手術中に心肺停止などの循環器系のトラブルから、低酸素脳の状態になると、予後、様々な障害が残ります。
低酸素脳とは・・・循環不全または呼吸不全などにより,十分な酸素供給ができなくなり脳に障害をきたした病態を低酸素脳症という。低酸素脳症には,通常,組織への血流量の低下(虚血)と,血液の酸素運搬能の低下(低酸素血症)の2つの病態が混在していることが多いため,低酸素性虚血性脳症(hypoxic-ischemic encephalopathy)とも呼ばれる。原因として,心筋梗塞,心停止,各種ショック,窒息などが挙げられる。心停止により脳への酸素供給が途絶えると,意識は数秒以内に消失し,3~5分以上の心停止では,仮に自己心拍が再開しても脳障害(蘇生後脳症)を生じる。
<日本救急医学会さまより>
本件も不幸にして、障害が残ってしまいました。交通事故の障害としては、二次的な障害になりますが、因果関係は”事故の手術による”直接的なものですから、自賠責は等級認定します。高次脳機能障害では毎度お馴染みの作業ですので、ポイントを抑えた作業になりました。
7級4号:低酸素脳・神経系統の障害(20代男性・東京都)
【事案】
歩行中、自動車の衝突を受け、骨盤を骨折した。自動車は逃走したが、後に逮捕され、幸い任意保険の存在を確認できた。
内臓損傷は数箇所に及び、大腸・小腸の切除と一時的な人工肛門の造設を含め、腹部に数度の手術を施行した。不幸にも、最初の術中に低酸素脳の状態が生じ、脳にも障害を残すことになった。
低酸素脳を原因とする「神経系統の機能又は精神の障害」は、弊所初の受任である。
【問題点】
主な症状は、軽度の言語障害と易疲労性、体感バランス・筋力の低下、4肢への軽度麻痺が確認できた。加えて、精神面でもダメージがあり、落ち込む、鬱になるなど、派生する症状も見逃すことはできない。
【立証ポイント】
深刻な知能・記憶の障害はなく、従前と変わらないことから、高次脳機能障害との診断名は採用されていない。それでも、立証の手法は高次脳機能障害を踏襲することなる。リハビリ科の主治医と面談を重ね、神経症状を大きく2つに分けて、立証作業を進めた。
1、運動機能の低下
→ 医師と日常生活動作検査表を作成し、麻痺の詳細を明らかにした。加えて、言語障害は言語聴覚士の先生と協議、リハビリ過程で実施したディサースリア検査(発声発語器官の検査)に加えて、SLTA検査をリクエスト、”話し方がゆっくりになった”点について客観的データを揃えた。
2、精神機能の低下
→ 既にWaisⅢ(知能)、WMS-R(記憶)、CAT(注意機能)、BADS(遂行機能)が実施されていた。追加検査は必要ないと判断し、検査結果と実際の症状を文章7ページにまとめた。あくまで本人の主観的データ(自己判断、自己申告)に過ぎませんが、審査側にしっかり伝えなければならない、重要なものと考えています。
SLTA検査シート(参考)
軽度の言語障害、四肢麻痺、易疲労性、そして、精神面での意欲・活動の低下が認められ、総合的な判断から7級に押し上げた(臓器の障害と併合され、併合4級に)。