(3)秋葉事務所の場合

 最初から「脊髄損傷」の診断名に懐疑的です。相談会での経験上、診断名に脊髄損傷とあっても、70%は脊髄損傷ではなく、外傷性頚部症候群の範疇となる神経症状でした。そもそも、町の個人開業医の診断力にそれ程、期待していません。また、持参頂いたMRIから、損傷を思わせる高輝度所見を確認するまでは信用できません。

(脊髄損傷の依頼者さまから許可を得て掲載)

 そして、その場でホフマン・トレムナー検査を試み、脊髄損傷の陽性反応をみます。これらの所見が訴える自覚症状と一致して、初めて診断名を信じます。

 その結論からの対処は、以下3つに分かれます。
 
① 真性の脊髄損傷

 不可逆的、つまり、治らないものです。医師面談を重ね、検査結果を回収、脊髄損傷の程度を徹底的に精査すべく、脊髄損傷の判定結果、日常生活状況報告などを収集・作成、膨大な医証をもって後遺障害審査に備えます。そして、間違いのない等級認定を固めてから弁護士につなぎます。 (その実例⇒脊髄損傷の分類と等級
 
② 脊髄損傷の所見に乏しい、または、重度の外傷性頚部症候群の場合

 脊髄損傷の診断や治療は、本来、町の整形外科の領分を越えます。脊髄損傷が不明瞭ながら、頚部神経症状が重篤であれば、国内トップレベルの脊椎の手術数をこなす専門医の診断へ誘致します。つまり、生活に支障のある症状では、前方固定術や椎弓形成拡大術などで、頚髄への圧迫を除去する必要があります。その前に、再度、精密にMRI、ミエログラフィー(脊髄腔造影検査)などの検査を重ねた上で、慎重に手術適用を検討します。

 過去、脊髄損傷ではなく、頚髄前角障害、神経根症、後縦靱帯骨化症などの診断名に改められ、自賠責の12級、11級認定に導いたことがあります。これを広義の脊髄損傷とするか、脊髄損傷と区別するか、医師の意見は分かれます。この臨床上の診断名は別として、自賠責や労災の認定上では、「神経系統の機能に障害を残すもの」として症状の重さを計ることになります。そして、多くは年齢変性を伴うものであり、明確な所見なき神経症状は、総じて難しい立証になります。

 何事も例外がありますが、画像所見のない重傷例も存在します。これは自賠責や労災の基準を飛び越えますので、専門医の緻密な検査と確定診断をもって訴訟決着を目指します。しかし、そのようなケースは非常に稀であることを強調しておきます。
 
③ 頚椎捻挫の域を出ない、頚椎症の場合

 それでも半年~数年間、上肢のしびれに悩まされます。真面目にリハビリを継続させ、MRI検査を実施、症状固定時には、神経学的所見を落とし込んだ診断書を作成します。しっかり、14級9号の認定を受けて、実利ある解決を目指す必要があります。脊髄損傷の診断名に振り回されず、あるべき解決に落ち着かせなければなりません。
 
 ここまで緻密に検証されては、依頼者も納得して解決へ舵を切ります。
 
 交通事故の専門家は、初期の軽率な診断名臨床上に限定した判断あくまで予断的な診断、もちろん誤診も含め、これらを真の診断名、あるいは賠償上の現実的な判断と区別する必要があるのです。一歩間違えると、(1)の弁護士さんの例のように、診断名が迷走、事故解決は遠のくばかりです。