私達は交通事故外傷を担当しますので、整形外科への同行が圧倒的です。それ以外では、総合的にリハビリ科、脳外傷の場合は脳神経外科、排尿関係は泌尿器科、目鼻耳口の感覚器障害には眼科、耳鼻科、口腔外科などでしょうか。どの科であっても、慣れたもので特に緊張はありません。
しかし、過去、最もアウェイ感を感じたのは、産婦人科です。
例として、若い女性の恥坐骨骨折ですが、画像を観ると仙骨と腸骨が歪んでいるような・・仙腸関節障害の疑いを持ちました。将来の分娩に対する不安もあり、早速、産婦人科医の見解を求めて病院同行しました。
待合室では、お腹の大きなお母さん達がぐるりと囲み、幸せムードに溢れています。これだけで、すでに場違いな雰囲気です。しばらくすると、看護師さんが被害者さんに、「今日はどうしましたか?」と症状を聞き取りに近づいてきました。妊娠に関する受診ではないので、本人が答えるも、詳細は私が説明するつもりでした。ところが、看護師さんは真っ先に、私に「お父さんですか?」と聞いてくるではないですか。
当然、「いえ、違います」と回答した瞬間です、周囲の空気が一瞬揺らぎました。スマホ操作や雑誌を開いていたママさん達、明らかに耳がこちらに集中しています。まるで、待合室の空気に「お父さんではない?・・じゃあ、お前は何なんだ?」と文字が浮かぶようです。一気に週刊誌のゴシップ記事モードにスイッチが入りました。
周囲の聞き耳を意識せざるをえませんが、小声で私の立場と交通事故外傷に関すること、ゴニョゴニョ伝えました。それなりに珍しい受診なのか、看護師さんの質問も止まず、長々と説明が続きました。何も気後れすることはないのですが、いつもの堂々とした姿勢がなりを潜め、まるで、訳ありのカップルにされた気分です。かつて、これほど居心地の悪い病院同行はありませんでした。サッカー選手がアウェイでイエローカードをもらう心境は、このようなものでしょうか。幸い、レッドカードまでにはならず、つまり、病院を追い出されることなく医師面談を達成、無事にミッションを完了しました。
ちなみに結果ですが、仙腸関節障害は深刻なものではなく、「心配であれば数ヵ月後にきてね」との診断でした。
それ以来、産婦人科の病院同行は苦手感があります。まだまだ「私も未熟」と感じた次第です。