事務所の売り上げ表を見ては、毎月襲われる症状でもあります。
頭部外傷後の「めまい」について、失調・平衡機能障害と併せてまとめます。
(1)病態
めまいは、通常、内耳、内耳神経、脳幹の前庭、小脳の障害で発症すると考えられています。人間の身体の平衡機能は、三半規管や耳石の前庭系、視覚系、表在・深部知覚系の3系統から発信された情報を小脳および中枢神経系が統合して左右のバランスを取り、維持されています。したがって、平衡機能障害を来す部位は上記の3つの系統以外にも脳幹・脊髄・小脳の中枢神経系が考えられるのです。
失調とは運動失調のことですが、平衡機能障害によって複雑な運動ができない状態のことと言われており、深部知覚、前庭、眼、小脳、大脳の障害によって発症すると考えられます。
(2)症状
側頭骨骨折、頭蓋骨陥没骨折、頭蓋底骨折など頭部外傷後に、めまいを訴える被害者さんを何人も経験しています。頭部の器質的損傷を原因としためまいは、中枢性めまいとして、後遺障害の対象となっています。大多数は、側頭骨の骨折により、三半規管や耳石の前庭系が損傷されたことで、平衡機能障害を発症しているのですが、以下の検査を受けて立証しなければなりません。
(3)診断と検査
A:耳鼻咽喉科、めまい外来などでの検査
① ロンベルグテスト
両足をそろえて開眼でまず立たせ、ついで閉眼させ身体の動揺を調べます。
② マンテスト
両足を一直線上で前後にそろえて立たせ、開眼と閉眼で検査します。
③ 片足立ち検査
文字通り、片足立ちの様子を観察します。
④ 斜面台検査
斜面台上に立たせ、前後および左右方向に斜面台を傾け、転倒傾斜角度を測定します。15°未満での動揺は異常とされています。
⑤ 重心動揺検査
前後左右への重心の動揺をXY軸レコーダーで記録します。
B:眼科での検査
眼に現れる平衡機能障害は、自覚的にはめまいとなりますが、めまいの検査=偏倚検査には、以下が挙げられます。代表的には眼振検査です。これら検査は、すべての眼科に設備があるわけではありません。大学病院の眼科やめまい外来を頼ることになります。
① 足踏み試験
両腕を前方に伸ばし、閉眼で足踏みを100回行わせる。回転角度が91度以上は異常とされます。
② 遮眼書字試験
マーキングペンなどを持ち、手や腕が机に触れないようにして、まず開眼で、ついで遮眼の状態で氏名などを縦書きさせる。
③ 閉眼歩行検査
閉眼の状態で、8~10歩前進と後退を繰り返させると、一側の前庭障害の被害者では、その歩行の軌跡が星状となります。
④ 眼球運動検査、自発眼振検査、頭位眼振検査
さらに、温度、回転、電気刺激による眼振検査など、迷路刺激眼振検査があります。
◆ ビデオ式眼振計測装置
<眼振検査でめまいを立証した例>
👉 12級13号:目眩症(70代男性・静岡県)
👉 14級9号:めまい(50代男性・群馬県)
めまい・平衡機能障害・失調で後遺障害が審査されるのは、深部知覚、前庭、眼、小脳、大脳の障害が立証されることが前提であり、現実的には、頭部外傷を原因としたものに限られています。
外傷性頚部症候群や脳脊髄液減少症などで、めまいを訴えても相手にはされません。自賠責保険の後遺障害審査では、受傷から症状の一貫性がれば、14級9号が限界となります。上記の12級、14級の実例から、その違いをお解り頂けると思います。
「めまいの類型」につづく ⇒ 頭部外傷 ⑦ めまい(めまい・失調・平衡機能障害)Ⅱ