鎖骨の骨折で肩関節の可動域制限が残る場合は、折れた場所と癒合後の変形・転位の残存が決め手になります。

 鎖骨骨折のすべてに肩関節の可動域制限が残るわけではありません。秋葉事務所では、日夜、画像とにらめっこ、可動域制限の原因を追及・把握した上で、申請に望みます。本件もその原則を踏まえての作業でしたが・・

 またしても、医師による肩関節・可動域の計測が不正確です。信じられないと思いますが、医師の書いた診断書の半分位は、間違いや過不足があります。私は1千枚を越える診断書を見てきたと自負していますが、その経験、印象からそう思っています。恐らく自賠責調査事務所の方々も、口に出せずとも、そのように思っているはずです。
 
 まず、原則論ですが、医療調査の基本は正しい情報の集積を達成し、診断書の内容を実状に近づける努力をするべきでしょう。しかし、あえて修正を依頼せず、間違いを承知で提出することもあります。本例はまさにその典型ではないでしょうか。不正確な可動域の計測が、大勢に影響せず、むしろ、自然な等級に導かれるなら、そのままにすることもありなのです。また、恐れずに言いますと、多少間違った診断書こそ、リアルなのです。完全無欠の診断書など、被害者に肩入れし過ぎた恣意的なものになって、かえって審査側に疑われてしまうのではないか・・何事も”過ぎたるは、なお及ばざるが如し”ではないでしょうか。

 この辺の機微を理解することが、被害者側の医療調査の醍醐味と思います。

深いなぁ・・

12級6号:鎖骨遠位端骨折(40代男性・東京都)

【事案】

自転車搭乗中、前方から直進してきた自動車に衝突され受傷。直後から肩の痛みに悩まされる。

【問題点】

相談に来られた時には、既に後遺障害診断書も記載済みであった。また、可動域制限が残存していたが、癒合状態も良好で傷病名と可動域の因果関係やMRI検査、3DCT等必要な検査を行っていなかった。医師の判断で、5ヶ月もの間プレート固定をしていたため、毎日のようにリハビリに励んでいたが、拘縮によって可動域制限が起きてしまったようである。

【立証ポイント】

すぐに病院同行し、MRIと3DCT検査の依頼に伺う。症状固定後の検査依頼であったため、怪訝な様子ではあったが、大きな病院なので即日3DCT検査、後日MRI検査も実施していただいた。やはり、3DCTやMRI検査でも可動域制限が起こりうるような有力な所見は得られなかった。後遺障害診断書上の健側の可動域の数値が不可解であったが、修正をしてしまうと10級の数値になってしまうため、あえて間違えのまま12級の数値で申請を行った。弊所は疼痛での14級9号を予想していたが、予想を超えた「可動域制限での等級」が認定された。健側の数値を正常値に修正していたら・・つまり、半分しか腕が上がらない(10級)症状で申請したら、自賠責・調査事務所の怒りを買って「非該当」の結果もあり得たのではないか?

上肢の機能障害

両上肢の用廃
1 級 4 号
1上肢用廃
5 級 6 号

・肩・肘・手関節の完全強直、
・健側に比して患側の可動域が 10 %以内に制限され、手指
の障害が加わるもの、
・肩・肘・手関節の完全麻痺、
・さきに近い状態で手指の障害が加わるもの、

2関節の用廃
6 級 6 号
1関節の用廃
8 級 6 号

・関節の強直またはこれに近い状態にあるもの、
・神経麻痺等により自動運動不能またはこれに近い状態に
あるもの、
・人工骨頭または人工関節を挿入したもの

著しい障害
10 級 10 号

・健側に比して患側の可動域が 2 分の 1 以下に制限されて
いるもの、

・1上肢の前腕の回内・回外運動が健側に比べて 4 分の 1
以下に制限されたもの、

機能障害
12 級 6 号

・健側に比して患側の可動域が 4 分の 3 以下に制限されて
いるもの、

・1上肢の前腕の回内・回外運動が健側に比べて 2 分の 1
以下に制限されたもの、

 
被害者に残存した障害を正しく立証することは当たり前だが、どこか「人の機微を読む」ことも等級認定には必要ではないかと考えてしまう。後遺障害は知れば知るほど奥が深いと改めて感じた案件となった。