高次脳機能障害の症状で、多くの患者さんに共通するものは、記憶障害や注意・遂行機能障害です。その他、言語障害や失認・失行など、様々な障害があります。いずれも、各種の神経心理学検査から、ある程度の客観的な所見(データ)を得ることが可能です。

 しかし、客観的なデータと言う意味では、性格変化が最も立証の工夫が必要と思います。怒りっぽくなる、逆に細かく神経質だった人が穏やかになる、他にも以前の性格が逆転し、明るく快活になる、暗く閉じこもりがちになる、子供に返る、趣味・嗜好が変わるなど、脳へのダメージで性格が変わることがあります。これらは、検査で確認できるものではなく、事故前後の比較に尽きます。患者の元々の性格を知らない医師では前後比較ができませんので、家族からの聞き取り、観察がすべてとなります。

 本件も一見、深刻な障害には見えない被害者さんでしたが、家族にとって、性格が変わってしまった事は大変な変化なのです。受任からおよそ10ヶ月間、ご本人とご家族に付き添った結果、自賠責に性格変化を克明に伝えることができました。
 
 被害者にぴったり寄り添わなければ、わからないと思います。
 

5級2号:高次脳機能障害(50代男性・埼玉県)

【事案】

自転車で走行中、併走する自動車と接触、転倒した。頭部を強打、意識不明状態で救急搬送されて、脳挫傷、くも膜下出血の診断となる。

 
 <参考画像:右前頭葉への脳挫傷>

 
【問題点】

本人との面談時、外見上はとても元気そうで、職場や相手方保険会社の担当者からも症状は軽く見られていた。ケガをした本人も自分はもう大丈夫だと元気さをアピールしていた。しかし、家族の話を聞いてみると、本人が自覚しきれていない症状が多くあり、とても仕事復帰できる状況ではなかった。

【立証ポイント】

実施した神経心理学検査を病院同行で確認し、自覚症状(家族から確認していた症状)と表れていた検査数値と比較し、家族が重くとらえすぎている症状や、逆に軽く感じすぎている症状を浮き彫りにする作業が続いた。

とくに、神経心理学検査で判別が難しい、性格変化がクローズアップされた。事故前よりも性格が明るくなりすぎた事や、幼児退行、事故前から持っていた趣味への関心がまったくなくなったこと等が明らかになった。家族は性格が明るくなった面(周囲からは歓迎されうる性格変化?)について違和感を覚え、戸惑っている様子だった。そこで、弁護士事務所での面談や病院同行でのエピソードを採用、これらをもとに、日常生活状況報告書をまとめて被害者請求をした。

その結果、主治医の予想を上回る5級2号が認定された。なお、本件では味覚・嗅覚障害もあり、それぞれ14級相当が認定され、併合5級となった。