これは保険会社のSC(支払部門)での格言で、正確には「重傷者の場合、物損の支払いで渋るな。渋ると、弁護士を入れられ、後の人身の支払いが増大してしまうよ」との意味です。保険会社にいた頃に指導を受けました。
物損、多くは車やバイクの修理費を指します。その修理費や全損額、過失割合・・通常、保険会社はこれらで厳しい提示をしてきます。しかし、それは物損のみの被害、あるいはむち打ち等の軽傷者の場合です。対物賠償の支払増大は、直接に任意保険会社の懐を傷めます。対して、軽傷の場合の人身損害の支払い分は、自賠責保険からほとんど回収できます。そのような事情から、物損は厳しいが、人損(3ヶ月以内の通院や慰謝料)については寛容と言えます。
それが、複数の骨折や重度の障害など、後遺障害認定が見込まれる重傷者(死亡も)であれば逆となります。もちろん、保険会社は後遺障害の支払い額も自賠責内でほとんどの支払額を回収する予定ですが、弁護士を入れられたらそれが一変、2倍3倍、あるいはそれ以上の賠償金支払いを覚悟しなければなりません。だからこそ、車の修理費や過失割合でケンカを避けたいのです。仮に修理費が50万円として、過失割合について、20:80の争いの場合を想定します。10%はたった5万円です。ここから15:85に5%譲歩したとしても、保険会社にとって25000円の支払い増に過ぎません。全損の評価額も、被害者が納得してくれるなら、5万や10万負けてあげても高が知れています。
もし、この物損交渉で強硬姿勢をとれば・・・被害者さんは弁護士を入れてきて、その代理人弁護士から「後遺障害は12級だから慰謝料290万円頂戴ね」と請求が来ます。100万円程度で示談を目論んでいた担当者の計画が頓挫します。(下表を参照)
後遺障害部分の慰謝料 単位万円 |
|||||||||
等級 |
自賠責 |
任意 |
地裁 |
等級 |
自賠責 |
任意 |
地裁 |
||
1 |
1100 |
1600 |
2800 |
8 |
324 |
400 |
830 |
||
2 |
958 |
1200 |
2370 |
9 |
245 |
300 |
690 |
||
3 |
829 |
1000 |
1990 |
10 |
187 |
200 |
550 |
||
4 |
712 |
900 |
1670 |
11 |
135 |
150 |
420 |
||
5 |
599 |
700 |
1400 |
12 |
93 |
100 |
290 |
||
6 |
498 |
600 |
1180 |
13 |
57 |
70 |
180 |
||
7 |
409 |
500 |
1000 |
14 |
32 |
40 |
110 |
※ 自賠責の1~2級で額の下段( )は別表Ⅰ「介護を要する場合」です。
※ 任意保険の1~3級で下段( )は「父母、配偶者、子がいる場合」です。
賢明な被害者さんはもうお解かりですね。保険会社の思惑さえ理解すれば、重傷者は物損交渉をかなり有利にまとめることができます。私達と連携弁護士も、重傷者の場合は、まず、本人交渉で損害額・過失割合で相手損保の譲歩を引き出します。物損示談の後に、人身部分の賠償交渉の段階で満を持して弁護士登場! がっつり強交渉を開始します。物損で有利にまとめた過失割合をも、規定路線として踏襲します。
以上、対保険会社交渉の策の一つです。優秀なネゴシエーターを目指す被害者さんは、相手(保険会社)の思惑を読んで交渉して下さい。まぁ、その間、私達は帷幕の中、軍師に徹することになりますね。神算鬼謀、智謀百出、たくさんの策を持っていますよ。