(3)難聴の検査と立証
  
<難聴を立証する他覚的な検査>


 
① 純音聴力検査

 事故後の難聴は、純音聴力と語音聴力検査の2つのテストで、立証しなければなりません。
 

 
  オージオメーターを使用し、気導聴力検査(○-○)と骨導聴力検査([ ])の2つが実施されます。

 気導とは、空気中を伝わってきた音で、この検査では、どの位、小さな音が聞こえるか、難聴があるかどうかを調べます。検査時間は30~40分、ヘッドホンからの音を聞いて検査します。音が、かすかにでも聞こえてきたらボタンを押し、聞こえなくなったら離します。

 難聴には伝音性感音性、これらの 2 つが重なり合った混合性があるのですが、伝音性は気導聴力検査で、感音性は骨導聴力検査で判定されています。

 骨導とは、焼鳥の軟骨を食べたときにコリコリと感じる音で、頭蓋骨を伝わってきた音のことです。耳をふさいで軟骨をかじるとすぐに分かります。骨導聴力検査では、耳の後ろに骨導受話器をあて、直接、内耳、蝸牛に刺激を与えて音を聞き、内耳やその奥の経路に障害があるかどうかを調べます。

※ デシベル(dB)とは?
 聴力は、音の大きさを表す単位、デシベル(dB)で表示します。ヘルツ(Hz)とは音の高さを表す単位ですが、500・1000・2000・4000ヘルツの4段階で3回の検査を実施し、2、3回目の測定値の平均値を取り、6分法の計算式で平均純音聴力レベルを求めます。
 
※6 分法の計算式とは、

500Hz の音に対する純音聴力レベル⇒A
1000Hz ⇒B
2000Hz ⇒C
4000Hz ⇒D
 
(A+2B+2C+D)÷  6 =平均純音聴力レベルとなります。
 
 これを覚える必要はありません。大事なことは、以下a~eです。
 
a 検査に3回出かけること、

b 検査と検査の間隔は7日程度開けること、

c 後遺障害等級は、2回目と3回目の平均純音聴力レベルの平均で認定がなされること、

d 同一ヘルツの検査値に10dB以上の差が認められると、測定値としては不正確と判断されること、

e 両耳の聴力障害は、1耳ごとに等級を定めて併合しないこと、
 
 ⇒ どうして3回も検査を受けるのか?・・・3回の検査で有意差がないことを確認、つまり再現性をチェックしているのです。

 秋葉事務所の経験からも、「検査時によって数値が乱高下する」、「調子の良し悪しが極端」、これらの被害者さんは、心因性の難聴(機能性難聴)が疑われると思います。実際、そのような判断で障害が否定されたケースがありました。また、初期検査より難聴がどんどん進行している場合は、他の原因による病的進行が疑われます。つまり、交通事故外傷との因果関係が薄れれていくと思っています。
  
 聴力検査による認定例 👉 11級5号:両感音性難聴(60代女性・東京都)
 
★ 耳鳴りとの関係
 自賠責保険の認定上、難聴と耳鳴りが併存する場合、どちらか優位な方が認定されます。そもそも、耳鳴りの認定は難聴があることが条件です。
 
 自賠責が間違えた実例 👉 14級3号⇒12級相当 異議申立:耳鳴り(60代女性・埼玉県)
 
② 語音聴力検査

スピーチオージオメーター

 
 語音聴力検査では、言葉の聞こえ方と聞き分ける能力を調べます。つまり、どれ位、はっきり、正確に聞こえているのかを調べる検査です。純音聴力検査の結果が良好でも、この検査結果が思わしくないときは、「音は聞こえるけれども、話しかけられると、なにを言っているか分からない。」 コミュケーションに支障をきたす症状が出現します。この検査が役に立つのは、
 
○ 難聴の原因を調べるとき、
 
○ 補聴器の適合性を調べるとき、
 
○ 手術による人工内耳の適応を調べるとき、
 
 などで、語音聴力検査の結果、最高明瞭度が50%以下のときは、補聴器の効果が出難いとされています。
 
 スピーチオージオメーターを使用し、語音聴取域値検査語音弁別検査が実施されます。検査値はヘルツごとに明瞭度で表示され、その最高値を最高明瞭度として採用します。これらの2つの検査、事実上は4つの検査から求められた数値で、聴力が判断されています。

