外転神経麻痺(がいてんしんけいまひ) ⇒ 複視の障害
 

 
(1)病態

 外転神経は、外側直筋を収縮させ、眼球を外側に向かって水平に動かします。眼球の運動に関わる神経は、ほかに動眼神経、滑車神経がありますが、正常な視機能を成立させるには、脳の命令にしたがって眼球を的確に動かすことが必要となります。例えば、両眼を連動させ、常に同じ視野を捉えていなければ、モノが2つに重なって見えることになり、正しい立体感も得ることができなくなります。
 
(2)症状

 交通事故による頭部外傷で、外転神経が麻痺すると、眼球は外転ができなくなり、正常よりも内側を向く内斜視となります。側頭骨々折、眼窩壁骨折などにより、外側直筋を断裂したときも、同じ症状となります。そうなると、両眼の視線が見たい物の場所で交わらなくなり、複視の症状が現れます。複視とは、モノが2つにダブって見えることです。


 
 眼球運動神経には、

① 眼を外側=耳側に向ける外転神経、

② 眼を上や下、内側=鼻側に向ける、瞼を開け、瞳孔の大きさや水晶体の厚さを加減する動眼神経、

③ 眼を下に向ける滑車神経、の3つがあります。
 
 これらの神経に障害が起きると、複視の症状が現れることになります。
 
(3)治療

 外傷性の動眼、滑車、外転神経麻痺の自然回復率は、40~50%に過ぎないとの報告があります。通常は、ビタミンB12製剤、ATP製剤などを、6カ月を目処に投与し、それでも正面視で複視を残すものは、プリズム眼鏡の装用や斜視手術が行われています。

 斜視手術による正面視での複視消失率は、滑車神経麻痺で90~95%、外転神経麻痺が60~70%ですが、動眼神経麻痺では、50%以下となっています。治療は、医大系の神経眼科が最適です。


 
(4)後遺障害のポイント
 
Ⅰ. 外側直筋のみの障害であり、眼球運動障害としては、後遺障害等級に該当しません。
 
Ⅱ. 複視を残すときは、後遺障害を申請します。

 複視には正面視での複視、左右上下の複視の2種類があります。検査には、ヘスコオルジメーターを使用し、複像表のパターンで判断します。

ヘスコオルジメーター

 
 正面視の複視は、両眼で見ると高度の頭痛や眩暈が生じるので、日常生活や業務に著しい支障を来すものとして10級2号が認定されています。
 
 左右上下の複視は、正面視の複視ほどの大きな支障はないものの、軽度の頭痛や眼精疲労は認められます。このときは、13級2号の認定がなされます。


 
Ⅲ. 外側直筋縫合術による正面視での複視消失率は、外転神経麻痺で60~70%と報告されていますが、これでも、先進の神経眼科における実績です。手術を受けないかぎり、治る、治らないは、判断できません。さらに、この手術は、受傷から6カ月の内服による保存的治療と経過観察後に、実施されています。したがって、現実的な解決としては、症状固 定⇒10級2号の獲得を優先しています。手術は、損害賠償が確定してから、健保適用で受けることになります。
 
 なお、13級2号に該当する複視では、手術の選択はありません。これ以上は、治せないからです。周辺部の複視に対しては、眼だけでなく、顔を向けてモノを見ることで対応していきます。
 
 次回 ⇒ 滑車神経麻痺