昨日の実績投稿の解説に付随して、保険会社が定める治療期間について、意見を加えたいと思います。


 

90日後に打ち切られる被害者

 
 交通事故で被害者となりました。診断名は頚椎捻挫、いわゆる、むち打ちの類です。相手の保険会社は治療費を病院に直接払ってくれます。これを「一括払い」と呼んでいます。被害者さんは治療費の立替なく、安心して通院できます。そして、2か月を超えた頃、「症状はいかがですか?」⇒「そろそろ、治療は終わりませんか?」⇒「弊社としては3か月をもって治療費の対応を終わりたいと思います」・・このように、3か月の治療費打ち切りを徐々に切り出してきます。

 一方、被害者さんがそれまでに治れば、何ら問題はありません。しかし、中には神経症状がしつこく残り、理学療法を継続したい方もおります。そこで、「ふざけるな!治っていないのに打ち切りとは何事だ!」とケンカになります。治るまで治療費を払わせることは、被害者の当然の権利だと思っているのです。しかし、それは当然の権利ではありません。保険会社にしてみれば、便宜上、一括払いをしているに過ぎません。これは、裁判できっちり白黒ついています。保険会社は独自の判断で、いつ治療費を打ち切ってもなんら罪はないのです。

 もちろん、治療費支払いの継続を巡って争うことはできます。しかし、勝ち負け定かではなく、半年以上かかるかであろう裁判へ・・現実的ではありません(現実にやる被害者さんもおりますが)。その間、決着がつくまで、当然に治療費は自腹です。ここで、被害者さん達は、「100日後に死ぬワニ」ならぬ、「90日後に打ち切られる被害者」となります。


 

打撲捻挫は3か月間! の理由とは?

 
 3か月とは実にざっくりした数字です。患者個々に症状の程度は違います。症状の軽重や、患者の都合から、期間を一定に類別すること自体に無理があります。しかし、そんな悠長に考えていては、保険会社の仕事は進みません。SC(支払い部門)の職員によると、整形外科の医師が想定する、傷病名からの平均治療期間を定める基準が存在し、それを根拠に判断しているとのことです。どこどこの骨折の場合は〇か月等々、その資料をみたことがあります。十把一絡げ(じっぱひとからげ)の基準ですが、一応、臨床を重ねたデータから医学的に定めたものです。これを建前とします。

 では、根拠はそれだけでしょうか? 実は、任意保険会社(以下、任意社)の一括払いとは、治療費や休業損害、傷害慰謝料など支払った分は、自賠責保険からきっちり回収できます。つまり、その限度額である120万円までは、任意社のお腹は痛まないのです。すると、120万円まではわりと鷹揚に治療期間をみますが、休損や慰謝料を含めた金額の合計が限度額に近づく・・その期間がおよそ3か月であることに気が付きます。私は、SC勤務の経験のある秋葉は、任意社の本音はここにあると思ってしまうのです。


 

SC職員の反論

 
 かつて、保険代理店さん向けの研修講師を務めたセミナーで、この本音に触れました。代理店さんや社員(管理職、主任クラス)は苦笑いを浮かべていましたが、たまたま参加していた平のSC職員さんは憤怒の形相です。その怒りの反論とは、「(治療期間は)医学的見地・資料から判断しているのであって、自賠責の限度額で打ち切り判断するなど、ありえない」とのことです。確かに、そのように研修で任意社から教わったのでしょう。「秋葉はなんてゲスの勘繰りを言うのか(怒)」との気持ちはわかります(この職員さん、小学校の女子学級委員長にいるタイプに思えました)。

 しかし、再反論しますが、では、追突でコツンと当たった程度、念のため1回お医者さんに診てもらいましょう、と言った被害者さんを例にとります。本人は大したことはないと思っていますが、医師が念のため数回通うよう指示したので、1か月程度通うなどよくあることです。また、周囲が「むち打ちは後からでるよ」、「被害者なんだから、しばらくは診てもらった方がいいよ」など、ずるずる通院が続くケースです。この場合、保険会社もたった2~3回の通院で打ち切り打診はしてきません。割と鷹揚に一括払いしてくれます。3か月までなら・・。

 この被害者さんに対して3か月も治療費を払うのは、おかしくないですか? 医学的見地によって、ざっくり3か月までOKとはいかがなものでしょう、常識から考えても、過払いではないでしょうか。私はここに任意社の本音(自賠責保険の範囲ならいいか)をみてしまうのです。もちろん、この被害者が2か月を超える通院となれば、自腹支出の危険、否、医学的見地を理由に打ち切りを迫るわけです。
 

まとめ

 
 何事も本音と建て前があるものです。まず、まじめなSC職員の言う通りでよいと思います。しかし、大人の事情の存在は否定できないものです。したがって、被害者さんも、任意社の事情を知り、自身が置かれている客観的立場を理解しなければなりません。納得のいく解決を目指すのであれば、昨日の実績投稿のように冷静に対処すべきで、ここで怒りを爆発させては、必ず痛い目をみます。事実、治療費の継続で徹底抗戦の姿勢を示せば、任意社は弁護士を介して、「債務不存在確認訴訟」(=これ以上治療費が欲しくば、法廷で会おう)を提起、いよいよ牙をむいてきます。

 そのような戦いに理はありません。これは任意社が、”不当な通院を続ける悪質な被害者を懲らしめよう”としている裁判です。任意社は絶対に勝てる裁判と踏んでいます。事実、そのような訴訟のほとんどで、被害者は懲らしめられています。

 真に症状に苦しむ被害者さんは、進んで悪者になることはありません。別の方策をとるべきです。その策こそ、昨日の実績投稿をご一読下さい。本日はその前提知識を解説しました。