 検査値はヘルツごとに明瞭度で表示され、その最高値を最高明瞭度として採用します。これらの2つの検査、事実上は4つの検査から求められた数値で、聴力を判断しています。
 
③ ④ ABR・聴性脳幹反応 SR・あぶみ骨筋反射
 


 
 蝸牛神経やそれより中枢側=脳幹の聴覚伝導路の機能を調べる検査です。ベッドで横になり、ヘッドホンから出る音に反応して出る脳波について検査するものです。純音聴力検査、耳音響放射検査、聴性脳幹反応などの検査を組み合わせることによって、難聴の原因が内耳にあるのか、それとも蝸牛神経や脳幹にあるのかを把握することが可能です。

 ABR は音の刺激で脳が示す電気生理学的な反応を読み取って、波形を記録するシステムで、被害者の意思でコントロールすることはできません。被害者が眠っていても、検査は可能です。

 先のオージオメーター:純音聴力検査と、スピーチオージオメーター:語音聴力検査で聴力の確認は可能ですが、これらの検査は被害者の自覚的な応答で判定がなされており、聞こえているのに聞こえないと回答する詐聾(さろう)を排除できません。過去には、佐村河内守さん、全聾の作曲詐欺師も存在していますから、自賠責保険・調査事務所が、先の検査結果に不審を感じたときは、他覚的聴力検査として、ABR・聴性脳幹反応とSR・あぶみ骨筋反射検査の実施を求めて来ることがあります。もちろん、この要請には、したがわなければなりません。

当時の業務日誌 ⇒ 身体障害者手帳の等級 ⑤ 聴覚 例の偽ベートーベンの話
  
 ABRを追加検査した実例 👉 9級7号:聴力障害(60代女性・大阪府)
 
 
◆ ABRをもう少し詳しく ⇒ ABR検査について (秋葉事務所:佐藤の説明) 
 
 
◆ SR
 中耳のあぶみ骨には耳小骨筋が付いています。大音響が襲ってきたときは、この小骨筋は咄嗟に収縮して内耳を保護します。この収縮作用を利用して聴力を検査するのがSRです。インピーダンスオージオメトリーで検出します。ABR に同じく、被害者の意思でコントロールはできません。
 
(4)立証で注意すべきこと ~ 検査の実際
 

 
 聴力の後遺障害等級は、純音聴力と語音聴力検査の測定結果を基礎に、両耳で6段階片耳では4段階の等級が設定されています。両耳の聴力障害については、障害等級表の両耳の聴力障害で認定、片耳ごとの等級による併合の扱いは行いません。

 眼科に同じく、耳鼻科の日常の診療は、外耳・中耳・内耳の炎症や疾患の治療などが中心です。頭部外傷を原因とする聴覚神経の損傷は本来、脳神経外科や神経内科の領域で、耳鼻科の得意とするところではありません。したがって、頭部外傷が原因の聴覚障害は、担当科の紹介で、検査のみの受診をすることになります。

 被害者の勝手な判断で、開業医の耳鼻科を受診、事故との因果関係の立証をお願いする?・・これらは、実にナンセンスで、協力が得られることはありません。本件では、担当科の紹介が前提ですが、医大系の神経耳鼻科を選択することになります。耳鼻科にお願いするのは、立証のための検査だけです。因果関係?・・これを気にしているのは損保だけですから、被害者は乗せられてはなりません。

 専門医が、難聴を治療する上で、1週間ごとに3回の検査は全く必要ありません。これは、後遺障害等級を確定させる目的の検査ですから、専門医のほとんどが承知していません。脳神経外科や神経内科の担当医にそれを伝え、1週間ごとに3回の検査を行うよう指示をお願いしなければなりません。検査結果は後遺傷害診断書に記載を受けるのですが、検査表のすべてをコピーで回収し、添付しなければなりません。

 このように、立証作業は大変なのです。後遺障害の申請前にもう一度熟読し、万全の備えで臨んでください。もちろん、お金はかかりますが、弊所を頼って頂いても良いと思います。
 
 つづく ⇒ 難聴 Ⅲ