度々、テーマにしてまいりました、人身傷害ですが、近時の約款改定で各社、様々な変更を進めています。
今夏の弁護士研修でも取り上げた、不合理な約款の一つを挙げます。これは些末な改定ではすまない内容です。何せ、発売以来、最大の売りにしてきた、「自分の過失分を引くことなく、損害の全額が補償される」=夢の保険が壊れたからです。以下の表の国内社、及び通販系ではアクサ、SBI、チューリッヒが類似の約款としています。
加害者に賠償金を請求する前に、人身傷害保険で自己の慰謝料や休業損害を先に受け取ることができます。そして、後遺障害が残れば、その慰謝料と逸失利益も相手と示談して賠償金を得る前に全額が受け取れる、非常に安心感に溢れる保険でした。
しかし、以下の会社は、「相手がいる場合、(相手からその責任分をいずれ受け取れるのだから)自己の過失分しか払いません」としました。相手に任意保険がある場合、いずれ、相手から相手の過失分に相当する賠償金を受け取れるとは思いますが、先行して全額の補償が得られないことになります。
下表は「賠償先行」、「人傷先行」の場合、それぞれ裁判基準か人傷基準かを一覧表にしたものです。
何のことやらわからない方は、こちらで復習を ⇒ 人身傷害特約 支払い基準の変遷
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平成24年2月最高裁判決「差額説」から、人身傷害を先行して請求することにより、後に裁判基準で賠償金を得たとして、その裁判基準の損額額全額を上回る金額だけを人傷社に返せば良いことになりました。
結果として、人身傷害で裁判基準の賠償額を得るために、この「人傷先行」がスタンダードになった感があります。しかし、人傷先行しても「過失分だけ」しか払われなければ、この策は頓挫します。改めて「人身傷害は保険会社の基準で払うのだ!」と、保険会社の強い意識を感じます。
また、赤字の通り、先行して人身傷害の支払いを受け取る場合、支払われる自己の過失分は人身傷害の保険会社(以後、人傷社)と協議して決めることになります。その協議が整わなければ、なんと、「弊社(人傷社)を訴えて下さい」「調停もOK」としたのです。
これは人身傷害の歴史で最悪の改定と言わざるを得ません。しかも、誰に知られること無く、静かに改定されていました。事実、保険を売っている代理店さんですら、まったく認識していないルール変更のようです。
つづく