診断名の無い部位、事故外傷から直接のダメージがない部位に対して、いくら痛みや不具合を訴えたとしても、それは2次的な症状として後遺障害の対象から外れます。例えば、骨折後の関節拘縮が原因で関節が曲がらなくなった場合に多いのですが。癒合状態に問題がなければ、これは後遺症ではなく、リハビリで改善させるべき症状と判断されます。「もっとリハビリを頑張りましょう」とのメッセージを感じます。

 しかし、例外はあるもので、これをしっかり診断書に落とし込み、画像を添えて、説明を加えなければなりません。つまり、事故との因果関係を立証しなければなりません。本例はその典型例です。

 さらに、本例の場合は緊張感を欠いた手続きとなりました。後遺障害申請は事前認定なので、相手保険会社に丸投げです。担当者はあくまで事務的に書類を右から左へ流すだけです。認定等級を想定した立証作業など誰もやらないでしょう。深刻なケガ、多種の障害が見込まれる、複雑な事情がある等、これらの場合は立ち止まって、後遺障害の全体像を設計し、併合を計算し、取りこぼしのないよう綿密な計画の下に進めるべきなのです。もちろん、医師の協力も欠かせません。
 
受傷箇所が多いと・・たいてい取りこぼします

14級8号⇒11級9号:第3~5中足骨骨折後、母指拘縮(50代女性・山梨県)

【事案】

自動車走行中、ブレーキ制御不能となった対向車と正面衝突したもの。診断名は多枝に渡り、主に内頚動脈損傷、小腸・結腸・腸間膜傷、腰椎圧迫骨折、膝蓋骨開放骨折、足関節骨折、中足骨骨折など。
 
【問題点】

数度の手術を経て、いざ後遺障害申請も、相手損保に事前認定で丸投げ、しかも、損保から病院へ後遺障害診断書を直接取り付けとなり、まったく診断書の内容を把握しないまま審査へ・・この状態からのご相談となった。

あれだけの診断名が並ぶので、恐らく、いくつも障害を取りこぼすだろう。医療照会がくれば親切と思う。まず、醜状痕の追加書類が届いた。この時点でご依頼をためらっていたので、とりあえず医師に記載事項を補助する書類を託すに留めた。どの道、再申請となることを確信していたからです。

結果は併合9級。足関節や膝蓋骨、腰椎は問題ない認定で、むしろ幸運。また、取りこぼした内臓損傷後の症状や醜状痕は、追ってもそれぞれ14級止まり。しかし、足趾(足の指)は14級8号で、これは母趾(足の親指)が評価されていないことによる低等級であった。確かに母趾に骨折等、診断名はない。しかし、足指全体の拘縮、つまり、指が曲がらない状態の中、母指はその拘縮のひどさから腱切術を施行、その可動は失われていた。何としても、ここを正さねばならない。母指が認められれば等級が一つ繰り上がる計算をしていたからである。

【立証ポイント】

事故による直接の破壊がなくとも、治療上の必要から予後の手術で障害を残すことがある。今回は、母指の拘縮がまったく改善しないことから、苦渋の決断で腱を切除し、以後、親指の動きが失われようとも、曲がることを優先した結果である。これを自賠責に説明する必要がある。

そこで、術式を行った病院に追加的に診断書を依頼するも、執刀医は異動していた。幸い、同院に以前にお世話になった医師を見つけ、その医師に予約をとった。やはり、良い医師はすぐさま事情をわかって下さり、協力を頂けた。完璧な診断書を仕上げると、今度は万全に資料を取り揃え、その他取りこぼした症状も丁寧に医証を揃え、写真を撮影・添付して遺漏のない申請とした。

結果は、母指の自動運動不能について、事故との因果関係が認められ、「1足の第1の足趾を含み2以上の足指の用を廃したもの」として11級9号に。他の障害と併合の結果、計画通り併合8級に繰り上げた。これで自賠責は203万円が確実に増額、最終的な賠償金は2500万円止まりが、3000万円近くまで膨らむだろう。できれば、最初から申請してあげたかった。