(4)外分泌機能と内分泌機能の両方に障害が認められる場合
服することができる労務が相当な程度に制限されると考えられるところから、9級11号が認定されています。
(5)膵臓損傷では、膵臓の切除術が実施されることが一般的ですが、 術後は、腹部にドレーンが挿入され、膵液の漏出に対応しています。
膵液は、脂肪、蛋白、炭水化物を分解するための消化酵素を含んだ液です。 重症の膵液瘻では、多量の膵液漏出があり、電解質バランスの異常、代謝性アシドーシス、蛋白喪失や局所の皮膚のただれ、びらんが生じ、膵液ドレナージと膵液漏出に伴う体液喪失に対しては、 補液、電解質を供給するなどの治療が必要となります。つまり、このレベルでは、治療が必要であり、症状固定にすることはできません。
しかし、軽微な膵液瘻で、治療の必要性はないものの、難治性のものが存在しているのです。これが続くと、瘻孔から漏れ出た膵液により、皮膚のただれ、びらんを発症します。 軽度な膵液瘻により、皮膚にただれ、びらんがあり、痛みが生じているときは、局部の神経症状として12級13号、14級9号のいずれかが認定されています。
※ 代謝性アシドーシス
ヒトが生存していくには、体内の酸性とアルカリ性を、良いバランスに保たなければなりません。 これを、酸塩基平衡と呼ぶのですが、具体的には、ph=水素イオン濃度が7.4の状態です。 酸は、酸性、塩基は、アルカリ性、平衡は、バランスをとることなのです。 pHの数値が7.4以下となると、酸性に傾く=アシドーシス、以上では、アルカリ性に傾く=アルカローシス状態となります。 酸性の物質が体内に増えればアシドーシスとなるのですが、アルカリ性の物質を大量に喪失しても、酸性に傾きます。
ひどい下痢で、アルカリ性の腸消化液を大量に喪失すると、pHは酸性に傾く、アシドーシス状態となり、 皮膚は弱酸性、腸液はアルカリ性ですから、下痢でお尻がヒリヒリするのです。ヒリヒリは、ただれることですが、医学となると、びらんと難しく表現するのです。
(6)膵臓全摘、糖尿病型でインスリンの継続的投与が必要なもの
交通事故では、不可逆的損傷も予想され、上記はあり得ます。交通事故で肝臓が破裂し、修復が不能のときは死に至ります。ところが、胆嚢や膵臓の破裂では、全摘術が行われているのです。
膵臓全摘で生存するには、インスリン注射を継続しなければなりません。 2006年7月、作家の吉村昭さんは、膵臓癌により79歳で亡くなりましたが、 同年の2月に膵臓全摘術を受け、全摘後は、4時間おきにインスリンの注射を続けました。労災保険では、膵臓全摘、糖尿病型でインスリンの継続的投与が必要なもの治癒とすることは適当でないと結論しています。
では、自動車保険では、どうでしょうか? 症状固定を先送りにすれば、本件交通事故の解決も、自動的に先送りとなります。これを保険屋さんが認めるとも思いませんが、被害者としても、宙ぶらりんでは、困ります。やはり、示談書に付帯条項を盛り込み、いずれかの時点で、症状固定を決断することになります。この場合の等級は、残存した後遺障害の労働能力におよぼす支障の程度を総合的に判定することとされており、具体的な認定基準は、定められていません。
そして、膵臓全摘であっても、軽作業を前提に、就労復帰されている例もあります。 全摘だから、無条件で別表Ⅰの1級2号ではなく、個別に支障を立証する必要があります。