナーデを発症していれば、血圧低下、静脈圧上昇、心音減弱、頚部の静脈が膨れる頚静脈怒張、呼吸に伴い、大きくなったり小さくなったりする脈、奇脈などがみられます。
(3)診断と治療
身体所見、胸部X線、胸部CT、心電図、超音波などの検査によって、急ぎ、確定診断が行われます。治療では、緊急手術が絶対に必要、迅速、適切な外科治療以外に救命する方法はありません。
TVドラマ「ER」の一シーンですが、重いショック状態で手術室まで移送するのが困難なときは、ER室で緊急開胸を行い、心縫合が行われているようです。
心タンポナーデを起こしているときには、心嚢穿刺や心嚢ドレナージを行い、一時的に状態の改善を図り、引き続いて開胸手術が実施されています。
つづく ⇒ ⑧ 心臓、弁の損傷 Ⅱ