(1)病態
左は、胸を前から見たもので、肋骨は12本あり、籠のように内臓を守るように取り囲んでおり、胸骨という胸の前の骨とくっついて、胸郭を形成しています。
胸骨に接しているブルーの部分は軟骨なので、柔軟性があります。胸郭は息を吸ったときに広がり、吐いた時には縮み、衝撃を受けたときには撓んで力を吸収します。肋骨にも、そのような動きがあります。肋骨骨折は、身体の横側からの外力、前後から圧力が加わることで発症しています。
右は、胸を背中側から見た図です。胸郭の上の部分には、肩甲骨が乗っています。腕を動かしたときに、肩甲骨も動き、胸郭との間の関節で、なめらかな動きがあるときはスムーズに腕も動きます。このように、肋骨は身体のあらゆる部分に影響を与えています。
↑ のイラストは、胸郭を輪切りにしたものです。
① 直接的な外力で、骨折する、
② 側方からの外力で、胸側、あるいは背中側で骨折する、
③ 外力が胸側、または背中側からの外力で、別の場所で骨折する、
他にも、肋骨骨折はその形状から、様々な受傷機転で起こります。1カ所の骨折にとどまらず、多発骨折に至ることが多いようです。診断書に細かく一本一本折れた肋骨(右第○骨折・・・)を書く場合もありますが、面倒なのか、まとめて「多発骨折」と書くようです。
(2)症状
症状は、肋骨部の強い圧痛、また深呼吸や咳、くしゃみなどで胸郭が動いたときに痛みが増強します。高齢者では、くしゃみをしたときや、振り返ろうと身体をひねったときなど些細なことで、肋骨骨折を生じることもあります。また、胸を打撃して痛みがあるときは、甘く見ないで、整形外科を受診しなければなりません。
(3)治療
肋骨の骨折は、XP、CTで確定診断が行われますが、肋骨そのものをギプスで固定することはできません。治療としては、バストバンドで固定する保存的治療が行われます。
肺の一部に血が溜まる血胸になると、被害者は、息苦しさを訴えます。このときは、パルスオキシメーター( ↓ 写真)で、人差し指を挟み、末梢まで酸素がどれだけ送り届けられているのか、検査を行います。
これは酸素飽和度といって、動脈血にどれぐらいの酸素があるのかを数値化するものです。正常では、酸素飽和度は90%以上とされています。それ以下では、入院が指示され、胸腔ドレナージにより、血液を体外に排出します。
(4)後遺障害のポイント
Ⅰ. 肋骨の変形
肋骨は体幹骨ですから、変形が裸体で確認できれば12級5号が認定されます。左右横側の多発肋骨骨折では、これらの変形が確認できることが条件です。
しかしながら、裸体でその変形がわかることは稀です。断食僧のようにガリガリに痩せていなけば、変形部のでっぱりは確認できません。スリムなモデル体型の女性なら可能性がありますが、胸部前側での骨折はバストに隠れて確認することができません。
例外的に、外見で確認できなくとも、骨折後の転位(ずれてくっつく)や癒合未了(結局、くっつかなかった)など、ひどい癒合不良で、認めらたケースがありました。
その希少例 👉 12級5号:肋骨骨折(40代男性・埼玉県)
Ⅱ. 痛みの残存
外見でわかる肋骨の変形が無い場合、諦めることになりますが、骨折部痛を訴える道が残ります。”痛み等の神経症状”が受傷以来一貫していれば、14級9号の可能性があります。肋骨骨折は直接の認定ではありませんが、それを原因とする背部痛、わき腹痛などの症状で認定されます。
比較的珍しい、わき腹痛の認定例 👉 14級9号:肋骨骨折(70代女性・静岡県)
また、肋骨骨折があれば、別の診断名、例えば頚椎捻挫・腰椎捻挫が認定されやすい印象です。肋骨が折れる位の衝撃ですから、頚や腰の痛みも信憑性が増すのでしょう。
肋骨が折れていると、むち打ち14級も取り易い例 👉 併合14級:頚椎・腰椎捻挫(40代女性・神奈川県)
外見にでない変形や癒合不良の確認は3DCTが有効で、肋骨の変形癒合を立証できれば、理論上、12級13号の審査になります。変形の12級5号に及ばすとも、秋葉事務所では、神経症状の12級13号の例がいくつかあります。
変形を逃すも、神経症状で12級となった例 👉 12級13号:肋骨骨折(70代女性・山梨県)
Ⅱ. 肋軟骨骨折の場合
胸部前側で、肋骨が胸骨と接する部分は軟骨で形成されています(最初のイラストの青い部分)。衝撃を受けたとき、軟骨部で肋骨がたわむことにより、肺や心臓を保護しているのです。この肋軟骨部の骨折では、ジクジクとした痛みを残します。こんなときは、骨シンチグラフィー検査を受けます。
放射性同位元素が肋軟骨骨折部に集積している像が確認できたときは、肋軟骨骨折を他覚的検査で立証したことになり、痛みの神経症状は14級9号として評価されています。XPでは軟骨は確認できません。MRIで確認はできますが、骨シンチグラフィーが有効です。痛みを訴えても、明らかなMRI画像が無い場合、骨シンチグラフィーで立証しない限り、等級の認定はありません。
肋骨は比較的よく折れますが、治療は保存療法でそのまま、いつの間にか癒合し、後遺障害認定に届かないことが多いのです。
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