Ⅱ. 外傷性食道破裂後に想定される後遺障害は、瘢痕性食道狭窄による嚥下(えんげ)障害です。
① 嚥下障害とは?
交通事故では、咽頭外傷で舌の異常や、食道の狭窄をきたしたとき、頭部外傷後の高次脳機能障害により咽頭支配神経が麻痺したこと、頚椎前方固定術後で、椎体後方の食道や気管を圧迫したときに、また、少数例ですが、外傷性食道破裂でも、複数例の嚥下障害を経験しています。
嚥下障害とは、飲食物の咀嚼や飲み込みが困難になることをいいます。咀嚼した食物は、舌により咽頭へ送り込まれて、飲み下すのですが、そのときは、軟口蓋が挙上して、口腔と鼻腔が遮断、喉頭蓋で気管に蓋をし、飲み込む瞬間だけに開き、食道へと送り込まれているのです。これらの複雑な運動に関わる神経や筋肉に障害が生じたときに、嚥下障害を発症します。
嚥下障害の原因、傷病名 👉 唐突ですが、嚥下障害
② 嚥下障害の立証
瘢痕性食道狭窄は、耳鼻咽喉科における喉頭ファイバー=内視鏡検査で明らかにします。
下咽頭や喉頭の機能を確認するには、喉頭ファイバースコープによる内視鏡検査が必要です。誤嚥の有無は、検査食で行う嚥下内視鏡検査にて、判定することができます。
実際に食べ物がどのように飲み込まれるかを調べるには、造影剤を用いて嚥下状態をXP透視下に動画撮影する嚥下造影検査(VF)で立証しています。
VF検査を詳しく 👉 嚥下障害の検査
高次脳機能障害で嚥下障害を併発、VF検査の立証例 👉 7級4号:高次脳機能障害(10代女性・千葉県)
造影剤を使用して嚥下状態をX線透視下に観察する嚥下造影検査は、実際に食べ物がどのように飲み込まれるかを調べることができ、信頼性の高い検査ですが、誤嚥が発生する可能性が高いときは、この検査を実施することができません。
舌の運動性は、口腔期の食べ物の移動に、咽頭の知覚は咽頭期を引き起こすのに重要です。下咽頭や喉頭の嚥下機能を確認するには、実際に食物などを嚥下させて誤嚥などを検出する、嚥下内視鏡検査もあります。
◆ 110番の経験則 ~ 頚椎前方固定術後の嚥下障害
① 57歳男性ですが、青信号で横断歩道を歩行中に、対向右折車にはね飛ばされました。頚椎、C5/6の脱臼骨折と診断され、前方固定術が実施されたのですが、右半身麻痺による歩行困難、右上肢の脱力などの脊髄症状を残し、9級10号が認定されています。
治療先には、追加的に、X線透視下の嚥下造影検査(VF)、頚椎MRIの撮影を依頼し、前方固定部の骨化が進行し、椎体前方の食道や気管を圧迫していることを立証しました。
以上から、嚥下障害と診断され、自賠責調査事務所に対して、異議の申立を行いました。嚥下困難は、C5/6頚椎脱臼骨折および頚椎前方固定術に起因するものと捉えられ、お粥、うどん、軟らかい魚肉またはこれに準ずる程度の飲食物でなければ摂取できないところから、6級相当が認定され、これらの等級は、併合され、併合5級が確定しました。
② もう1例も、C4/5頚椎前方固定術後に、嚥下障害を発症しています。上記に比較すれば軽度なものですが、飲食時に、むせ込むことが頻繁にありました。耳鼻咽喉科における咽頭知覚検査で、咽頭反射が減弱していることを立証した結果、10級相当が認定されました。頚椎の脱臼骨折などで前方固定術が行われたときは、嚥下障害に要注意です。
※ 咽頭知覚検査
鼻腔内に直径2mmのカテーテルを挿入、仰臥位になり、常温の生理食塩水を1ml、次に冷水を1ml注入、自然嚥下までの時間を測定するもので、咽頭知覚時間の正常値は5.9±1..3秒、嚥下障害では、時間が長くなります。
嚥下障害の後遺障害等級は、そしゃく障害の等級を準用して適用しています。そしゃくの等級表を嚥下と読み替えて、判断することになります。さらに、そしゃくと嚥下障害は併合されることはなく、いずれか上位の等級が選択されています。このことも、覚えておくべき情報です。
つづく ⇒ 咽頭外傷 Ⅲ 「Ⅲ.発声障害」