(1)病態

 高所からの墜落、胸部挟圧などの外力が胸壁に作用して、肺表面の損傷はないものの、肺の内部、肺胞、毛細血管が断裂して、内出血や組織の挫滅をきたすことがあります。打撲では青痣が残りますが、肺に痣=内出血ができた状態を肺挫傷といいます。

 さらに、肺表面部の胸膜を損傷すれば、肺裂傷と呼ばれます。肺裂傷では、裂傷部位から肺の空気や血液が漏れ、気胸や血胸となります。

 交通事故では、電柱に激突、田畑に転落するなどで、胸部を強く打撲した自転車やバイクの運転者に肺挫傷が認められています。
 
(2)症状

 血痰、胸部の激痛により、呼吸がし辛くなります。広範囲の肺挫傷では、強い呼吸困難となります。

 多発肋骨骨折による、フレイルチェスト=動揺胸郭の合併では、安定した呼吸活動ができなくなり、呼吸不全を起こします。肺挫傷では、時間の経過で、肺炎や急性呼吸窮迫症候群と呼ばれる続発症を発症することも予想されるので、速やかに救急搬送しなければなりません。
 
 👉 体幹骨の後遺障害 ⑯ フレイルチェスト(Flail Chest、動揺胸郭)
 
(3)治療

 診断は、胸部XP、CT検査で明らかとなります。


 
 上記は、交通事故外傷による肺挫傷・肺裂創のCT画像です。黒の矢印、すりガラス状に白っぽく見える肺は、肺挫傷をきたしている部位です。黄色の矢印は、肺裂傷の部位から空気が漏れ、肺が萎縮しています。

 軽症の肺挫傷であれば、多くが無症状で、気づかないまま治癒していることもあります。つまり、呼吸の状態が保たれていれば、自然に回復するのです。これは、青痣が、自然に消えて治ってしまうことと同じです。

 通常の肺挫傷では、外傷から数時間の経過で、呼吸困難、頻呼吸、血痰、チアノーゼなどの症状が出現し、これらに対しては、安静臥床、酸素吸入、肺理学療法の治療が行われています。酸素吸入の持続で、喀出を促すことは効果的で、無気肺の予防に役立ちます。

 十分な酸素吸入と、気胸や血胸に対する胸腔ドレナージを行っても、PaO2が80mmHg未満では、気管挿管下に人工呼吸管理が開始され、重症例では、人工肺=ECMOの導入されることもあります。

 広範囲の肺挫傷では、低酸素血症に基づく意識障害や血圧低下を合併し、急性呼吸不全から死に至ることも報告されており、侮ってはなりません。
 
◆ チアノーゼ

 動脈血の酸素濃度=酸素飽和度が低下し、爪や唇などが紫色に変色することです。

 赤血球の中には、酸素を運搬するヘモグロビンという鉄と結合した蛋白質が含まれています。正常の動脈血は、98~100%が酸素と結合し、酸化ヘモグロビンとなって循環しています。このときの動脈血は赤色です。酸化ヘモグロビンの割合が低下し、酸素と結合していないヘモグロビンの割合が増加すると、爪や唇が紫色に変色し、この状況をチアノーゼと呼んでいます。
 
◆ 喀出

 気道内の血液や気管支分泌物を、咳とともに体外へ排出することです。
 
◆ 無気肺

 肺の中の空気が著しく減少することから起こる呼吸障害のことです。
 
◆ 胸腔ドレナージ

 気胸、開放性気胸、緊張性気胸、血胸、血気胸などの際に行われる治療法で、胸腔内に胸腔ドレーンチューブを挿入、胸腔内に溜まった空気や血液を体外へ排出し、収縮した肺を再び膨張させ、呼吸障害を正常に戻します。
 

 
※ SpO2=経皮的動脈血酸素飽和度・・・経皮的動脈血酸素飽和度は、パルスオキシメーター(↓)で測定、%で表示します


 
※ PaO2、動脈血酸素分圧・・・PaO2、動脈血酸素分圧は、torr(トル)もしくはmmhgで表示します。PaO2は動脈から直接、動脈血を採血して、血液ガス分析で測定、60㎜hg以下であれば、呼吸不全と判断されます。 ちなみにSpO2 90%は、PaO2 60㎜hgとなります。
 
※ PAO2、肺胞気酸素分圧・・・PAO2、肺胞気酸素分圧は、肺胞にかかる酸素分圧であり、torr(トル)もしくはmmhgで表示します。
 
※ 肺胞気動脈血酸素分圧較差 A-aDO2=(PAO2-PaO2)・・・この差が大きくなると、酸素化が悪化していることがわかります。肺胞の酸素量と、動脈の酸素量の差が多きいとは、肺胞で酸素が血液内にとりこまれていないことであり、酸素化不全を示しています。
 
 呼吸器内科では、主治医と看護師の間で、上記のやりとりがなされています。言葉の意味を承知していれば、将来の後遺障害を予想することができるのです。
 
 つづく ⇒ 肺挫傷 Ⅱ 後遺障害